第26話 試験へ

 ふうっ疲れた、内心の張り詰めていた空気から解放された僕は思わずその場に腰を下ろした。


 水希が心配したのかこちらに駆け寄ってくる。

 ちなみにゴーレムも仕事を終えたので元のストーンヘンジに戻った。

 もうこれで大丈夫とみていいだろう。


「ふっ不動さーーん!」


 ………へ?

 何やら水希が変な声を上げたのでそっちを見てみると、何やら金色に光る魔法陣が地面に出現していた。


 おいおいおい、まさかまだ追加で敵が出て来て今度は僕ら探索者がバトルでもさせられたりするとでも?


 流石にそこまでする体力は残ってないよ、こっちは凡人な探索者なんだからね。


 むむっ魔法陣からは新手のモンスターとかは出て来なかった。

 代わりに出て来たのは金色に輝く剣とか杖とか大きな魔石だ、どこからこんなのが…。


「まさかこれっ『奈落のアメミット』の魔石だったりするのかな?」


「たっ多分そうですよ! それにこの黄金の剣ってあのとり頭の巨人が使ってた…」


「とり頭って確かに悪口の類だったから言わない方がいいよ、アレは『天空神ホルス』でエジプト神話の最高神ラーの息子らしいからね、バチとか当たるかもよ?」


「前言を撤回します!」


 それがよろしい、さてとっまさかドロップアイテムとかが向こうから来たとでも?

 確かにあの『奈落のアメミット』と『天空神ホルス』とが闘った場所にまで行くのは大変そうだったから助かる話ではあるけど。


 僕たちが近づくと魔法陣は消えた、どうやら本当にこの魔石と装備を持ってくる事だけが目的だったみたいだ。


 水希が金色の剣と杖を手にする。

 黄金の剣は『天空神ホルス』が持っていた剣だ、あのミニチュアサイズの剣が普通に使えそうなサイズ感となっている。

 売ったら普通に大金になりそうだ。


 そして杖、これは知らないな。

 デザインはあの黄金の蛇が黄金の杖に巻き付いてる感じだ、なんか悪いことしてる砂漠の魔術師とかが持ってそうな錫杖だな。


「これは私でも一目で強力なダンジョン装備だと分かりました」


「確かにね、これだけの装備は上級探索者でも…」


「これまで誰も手にしていない装備なら自分で名前を付ける事になるかも知れませんよ? たとえばこの剣なら『天空神ホルス』が持ってたから天空の…」


「別の名前がいいと思うよ、ホルスの黄金剣とかさ」


 そのネーミングはあまりにも有名だからね、多分だけどやめておくべきだ。

 水希は黄金の錫杖を手にして「じゃあこの子の名前は金蛇ちゃんロッドですかね?」と笑顔で聞いてきた。


 きっきんへびちゃん…まさかさっきは天空のきんいろソードとでも言おうとしたのかな?


「いいんじゃないかな?」


「そうですか? ならこの子は今日から金蛇ちゃんロッドですね」


 ……まあ水希には何度も助けられたこらね、ドロップアイテムを分け合うのは正直別に良い。

 しかしこの魔石の方が問題なんだよね。


「水希、この魔石だけど…」


「はいっこれだけの魔石ならとんでもない金額になると思いますよ?」


「いやっこの魔石もあの『奈落のアメミット』についても他言無用で頼めるかな?」


 僕の言葉に水希は怪訝な顔をする。

 まあそう言う顔をする気持ちは分かるよ、けど仕方ない事なんだ。


「実は他のダンジョンにも似たようなダンジョンギミックがあってさ、あの『奈落のアメミット』みたいなのがいると公になると他の探索者がこの黄金剣みたいな装備目当てにそれを捜しかねないだろう?」


「ほっ本当ですかそれ…けど確かに…欲望優先の探索者ならそうするかもですね」


「その探索者たちがポカをすればあんな怪物が地球に雪崩れ込んでくる可能性があるって訳、水希はそんな危険を知りながら向こうで生活したい?」


「絶対に嫌です」


 だよね~僕も嫌です。

 と言う訳で今回のドロップアイテムは使いはするけど無闇に見せびらかすような事はせず魔石は持ち出して僕の自宅に封印する…う~ん漬物石とかに使おうかな、けどウチ別に漬物をつけてないんだよね。


 そしてあのダンジョンギミック『奈落のアメミット』についてはただのモンスターでほって置いたら勝手に何処かに消えましたと口裏を合わせる事に決めた。


「もしも学校の皆がしつこく何か聞いてきたら私が黙らせてやりますよ!」


「おっお手柔らかにね」


 鼻息荒くシュッシュッとシャドーボクシングをする水希、何やら彼女の闘争心に火がついてる模様だ。

 こう言うのは好きにさせておくのが一番だよね。


 そう言う感じで話はまとまり僕らは幾ばくかの戦利品を手にして『奈落のアメミット』を倒した功績はなかった事にした。


 それから少し間の時は流れ、僕はとある日を迎えた。

 場所はギルド、僕は少し緊張した面持ちで来た。


「おはようございます」


「おはよう」


「……もしかして緊張してるんですか?」


 意外そうな顔で水希が言ってくる、そりゃ緊張くらいするよ。

 だって今日は……中級探索者への昇級試験を受けに来たんだからね。


「うんっ少しね」


「不動さんなら大丈夫ですよ、だって私や学校の皆も合格した試験ですし。貴方が落ちる理由が見つかりません」


 まあ普通なら探索者になって二年以内には普通に合格してる筈の試験だ、あのクズギルド職員さえいなければ僕もとっくに受けて、多分合格してたね。


 探索者としたの活動期間も考えるとむしろ落ちる事の方が難しいとさえ思えるくらいだ。


 しかし受験やら資格取得の試験などはいつだって凡人を緊張させてきやがるものなのです。


「……それに私は知ってます、不動さんは多くの人を救った英雄だって事を。だから絶対に大丈夫です!」


 水希はそんな聞いた方も少し恥ずかしくなるような言葉を真っ直ぐ僕に向かって言ってくる。


 思えば彼女と出会った事で僕の探索者人生は変わったように感じる。


 まるでダンジョンギミックみたいに、何かの拍子に事が動き出したかのような……なんて言ったらこの子には呆れられてしまうかな?


 僕は自分でも気がつかないうちに笑みを作っていた。


「ありがとう、なら昇級試験に合格出来るように頑張るよ」


 そう言って僕は水希に見送られてギルドにある試験会場に向かった。

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