10


服が無い。いやあるんだけど、種類が無い。今、我が持ってる服っていつものパーカーと、後ネグリジェだけでさ他の服とか無いんだよな。で二つとも洗った所までは良いんだ。別に我の血で同じ服を再現する事が出来るから。


でも、流石に同じ服ばかりだからさ。男ならそれでも良いけど、今我は女子だし。折角ならオシャレをしてみたいと思った訳で。まぁ昔はメイドが毎日用意した服を着ていたんだけど、どれもドレスか似た物だったからか結局あまり変わらなくてなぁ。


例えば……そうだな。我は女だけど吸血鬼だから、マントとかも良いな。ビシッと黒スーツに赤いネクタイ。そしてマントで吸血鬼のお手本みたいな感じでカッコ良く決めるのもアリかもしれない。出来る吸血鬼として眼鏡でも付けたら良さそうだ。今度店で見てみようか。


「……ん?電話だ」


相手を確認すると、塩さんだった。すぐに出ると一緒にアウトレット?でショッピングしないかと言うお誘いだった。丁度良いやと思ってパーカーに着替えてそのまま出かける事にした。


あっ、そうだ。ばっとん、外出る時のアレ頼むわ。






『こんにちは』


数分後、ドアを開けると塩さんがいたので挨拶をすると明らかに動揺していた。


「いや、私でも困惑を隠せないんだけど?いやえっと、まず私の知ってるヴァンちゃんで合ってるのかな?」


まぁ、そうなるよな。


『あ、そうですね。厳密には違いますが、まぁううん。そうですね、私の事はヴァドとお呼び下さい。今の私は吸血鬼の王の血が無い唯の金髪少女なので』


日が出ていて多くの人の目に晒されると色々面倒臭い事になりそうなのが目に見えてるから。昼間とかに外に出る時はヴァドモードで出掛ける事にしている。


その度にばっとんに血を抜いて貰うのが面倒臭いけど、やっぱり吸血鬼は目立つのだ。仕方無い。黒い羽根に赤い瞳、光に当たって輝く金髪。あれ?ひょっとして我って可愛いのでは?


「今日は適当に近場のアウトレットでぶらつく予定なんだけど、何が欲しいモノある?ヴァドちゃん」


『そうですねぇ。なら服が欲しいです。あまり種類が無くて……』


「成る程ねぇ……。!そうだ。どうせ経費で落ちるし、動画のネタにもなりそうな物があるからちょっと買ってみようかな。ネタ無いし丁度良いでしょ?ね?」


ほぼ塩さん一人で話を進めていたけど、なんか圧が強くて怖かったし。何も言わなかった。怖いし。












ってな感じで帰ってきた。今はもう寮の中だから、王モードだ。どうも我です。


で今近くに動画のネタ用の服が入った袋があるんだけど、どんな服か見てないんだよな。付いて行こうとしたら、「楽しみにしてて」って言われて待たされた。二、三時間な。何であんなに長いんだろうな。その間、我は暇だったから色々見て回ってた。結構楽しかった。



で、開ける時には配信しながらにしてって、言われたからカメラを回す。んんっ……。あー。


『こんヴァンわ〜。我が血肉となる者達よ!我が名はヴァンパイア・ロード。吸血鬼の王であるっ』


《コメント欄》


・こんヴァン……。

・今ヴァンわ〜

・デカい袋がある

・よっすー

・今日も可愛い

・何だなんだ

・挨拶が変わっただと


『おっ!目敏いな。そう、今回のネタはこの袋に入っているモノに関係するのだよっ』


袋を分かりやすいように目の前に持って来た。よいしょっと。


《コメント欄》


・重そうだな

・中に何が入ってるんだ?

・良く分からないけどドヤ顔の王が可愛いから満足

・早いよ、もう少し楽しめよ

・↑考えてみろよ。グダグダしてたらずっと王のドヤ顔が見えるだろ

・天才か?

・いや、悲しむだろ



『中には服が入ってるぞ。何の服かは我も知らないんだけどな。皆と一緒に見ようと思ってさ』


なんかカラフルだな。モコモコしてるし何だコレ。なんか嫌な予感がする。


『じゃあ、一個ずつ出して行こう。まずはコレからだな』


ガサゴソっと。袋から出て来たのは。


『何これ……』


うさ耳付きの……なんだ?パジャマ?


