19
「お嬢様、そろそろ起きて頂けませんか?」
『後、十分。いや五分……』
「駄目ですよ、三回目ですよ」
無理矢理布団を剥がされて、カーテンを開けられる。
『うっ!眩しいぃ。溶けるぅ』
「貴方様が言うと冗談に聞こえませんよ」
『んんっ、おはよ。ヤコ今何時ぐらい?』
「十二時です。私はこれから買い出しに」
『じゃあ我は布団で二度寝を』
昔話の序盤みたいな会話になったけど、気にせず布団に戻った。のだけれど、何だか冷たい目線を感じる。何か?怖いんだが。
「お嬢様、あんまり説教じみた事は言いたく無いのですが……そろそろ外出しては如何でしょうか」
外、外か。確かに最後出たのは数週間前。ご飯を買いに行っただけだ。
『確かに……』
出た方が良いのかもしれない。でも、面倒臭い。
「……ですよね面倒くさいですよね。ええ、知ってました」
?どう言う事?
「さぁ、私も良く分かりませんが、お嬢様の考えている事が分かるんですよ。因みに今考えている事は、"如何にかして出かける話を有耶無耶に出来ないかな"ですよね」
怖っ。
「怖くないですよ」
無表情でそう言われたらますます怖い。いや、笑顔で言われても怖いけどさ。
「で、どうします?出かけないんですか?それなら私も手段を問いませんよ」
平行線で話が進まないからか、ヤコはポケットに手を突っ込み出した。一体何をし始めるのか。
「あった、ありました。これ、何だか分かります?」
ヤコが近くに来てその物体を広げる。ポッケに入った割にはシワクチャになってないその物体は……スカートだった。しかも見覚えがあると思ったら、我が二百年前に履いていた奴だ。
「何でそんな物持ってるんだって顔ですね、メイドとして当たり前ですよ。仕方なくですね」
ふぅ……何とか隠せたわね。危なかった。此処でバレたら私は恥ずか死するかもしれない。二百年前からこの想いは、ずっと墓場まで持っていくと決めているんだから。いつも通り表情を崩さず、クールで頼れるお姉さんメイドとして。
「ちょっと履いて見て貰えませんか?」
『はいはい……別に良いけど。我の美ボディの前では、あれ?お腹が』
渡したスカートに足を通すのをチラ見しつつ、音を楽しむ。そして私は確信する。やっぱりお嬢様は太った。周りから見れば誤差でも、私にはすぐ分かる。その証拠にチャックが上がらない。
『うぅっ……分かったよ!ヤコ。太ったって言いたいんだろ!』
「ええ、その通りです。だから私と一緒に買い出しに行きませんか?今なら桜も咲いてて綺麗ですし。まぁ、無理にとは言いませんが」
『分かったぁ……行くぞ』
素早く血を纏い、パーカーへ早着替えしたお嬢様はのそのそと玄関へと移動した。
デートだ。と言う言葉は私の胸の中にだけそっと収める事にした。
『いやぁ!桜が綺麗だなぁ。散って地面は絨毯みたいになってて手綺麗だし』
外に出れば、出たでお嬢様はスキップしそうなテンションでそう笑う。昔から変わらない。そんなお嬢様に対する私の気持ちも変わる事は無い。
「これからもよろしくお願いしますね、お嬢様」
『ん?何?』
いつの間にかダッシュしたのか。あっという間に姿が小さくなっていた。子供じゃ無いんだから……と溜息をつきながら私はその小さな背中を追いかけた。
あーもう可愛いなぁ。ずっとずっと一緒にいて見守っていたいなぁ。好き
『ん?』
「どうしました?」
『いや、俗に言うクソデカ感情的な物を感じた気がしたんだ。まぁ、気のせいだな。我にそんなの持つ人なんていないだろうし』
「どうですかね?私は……」
私は今日も表情を変えず、お嬢様の後ろを歩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます