第20話 奈落のアメミット

「水希…多分奴らはかなり危険なダンジョンギミックに手を出そうとしてるんだ」


「そっそうなんですか?」


 僕はこの隠されていた場所の深奥に何があるのか、それを説明する為にあの魔法陣があった石版に書かれていた文章を翻訳して説明した。


 ─砂の海にて眠る獣、元は天秤と法の元に悪の心臓を食らう神獣、しかし■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■…裁きの獣は憎悪と絶望により異形となった。獣の名はアメミット、災禍の獣となりし『奈落のアメミット』なり…─


「って文章があったんだよ、ちなみに一部は石版の文字が削り取られてたから内容は分かりなかった、あとアメミットってのはエジプト神話に出てくるナイルワニの頭部、ライオンの上半身とたてがみ、カバの下半身を持つ神獣で名前の意味は『死を食らうもの』て意味らしいよ?」


 僕の言葉に口を大きく開けてあ然としている水希、面白い顔だけどいつまでもそんな顔をしてる場合じゃないよ?


「……えっと…つまりダンジョン犯罪者たちの狙いはその『奈落のアメミット』なんですか?」


「ここに用があるとしたらそれ以外にないかな」


「そんな神話の中に出て来るようなのが本当にいると?」


「いたよ、まあ『奈落のアメミット』て名前だからなのかワニの頭はしてたけどライオンの上半身とカバの下半身は違ってたんだけどね…」


 その辺りは説明が難しい、端的に言ってもっとキモかったんだよね。

 そこは直に見てもらうしかないよ。


「ならダンジョン犯罪者の目的は…」


「そこまでは…ただ本当にアレを目覚めさせられたら探索者やギルドじゃどうしようもないかも知れないんだよね」


「そっそれほどの事が…?」


「うん、多分起こるよ」


 僕は『奈落のアメミット』がこのダンジョンのギミックとしてどんな動きをするのか『迷宮文字解読』によって得た情報を話す。


「…目覚めし災禍の獣は迷宮の全てを食らうだろう。やがて迷宮の封を破り、向かうは青き光の次元の先へ。彼の地の命を全て喰らわんが為に……って書いてあってね? 多分『奈落のアメミット』て化け物はこのダンジョンを破壊し尽くしたら…地球に現れると思うんだよね」


「……ハァアッ!?」


 水希が完全にパニックになっている、気持ちは分かるよ。

 だって基本的にダンジョンのモンスターとかがあの魔法陣を利用して【異界の大回路】に現れたなんて聞いた事もないからさ。


 地球にモンスターがなんて話、相当に荒唐無稽な事を話してる自覚はある。

 けどあの石版の文字の内容を理解するとそうとしか思えないんだよね。


「いっ幾らなんでもそれは…」


「多分『奈落のアメミット』にはあの魔法陣を使わなくてもこのダンジョンの外…多分地球へと次元を越える能力とかがあるんじゃないかと思うんだ」


「けど……」


「現にあの石版たちに書かれた内容で今までウソは一つも存在していないんだ。ダンジョン犯罪者たちが何を目的にしてるのか知らないけど、万が一にも面白半分で目覚めさせていい存在じゃない…」


 それだけ危険だと思ったからこそ、僕は『奈落のアメミット』の存在を秘匿した。

 誰にも言わなかった、多くの人間に知られればどこかから馬鹿な人間が現れると分かっていたから。


 それなのにここを知られたと言う事は……まさかの可能性も考えておく必要があるかもね。


「そんな訳で、ここから先はとっても危険だ。何ならあの友達と一緒に行くことをオススメするよ」


「……嫌です、そんな真似したくありません。それに不動さんの言葉が本当かどうか、今回ばかりは直接見ないと信じられませんから」


 確かに神話に出て来る獣だの次元を越えて地球に現れるだの言ってる事がかなりぶっとんでいるからね。


「分かった。なら行ってみようか」


 そして僕たちは改めて奥へと進んで行った。




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