第25話 多分、地球も救った。

「すっ凄いですね…」


「確かに…ね」


 距離こそあるとはいえ『奈落のアメミット』も『天空神ホルス』もデカイからその戦闘の光景はよく見える。


 ホルスが黄金の光を纏ってるから夜でも見えるのだ、もしもあの闘いの近くにいたら僕なんて数秒で死ぬね。


 ホルスは黄金剣で何度も攻撃を繰り出す、『奈落のアメミット』はあのキモい手から黒い炎を放ちまくるがホルスは空を舞いその攻撃を躱す。


「あの『奈落のアメミット』にダメージを与えるなんて僕にはとても無理だ」


「私にも無理ですよ…と言うか人間には…」


「だろうね」


 あの『奈落のアメミット』はダンジョンギミックだ、ダンジョン自らを破壊するとか意味の分からない仕様だけどダンジョンギミックなのは間違いない。


 そしてダンジョンギミックってのは大抵は探索者がどうこう出来るものじゃない、大抵はダンジョントラップとして機能するものなので探索者に簡単に無効化なんてされたら意味がないからだ。


 まさかダンジョンギミックから『天空神ホルス』なんてのが出るとは流石に思っても見なかったが、あの怪物をどうこうするのならアレくらい強そうなのが必要なんだろう。


「水希、後は『天空神ホルス』が『奈落のアメミット』を倒すか封印するまでここで踏ん張れば僕たちの勝ちだ」


「はいっ!」


 向こうは『天空神ホルス』に丸投げした、僕たちは群がるアンデッド共を倒すことにする。


 アンデッド相手には聖水が一番だ、そしてこの【エルマドル砂海】は砂漠のダンジョンだからミイラみたいなアンデッドの親戚みたいなのが出て来るので僕も聖水は持っていた。


「水希、アンデッドに有効な聖水なら僕も少しは持ってる。これを使ってあのアンデッドを倒せないか?」


「聖水ですか…それなら私が操れますからその聖水を……」


 ゴーレムがアンデッド共をぶっ飛ばして時間を稼いでいる間に水希とやり取りをする。

 そして作戦が決まったので行動を開始した。


 僕はリュックサックから聖水が入った小瓶を取り出す、小瓶の栓を抜くと水希がスキルを発動して中身を宙に浮かせた。


「私のスキルだって多少は応用が出来るんですよ……アクアミスト!」


 水希のスキルによって聖水が霧状に姿を変えた、その白い霧が僕たちを包んだ。

 アンデッド共はその霧をかなり嫌がり僕たちから距離を取った。


 ナイス水希、水を霧に変えて操れるのか。

 お陰で時間稼ぎは余裕で出来るぞ、更にゴーレムがこちらを攻めあぐねるアンデッド共をぶっ飛ばす。


 流石にしぶといアンデッドも何度もゴーレムの拳で殴られれば無傷とはいかないみたいで光となって消える者が出始めてた。


 このままいけば勝てる。

 そう思っていたら何やらアンデッド共が集まり始めた、みているとどうやら合体しているっぽい。


 あの科学者風の男が一番上に上半身だけ残し、他は大きな人型の肉塊へと変形していく。


 キモいな~アレってあの科学者風の男のスキルなのか分からないけど死んだ後にまでそこまでしつこく邪魔するなよ、鬱陶しいな。


 アンデッド共が合体し生まれたアンデッドジャイアントはゴーレムと真正面から殴り合いを始めた。


 万が一ゴーレムが負けるなんて事になれば幾ら聖水の霧で守られている僕たちでもあんなのに殴られれば即死するだろう。


 向こうも向こうでしっかり勝ちに来てるね、あの『奈落のアメミット』がコイツらを操っているんならやはりあの怪物には知性があると言うのか?


 ただのダンジョンギミックなのだと思いたいが…まあ僕たちも簡単にやられるつもりはないけどね。


「なんなんですかあの気持ち悪すぎる巨大なアンデッドは…」


「アンデッドジャイアントってところかな? 確かに本当にキモいね、けどあんなのに近くで暴れられたら霧だけじゃ守りきれないからここは更に手を打つよ」


 リュックサックからまたアイテムを取り出す、水希が「あの青いロボットのポケットみたいですね」と言われた。


 あそこまで何でもありなら良かったんだけどね…このリュックサックの中には貧乏探索者の懐で買える物しか入ってないのだ…。


 そして僕が取り出したのは黄金の蛇の像である、これもまたこのダンジョンに隠されたアイテムの一つだ。

 最も発動するにはこのダンジョンでと言う条件があるものだけどね。


 つまりこれもダンジョンギミックの一つなんだ、これで決めるよ。


「…『その迷宮の砂漠には繁栄の歴史があった、悠久と思われたその時代はやがて終わった、繁栄と終わりを見届けしは黄金の蛇…砂漠を進む者の道を開け』」


 キーワードを口にする。

 黄金の蛇の像が動き出した、その蛇は黄金の光となってアンデッドジャイアントへと向かう。


 ゴーレムと拮抗した戦いをしていたアンデッドジャイアントにはその光を躱す余裕はなかった。


 黄金の光にアッサリと貫かれたアンデッドジャイアントは一瞬で光となって消えていった。


 え~まさかの瞬殺だったよ、最初からこれを出してればよかった…。

 これにはダンジョンギミックを発動させた僕自身もビックリである。


 更に光となった黄金の蛇は『奈落のアメミット』と『天空神ホルス』の戦いにも介入した。


 光は二手に分かれる、一つは『奈落のアメミット』の方に向かいその巨体に巻きついてあの怪物の自由を奪う。


 もう一つの方は『天空神ホルス』が持つ黄金剣に宿りその刃が纏う光となった。


 『奈落のアメミット』が咆哮を上げてそのデカイ口から黒い炎を吐き出した。

 『天空神ホルス』は盾を構えその炎を真っ向から受け止めて突き進む。


 そして『奈落のアメミット』の火炎放射が終わった瞬間、手にした黄金剣を振るった。


 極大の閃光と共に放たれた黄金の斬撃が『奈落のアメミット』を真っ二つに切り裂いた。


「やった! やりましたよ不動さん、私たち……」


「ああっ『天空神ホルス』の…僕たちの勝ちだ!」


 『奈落のアメミット』は光となって『天空神ホルス』が持つ黄金剣に吸い込まれていった。

 あれで再封印は完了したって事でいいのかな?


 夜空は再び青空へと戻る、そして『天空神ホルス』もまたその役割を終えたのか光となって消えた。


 僕たちは勝った。

 そして多分だが…地球も救ったんだろうな。

 



 

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