18


『……んぁ』


そろそろ起きるか。のんびりと身体を動かして布団から出る。


「動くな」


後ろからそう声がした。無意識に手を上へ上げて、抵抗はしないポーズを取る。……何が起きたんだ?


「吸血鬼の王、ヴァンパイアロードだな。こちらの指示に従って動いて貰おうか」


そうして我は手をバンドみたいな奴で、固定され目隠しをされた。


「こっちだ」


声に従い、暫く歩く。まるで軍隊の様に変わらない足音が後ろから聞こえる。と言ってもその声は、機械音声で人間味が無い。もしかしたらアンドロイドなのかもしれない。


「止まれ、おい止まれ」


『あ、はい。スイマセン』


危ない。変な事考えてたせいだ。何やらガサガサ音がする。きっと彼らのアジトに着いたのだろう。


「そのまま、まっすぐ進め。手枷は外してやる」


その言葉通り、手が自由になった。ふぅ、それにしても一体何なんだろうか。


「目隠しは自分で外せ」


トンッと音がしたので気になったけど、気にせず目隠しを取ると。


《パンッ!!!》


パンッパンッとクラッカーが何度も鳴る音が部屋に響く。そして、そこには。


《めでてえな》


《おめでとうございまっす》


「おめでとうヴァンちゃん。いや、未来の娘のパートナーよ」


「アホ毛がピョコとして可愛い。抱きたい……誕生日おめでとっ!」


「……」


『どうした?佐藤さん』


佐藤さんだけが何も言わず黙っていた。具合でも悪いのかな。


「可愛すぎるから喋らないで下さい。後、誕生日おめでとうございます。この世界に産まれて下さって有難うございます」


かと思ったら深々と頭を下げられた。ちょっと、いやかなり佐藤さんが怖い。


『あれ、我の誕生日って今日だっけ?』


ふと疑問に思った事を言ってみる。今日じゃ無いよな?


「お嬢様……」


あ、細かい事は気にするなって顔された。まぁ、確かに!祝って貰える事の方を素直に喜ぼう!世界が誰かの誕生日って言葉もあるしな!


『皆忙しい中、ありがとう!』


ペコッと頭を下げて皆にお礼を言う。いやぁ、それにしても凄いなぁ。飾り付けにケーキ。デカッ!ウエディングケーキぐらいあるじゃん。美味しそう……。あっ。


グゥ……っとお腹が鳴った。起きてから色々あってお腹空いた。


《ヴァロも腹減ったみたいだし、パーティーを開催するか!》


「そうですね、グゥル。盛り付け手伝って貰えますか?」


《勿論っす!》


『あっ!そうだ皆』 


こんな楽しそうな場面何度も見たいし、どうだろ?断られたらしょうがないけど。


『配信しても良い?』






『やぁっ!!我こそはぁっヴァンパイア・ロード!吸血鬼の王その者である!』


ゲホッ。ちょっと気合い入れ過ぎた。んんっ。


《コメント欄》


・お?珍しい時間だな

・そうか?

・こんヴァンわ〜


『今日は我の誕生日では無いけど、我の誕生日パーティーだから思い出に残そうと思ってな!だから、皆向けじゃ無くて個人向けのホームビデオみたいな感じだな。普段とは違くて申し訳無い』


あ、ばっとんカメラよろしく!そう言うと、部屋全体をぐるっと撮影し始めた。


《コメント欄》


・誕生日じゃ無いけど誕生日パーティーってどう言う事?

・ヴァンちゃんの誕生日?

・誕生日パーティー?

・両手合わせて申し訳無いポーズって可愛い子がやると可愛い過ぎて死ぬよな

・分かる俺がやると別の意味で死ぬからな

・ケーキデカ過ぎだろ。食べれるのか?

