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風邪引いた。
『ハクシュンッ!』
って言っても我じゃない。我は引かないから。あー花粉症はね、アレはちょっとあの気のせい。今のは花粉症のくしゃみ。取り敢えず風邪は引かないの我は。OK?引いたのは……。
《……》
《ゲホゲホッグゥゥゥゥウ……》
《……》
ばっとんも俺引くんだ風邪って顔してる。笑っちゃダメだけど面白い。
『二人とも今日はゆっくり寝て休んだ方が良いな。配信は三脚で何とかするから』
そう言って部屋から出ようとすると、ドタバタと廊下から音がしてドアが勢いよく開いた。
鍵閉めて無かったっけ。
「あれ?風邪引いたんじゃないの?」
走ってきた様子の佐藤さんは息を切らしてそう言う。いや、我じゃない。そう答える代わりに、マスクを付けてる二人を指差す。
「え?グゥルとばっとん君が風邪引いたの?風邪引くんだ……。そうだ、風邪にはねこれが一番なんだ。美味しくて、身体も強くなれるし。丁度送られて来たからヴァンちゃんも食べる?」
背後から段ボールを置いて、取り出したのはトマトだった。
『ゥワァイ、ヤッターウレシイナァ!』
差し出されたトマトを受け取る我の顔は、自分じゃ分からないけど多分死んだ目をしてたと思う。何故なら我はトマトが嫌いだから。
『やぁ、我が血肉になる者達よ……。我が名はぁヴァンパイアァ・ロード。吸血鬼の王だ』
《コメント欄》
・どうした
・よっす
・何かテンション低いじゃん。どったの話聞こか?
・もっとテンション上げてけ
・今ヴァンわ
『いやさ、実は貰い物のトマトが箱一杯にあって』
カメラを持って、箱一面のトマトを写す。ぐわぁ、いやだぁ。
《コメント欄》
・お、トマトじゃん
・トマトは切って塩振って食うのが好き
・ワイは切らずにマヨネーズ派
・丸ごと行くのかよ。ワイルドだな
・甘いトマトも最近は多いよな
『佐藤さんに貰ったんだけど、我実はトマト食べれないんだ』
何でさっき言わなかったのかって?完全なる良心で、どうぞって言われて断れるほど我のメンタルは強く無い。まあ、置き場所に困るから置かせて欲しいって話だったから、全部食べなきゃいけない訳じゃないけど。ある程度は食べなきゃいけない、所で。
『何で風邪の事知ってたんだろうな。まだ誰にも言ってなかったのに』
《コメント欄》
・風邪引いてるの?
・もう配信やめた方が良いんじゃない?
・大丈夫?
・トマト食べれないのかよ
・嫌いなんじゃなくて食べれないのか。アレルギー?
・アレルギーなら仕方が無い
・ん?それまさか盗……いや。流石に一線越えは無いか。
『あ、アレルギーじゃなくて好き嫌いだな。だってさ、グチュってしてるし。滅茶苦茶濃厚で酸味が強くて、美味しく無いじゃん』
《コメント欄》
・子供か。……子供だったわ
・確かに子供ってトマト食べれないのが多いイメージ
・実際ワイの学校ではトマト嫌い多かったしな。良く学校で残されてトマトを細かく切ってたらあだ名がDr.トマトになったのを思い出したわ
・ドクタートマトはくさ
・好き嫌いせず、食べないと大きくなれないぞ
・トマトは美味しいぞ
・やっぱ子供じゃん
・滅茶苦茶濃厚は褒めてるだろ
『美味しい?ほんとぉうに?』
我はそうは思わない。因みにトマトジュースもダメだ。トマトケチャップは大好き。オムライスは飲み物かもしれない。あと子供じゃない。だから嫌だったんだトマト嫌いって言わなかったのもそうだ。そう言うと思ったから。
『お勧めの食べ方は……塩かマヨネーズか』
《コメント欄》
・案外食べてみればいけるかもしれない
・久々に食べたらいけるって事もあるからな
・久々に放置して置いた食べかけのシュールストレミングを食べてみるかな
・何故放置した
・熟成したら美味くなるかなって思って
・ミニトマトは?
『ミニトマトも無理。噛んだ瞬間のプチュって感じがもううわぁって感じで無理。ミニトマトの方が無理かもしれない』
取り敢えず、トマトを食べてみよう。生憎、調味料が無かったので丸齧りで。
がぶっ。
『……あまっ、美味しいかも』
あれ、いけるかもしれない。このトマトは前食べたのと違う。
《コメント欄》
・佐藤さんから貰ったトマトって多分アレだな。確か、会長が趣味で作っている菜園のトマト。たまに食堂やレストランで流通されるけど、滅茶苦茶美味くて身体が元気になるんだよな
・血液がサラサラになるリコピンが多く含まれてるらしいからな。
・ワイルドに丸齧りしてるせいで口元がホラーで草
・血を吸った後みたいになってる……
・夢中で食べてて草
・配信そっちのけで草
・そもそも何の配信なんだコレ
・確かに。まあ可愛いからヨシ
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