《コメント欄》


・可愛い

・モッコモッコで暖かそう

・肌触り良さそうだな

・?中身を知らないってどう言う事?自分で買ったんじゃないの?

・着てみて!


『……ええ。これを我が?絶対似合わないんじゃ』


【¥78800】《対吸血鬼対策部隊の塩分担当》

『絶対似合うから早く着なさい。まだまだあるんだから』


《コメント欄》


・着なさい

・大事な事なのでry

・もしかして塩の姉貴がコレ買ったの?なんて事を……

・どっちの意味でだよ

・勿論両方だが?

・キモいよお前


『はいはい……。分かったよ着れば良いんだろ着れば。我はカッコいい方が似合うのに……』


流石にカメラの前で着替えるのはアレなので、血で再現する事にする。ふむふむっ生地はこうなっていて、後ろは……。ズボンに尻尾が付いてるんだ。凄いこだわりだな。はぁ、こんなかんじか。フワフワで柔らかいな。触り心地だけは良いな。デザインは……まあ可愛いとは思うけど我とはアレだな。可愛いけどな。


『……ぴょん』


フードを被って、呟いてみたけどすぐ恥ずかしくなって辞めた。何やってんだろ我。


《コメント欄》


・最高

・塩の姉貴にスパチャ投げたい

・可愛いは世界を救うのかもしれない

・気づいてしまったか。世界の真理に

・あざと可愛い

・こんなのがまだまだあったら俺の身体は持たないぞ

・塩さんは可愛い物が好きで自分でぬいぐるみを作ってそれを抱いて毎日寝るぐらい可愛い物好きで今回の対応は当然の物だと考えられる。

・何の専門家なんだお前は


『……我嫌な予感しかしないんだけど、まだまだあるんだろ?』


袋は未だにパンパンに詰まっている。コレまさか一回じゃなくて何回かに回せって事か?有難いような悲しい様な。


『もう今回はコレで質問コーナーじゃ駄目か?』


それで良いじゃん、良いだろ。だが、許されない様で続行する事になった。もぉー。塩さんめ。


《ダイジェスト》


『何だこれ、ドレスとステッキ?』


付属の紙には……《変身☆魔法少女セット※対象年齢八歳から》これ我が着るの?こんなキラッキラな奴を?ふわふわなスカートに、子供みたいな靴。そして、肩には人形が載っていた。何だお前。


『何でこんな格好しなきゃいけないんだ……狂ってるだろ』


本当に世の中はおかしい。次、まともな服は無いのか。


《なりきり魔王セット》『このセリフを言う事』


『ハーハッハッハハハ!良くぞここまで辿り着いた!軟弱な人間よ。だが絶望しろ、そして恐怖に打ち震えると良い。何も悲しむ事は無い。相手が悪いだけだからな、さぁ消えよ』


カッコ良いなこれはアリ。この黒いマントに、禍々しい仮面。そしてこの鎧もカッコいい。これはかなりアリだ。もうこれで終わりで。



《メスガキ》『台詞に指定は無し。兎に角煽るべし』


えっ、はぁ?煽れって何?ど、どうすれば。えと、あー!もうどうにでもなれ!


『ザァコ雑魚!何も考えれずに人任せにして自分じゃどうする事も出来ない《NGワード》《NGワード》あれ?《NGワード》何で?《NGワード》バグったんだけど!どうしよう』


《闇堕ち魔法少女》『それっぽく』


おぉ、ダークな感じ。シックな感じで黒を基調としてて良いなコレ。身体に馴染む……様な気がする!闇堕ちか……暗い感じだな。


『どうすれば良かったんだろうなぁ……本当に、あぁそうだな。今言ったって仕方が無いか。あぁ分かったよ。今回ので分からされた人間は信用出来ないってさ、だから人類を滅亡させよう』


……はぁ、疲れた。我ながら何をやってんのか分からなくなって来た。滅茶苦茶だな、なんか凄い恥ずかしい。何なんだあのセリフ言えとか、しかも皆が褒めてくるせいで辞めにくかったし。


『改めて、やっぱり人から見ても我は可愛いんだな』


自分では思っていても人の評価は違うって言うのがある中。どうやら我が可愛いのはどっちにしても同じらしくてそれは少し嬉しかった。ただし、あの服達の出番はもう無い。二度と着ないと決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る