・人数いるし、残ったら冷蔵庫いれれば良いし


「お嬢様。ケーキの切り分け終わりましたがら先にケーキから行きますか?」


まぁ、やっぱパーティーと言えば豪華な料理だしそれを堪能してからにしようかな!にしてもビッフェ形式とは言え、どれから行こうか迷うなぁ。


『あ、皿ありがとう』


うーん。唐揚げ、卵焼き。サラダ!お刺身もある。串揚げ?ステーキ!ハンバーグ!?ポテトもある。


「ウィンナーとフランクフルトもありますよ。野菜も食べて下さいね、はい、ベーコンのアスパラ巻き」


指差された方向には積まれたウィンナーとフランクフルトがあった。


『此処が天国なのかもしれない』


幸せだ……。


《コメント欄》


・子供が好きな物だらけでくさ

・分かる

・可愛いから良いや

・お目目キラッキラで好き

・いつも眠そうなのに

・お肉ばっかりだな


『いただきます!』


まずは一口オムライスから、ウマッ!米と卵が合うなのは卵かけご飯で分かってるからな。そりゃあそうなんだけど。ハンバーグも分厚いのにやわらかっ。このソース好き。肉団子も好き!一口で食べちゃお。この頬張った時のお肉っ!って感じが好き。


『おいしい』


《コメント欄》


・メシウマ

・美味しそう

・子供ってウィンナー好きだよな

・弁当箱に入ってたらテンション上がるだろ?タコさんウィンナー

・赤タコさんすき



『……』



《コメント欄》


・もはや配信とか関係無く黙々と食べてる

・盗撮みたいで……辞めとくわ

・偉い

・にしてもどれも美味しそうだよな。誰が作ったんだろ

・いつの間にかメイドさんが横に居てわんこそば形式で持ってくるの草

・熟年夫婦みたい

・唐揚げも美味いよな、まさかアレニンニク付きか?

・腹減って来た


「そろそろ、ですかね。皆さん!ご用意を」


その声と共に、ばっとんとグゥルが椅子を持ってきた。威厳がありそうな王様みたいな椅子だ。かっこいい……。


『え?これに我が座るの?あっ、まだ食べてるんだけど』


どうすれば良いのこれ。フランクフルトにケチャップとマスタード付けちゃったんだけど。


「順番はじゃんけんで決めましたので。最初はどなたから……」


「私だ、ヴァンちゃん。改めて誕生日おめでとう。私がいるべき場所では無いのだろうが、許して欲しい」


『そんな事は無いぞ!むしろ色々本当に申し訳ない。部屋もそうだし、お金もそうだし』


だから深々頭を下げるのは辞めて欲しい。本部長が子供に頭を下げたってすっぱ抜かれるぞ。


『あ、えと本部長は何をくれるんだ?』


気まずいので話を強引に変える。純粋に何をくれるのかも気になるしな。


「ああ、私からはこれだ」


そう言って見せられたのは結婚式場とウェディングドレスだ。ん?どう言う事?


『言ってくれれば、いつでも式場を確保しドレスを手配しよう。因みに娘からのプレゼントは……』


「お父さん……やっぱ重いって。それはいくらなんだって」


『おい、待てまだパパの番だから』


「もう良いよお父さん。あげたでしょ?はいバーイバーイ!」


『娘が冷たい!』


本部長は会場から出て行ってしまった。その寂しそうな背中を眺めているとトントンと肩を叩かれた。


「最近さ、赤スパ無かったでしょ?」


『確かに……前に比べて減った様な』


「でしょ?何でか聴いて?」


楽しそうに彼女はそうやって聞く。いつも佐藤さんは楽しそうだなぁ。


『何でだ?』


「この為だよ。って言ってもいつかは分からなかったからさ、間に合って良かった」


なかなか良いのが無くてねと言って背後に周り、我の首に手が掠る。くすぐったい。


「はい、どうぞ良いよ。ルビー色と迷ったんだけど、誕生石のアクアマリンにしたんだ。うん、最高に似合ってる」


手鏡に映ったのは水色のダイヤのネックレスだった。綺麗だ……。


『綺麗……だな』


「だよね、なんかお店の人が言ってたんだけどそれは普通のアクアマリンじゃ無くてサンタマリアアクアマリンって言う奴らしいよ。何と無くヴァンちゃんっぽくて最後の店で一目惚れしてこれにしたんだ」


「気に入って貰えたみたいで良かった」と佐藤さんはまた笑う。何でそんなに楽しそうなんだろう。不思議だ、でも。不思議と嫌な予感はしない。笑われてる訳じゃ無いからだろう。


