第22話 爆走

「……え?」


 僕の言葉の意味を水希は理解出来ていないようだ。

 仕方ないのでわかりやすく説明する。


「あの『奈落のアメミット』は戦ってどうにかなる相手じゃない。何しろ石版によると物理的な攻撃もスキルも効果ないらしいからね」


「そんな…それじゃあどうすれば?」


「言ったでしょ、アレはダンジョンギミックなんだ。ダンジョンギミックは基本的にダンジョンの一部みたいなもので破壊は出来ないんだよ」


 まっそのダンジョンを破壊しようってんだから最早アレは何者なんだって話なんだけど…。


「そこで目には目を、ダンジョンギミックにはダンジョンギミックをって事」


「…………」


「……平たく言えばヤツを目覚めさせるダンジョンギミックがあったんだから逆に再度封印する為のダンジョンギミックもしっかり存在するって事、具体的に言えば三つのアイテムを集めて使うとヤツをまた封印出来ます」


「なるほど!」


 僕の説明に「いい加減普通に説明してくださいよ」と眼力強めで訴えかけて来たのでわかりやすく説明しましたとも。


「凄い! 凄いですよ不動さん! けど…今からそんなアイテムを…」


 ふふっ甘いよ水希。

 僕は平和を愛する光の使途的な立場のマンガのキャラクターとか格好いいと今も思ってるタイプの人間なんだ。

 そう言うのは念の為に…。


「大丈夫、とっくに集め終わってるからさ。こんな時の為にね」


「ふっ不動さん!」


 水希の目がキラキラと僕を見つめる、それは悪い気分じゃない。


「まあ万が一僕がどっかのダンジョンで死んでそのアイテムの所在が分からなくなると事だから、集めて同じ場所に隠してる。だからどのみち手元にはないけどね…」


「………………は?」


「と言う訳でそこまで走るよ、場所はあの……魔法陣があるストーンヘンジみたいな場所だ!」


 僕たちはダッシュした。

 背後からそれはもう恐ろしい『奈落のアメミット』の雄叫びが聞こえる、どうやら向こうは完全に僕たちをロックオンしてる模様だ。


 あの無駄に大きすぎる図体の割に性根の器は小っさいね、もっとデンと構えて余裕をぶっこいていて欲しいよ。


 水希が遅れないように何度も背後を見て様子を確認、その時に『奈落のアメミット』の方も確認する。


 するとヤツのワームみたいな胴長ボディから生えた、包帯をまきまきされた細長い腕の手の平、その上に何か黒っぽい物が出現した。


 遠いからよく分からない……しかし嫌な予感がしたので『奈落のアメミット』の方を注視する。


 するとその黒っぽい何かが飛んできた!

 それは砂漠に着弾すると爆発した、結構な威力がある。


「気を付けて、多分アレ当たると死ぬから!」


「えぇっ!?」


「『奈落のアメミット』は呪いの炎を放つらしい、あの黒のが多分そうだ」


 あの細長い腕がこちらに投げつけているのだろう、狙いは甘いがとにかく数が多い、早く逃げないと危険過ぎる。


 僕たちは再び走り出した。

 背後から次々と着弾する黒い炎、何とか当たらずに逃げられているけど背後を確認すると一つ当たりそうなのが向かってきていた。

 ……不味い。


「止めます!」


 水希が『水精使役』で水精を出して水精が水をだす、そして『水操作』のスキルでその水を黒い炎に当てた。


 すると何とか黒い炎がジュワーッと音を出して消えた、呪いの炎でも水には弱いみたいだ。


「ナイス水希!」


「ありがとうございます! けどこのままじゃ逃げ切れませんよっ!」


「それなら方法はある…こっちについてきて」


 水希は水を操り防御出来る態勢を維持しながら僕についてくる。

 僕たちは砂漠の砂に足を取られながらも『奈落のアメミット』から逃げた。

 途中何度かヤツの放つ黒い炎に襲われたが水希の水の防御に助けられた。


 そうして逃げる事しばらく、僕たちは砂漠にポツンと現れたサボテンを見つけた。

 コイツだ。


「そのサボテンが何なんですか?」


「ちょっと待ってて…」


 僕はサボテンに近づいて行く、リュックサックから銀色の砂が入った小瓶を取り出して栓を抜きその中身を振りかける。

 するとサボテンの全身のトゲが消滅した、後はキーワードだ。


「…『それは迷宮の慈悲である、砂の海を歩み道を見失いし者たちよ、生を求めるならば始まりの地へと帰るがいい』」


「不動さん?」


「よしっ水希、このサボテンに捕まるんだ」


 水希がいきなりの事で少し躊躇した、僕がいいからと言ってトゲを無くしたサボテンに捕まらせる。

 そして僕も捕まる。

 するとサボテンが微かに震えたと思ったら動きだした。

 それはもう超早いね。


 別に某ゲームみたいに手足を生やして動く訳じゃない、地面に生えたまま砂漠を突き進んでいる。

 下の方がどうなってるのかは僕にも分からない、爆走サボテンはそう言うダンジョンギミックだ。


「この爆走サボテンは魔法陣がある場所まで僕たちを運んでくれるダンジョンギミックだ」


「いっ勢いが凄いですね!」


「…落とされちゃ駄目だよ、流石に助けられないからね」


 僕たちは必死にサボテンに捕まり『奈落のアメミット』から逃げた。

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