第21話 岩山よりもデカイ

 奥へと進むと下へと続く階段があった、不気味な程に静まりかえったその階段を下りていく。


 途中でダンジョン犯罪者からの襲撃とかは何も無かった。

 まるで最初の二人以外のダンジョン犯罪者なんて誰も居ないかのように。


「これは……本気で洒落にならない事になってるかな?」


「けど襲撃とかされないからすいすい奥に進めてるじゃ?」


「まあね、そこら辺についての説明は後でするよ…」


 この先のダンジョンギミックの内容について知ってるからこその嫌な予感だからね、先ずは速く向かって状況を知りたい。


 やがて長い階段を下りた先には扉がある、そしてやはり開かれていた。

 中を覗くとそこには…。


「ひっひぃっ!?」


 水希が悲鳴を上げた、その気持ちは理解出来る。

 何故ならこの部屋の奥は紫色の光で満ちているからだ、その奥にいる存在が手前の扉にいてもハッキリと見える。


 獰猛なワニの頭とライオンのタテガミ、そこまでは神話の通り。

 しかしそこから下はまるで巨大なワームのように長い胴体となっていて、その身体からは細長く包帯を巻かれた人間の腕らしきものが無数て生えていた。


「なっなんですかあの化け物は…」


「アレが…『奈落のアメミット』だ」


 削られた文字の部分に何が書かれていたのか分からないが、完全に僕が知る神話のそれとは別物となった怪物がそこにいた。

 その異形を見上げる僕たちに声をかける存在がいた。


「いやいやまさか、本当に自力でここまでやってくる探索者がいるとは驚いた…」


 僕たちは咄嗟に声のした方を見て武器を構える。

 そこには科学者か医者みたいに白衣を着た三十代くらいの褐色の肌をした男が立っていた。

 男は左手をヒラヒラしながら話す。


「オイオイやめてくれっせっかくの記念すべき日につまらん騒動を持ち込むのは…」


「何が記念すべき日よ…こんな所で何をしてるの!」


 水希の言葉に科学者風の男は頭と視線で「あっちを見ろ」と促してきた、男から気を逸らさずにそっちを見る。


 すると『奈落のアメミット』がいる辺りの手前に大きな石版が三枚あった。

 石版には何かをはめ込む為の溝が彫られてた、以前来た時はそこには溝だけで何もなかった。


 しかし今は違う、彫られた溝には一体どこから持って来たのか金色に輝く代物がはめ込まれていたのだ。

 マジですか、どうやら本当にあの怪物を目覚めさせるつもりらしいな…。


「不動さん…あの金色に光ってる天秤とかは一体?」


「多分天秤以外はアンクと…マアトの羽を模した、それぞれが祭器としての役割がある代物さ」


 僕の言葉に科学者風の男はニヤリと笑った。


「そうっその通りだ探索者よ、これらはこのダンジョンに隠されていた『奈落のアメミット』を目覚めさせる為の祭器! 探すのには多くのダンジョン犯罪者たちを集める必要があって大変だった…」


「そっそのダンジョン犯罪者たちはどこに隠してるんですか!」


「どこって……生贄にしたに決まってるだろう?」


「なっ!?」


 平然と言い放つ男。

 そうっ『奈落のアメミット』を目覚めさせるには特別な方法がある。


 一つはこの【エルマドル砂海】のどこかにある三つの祭器を回収し石版にはめ込む事。

 もう一つが数十人以上の生きた人間を生贄に捧げる事だ。


 石版によると生贄に捧げられて人間は赤い光となって『奈落のアメミット』に吸収されるらしい。


「殆どダンジョン犯罪者がいないからまさかと思ってたけど、本当にそんな真似をするイカレたヤツが現れるなんてね…」


「なんだと? 全ては私をダンジョンなどに追いやった地球の愚か者たちへの復讐の為の尊い犠牲と言うやつだ!」


 男は完全にイッちゃってる目をしてそう言った。

 ヤツの言葉が全て事実ならもうここにいるのも危険な状況だ、僕は水希の手を引いて階段を駆け上がる。


「ふっ不動さん何を…あの男を」


「倒しても『奈落のアメミット』の復活は止められないよ、それよりあの怪物が目覚めて暴れればここは崩れる。だから速く脱出するんだ」


「それは間に合うんですか?」


「使えそうなダンジョンギミックならあるよ」


 階段を駆け上がる途中で足を止める。

 石の壁に触れてスイッチを探す、確かに『記憶保存』のスキルで記憶したダンジョンギミックのスイッチが…。


 探すと指先にかすかな違和感、これだ…。

 僕は指先に力を入れて少し固めのスイッチを押した。

 すると視界が一変し、薄暗い階段から青空と太陽の下の砂漠に立っていた。


「えっこれは何がどうなって!?」


「瞬間移動のダンジョンギミックだ、一度使うと数日は使えなくなるけどね…」


 離れた所から何かが爆発するかのような大きな音が響いてきた、その方角を見ると岩山を破壊しその砂煙の向こうから巨大な怪物『奈落のアメミット』が姿を現した。


「……ちなみに瞬間移動みたいにあの場所から直ぐに脱出出来るダンジョンギミックは他に無かったからあの科学者風の男はほぼ死んだと思うんだ」


 あと眠らせたダンジョン犯罪者の二人もねっと心の中で付け足しておく。


「そっそちらについて今は後回ししましょう、それよりもあんなのどうするんですか?」


 水希の言いたい事は分かる。

 あんな岩山よりも大きなモンスターとかスーパーマンでもない僕らにどうこう出来る存在じゃないのは一目見れば誰でも分かる。


 それでもどうにかする必要がある、だって地球がヤバくなったらお金とか何にも使えなくなる可能性とかあるし。


 そうなったら生活が出来ない。

 ならばどうするのか…。


「答えは一つ、ダンジョンギミックにはダンジョンギミックって事なんだよ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る