『佐藤さん』


「ん?」


『ありがとう。……あれ?敬語は辞めたのか?』


「あぁ、敬語だと距離感あるなっと思ってさ。嫌なら戻しますけど」


『いや、これからもよろしくな!えと、あっ。安蜜……』


……前世の薄れゆく記憶の中で覚えている中で絶対忘れないと心掛けている大事な事がある。それは神対応だ、って言っても具体的にどうすれば良いか分からないから探り探りなんだけど。取り敢えず相手は嫌な気持ちにさせない様にしようと思ってる。それは人として普通の事だからまず守ろうと思う。


手を握るのは大丈夫かな多分。そっと、手を握ってすぐ離した。佐藤さんの手は凄い暑かった。緊張してたのかな。そうだ。


『《small》ドキドキしてるの一緒だな《/small》』


手を握り、耳元でそう囁いた。なんか我ながらキザっぽくなってしまった。やばいめっちゃ恥ずかしい。


「あ、う。あぁ。あ……りがとうございま」


部屋の隅までダッシュで走り、座り込んでしまった。しまった……キモ過ぎて嫌われたのかもしれない。後で謝ろう。


「アンがあそこまでなるなんて。何したのか聴いても良いかな?お嬢ちゃん?」


手をマイクの形にして、塩さんがそう尋ねて来た。我が聞きたいぐらいだ。適当にはぐらかすしかない。


『さぁな?』


「これは悪い子の予感がプンプンするなぁ!そんな子にはこうだっ!」


思いっきり抱きつかれて前にもあったなぁと思い出した。こんな扱いにも嫌にならない我は何処かおかしいのかもしれない。まあ、良いや。それが我って言う事にしこう。


「私からはコレかな」


『これは?』


渡された封筒には紙が三枚入っていた。それは……。


『何でもチケット?』


「そう!何が良いかよく分かんなくてさ。下手な物買ってもアレだしって考えると何買えば良いか分からなくてね」


『まぁ、確かに。てっきり前みたいに可愛い服かと思ったけどな』


「二回目は流石に着てくれないかなって思って」


成程、確かに着る気はあまりと言うか全く無い。どうしてもと言われたら仕方ないなぁとは思うけどな。


『これ使ったら何でもしてくれるのか?』


「まあ、常識と法律の範囲内で許されるならやっちゃうよ的な感じ」


そっか。よく分からないけど良いや。取り敢えず貰っとこう。そうだ!今度また服作って貰おうかな。よしっそうしよう。


『塩さん、ありがとう』


「いやいや、そんな物しかあげられなくてむしろごめんねー。来年はもっと良いものあげる為にも、今年はもっと仲良くなりたい」


『わ、我も塩さんと仲良くなりたい』


「それで可愛い服を……ふへへっ。じゃ、またね!」


『お、おう』


なんか少しだけ嫌な予感がしたのはきっと気のせいだ。



《よっす、ヴァロ》


《こんにちはご主人》


『あっ二人とも。どうだ?楽しんでる?』


変わらない二人を見て少しホッとした。いやぁ当たり前って良いなぁ。


《うーん、まあまあだな》


《僕はめっちゃ楽しんでるっす》


『それは良かった。で、もしかして』


《そうっす。お察しの通り僕達二人からのプレゼントになるっす》


《金が無かった》


『ってか良く金があったな!?逆に。どうやって手に入れたんだ?』


《そりゃあ、バイトっすよ》


《引っ越しのバイトの掛け持ちだ》


《僕達のプレゼントは、これっす》


『ん?開けて良い?』


《どうぞどうぞ!》


渡された袋を破ると、黒い革のコートが入っていた。おーっ。カッコ良いじゃん!ちょっとブカブカだけど。


《コメント欄》


・可愛い

・萌え袖なのが得点高い

・分かってんねえ

・彼Tみたいで良いな

・すき



《どうすっかね?》


《どうだ?》


『ありがとう!さいっこうに嬉しい!』


無意識にだが、きっと我は自然に最高の笑顔を作れていただろう。


その後ヤコにもプレゼントを渡されて、その後しばらくして配信は終わった。結局師匠は来なかった。

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