第19話 相変わらずの学生たち

「やっぱり捕まってたか…」


「はいっけどあの様子なら生きてるみたいです、良かった…」


 確かに気絶して寝ているだけなので肩や胸が動いて呼吸してるのが分かる。

 目に見える外傷もないみたいだしスキルか何かで眠らされてるのかな。


「水希…先ずは僕があのおじさんたちを行動不能にするから待ってて」


 水希が静に頷く。

 僕はキーワードで発動するダンジョンギミックの起動に入った。

 あくまで小声でね。


「……『前のみを見て進む者よ、視野を狭めることなかれ。闇に潜むは微睡みの精霊、音なく近づき歩む者を背に現れる。』」


 未だに会話をしているダンジョン犯罪者たちの背後にキーワードで呼び出した僕以外には見えない闇の精霊が現れる。


 その姿はパジャマ姿のゾウさんである。

 そのゾウさんが何故かメェ~~と鳴くとさっきまで普通に会話をしていたおっさん二人がふら~と倒れた。


 これっスキルでも何でもないのだから不思議だよね、キーワードを知っていて後はこの基本的に太陽が出てばっかりのダンジョンでも闇が深い場所限定のダンジョンギミックだけどね。


「ふっ不動さん、一体なにを…」


「少し眠ってもらったんだ、多分隣で大声を出しても起きないから救出に専念出来るよ」


 僕たちは気絶している水希の友達の元に向かう、回りの警戒もするが他のダンジョン犯罪者の気配はない。


 恐らくはもっと奥の方にいるんだろう、そちらもほっておく事は出来ないのだが今は探索者たちの安全を優先しよう。

 彼らに近づきどんなスキルにやられたのかを確認する。


「……多分『幻夢』のスキルかな」


「分かるんですか?」


「基本的にダンジョンで寝る人間なんてダンジョン犯罪者くらいだ、それにこの苦しげな表情…碌でもない悪夢でも見せられてるんだ。ここは…」


 リュックサックから金色の鈴を取り出す。


「これは『目覚めの鈴』、眠らせる系のスキルなら大抵これでなんとかなる」


「あのダンジョン犯罪者たちは大丈夫なんですか?」


「スキルとダンジョンギミックは別だからね…」


 『目覚めの鈴』を数回鳴らす、すると彼らはうめきながらも目覚めた。

 そして十数分後…。


「ふざけるな! 俺たちがまたその下級探索者に助けられただと!? そんな訳あるか!」


「実際に捕まって気絶してたアンタらを助けたんだからお礼くらい言いなさいよっ!」


「なんだとぉおっ!?」


「同じ学校の学生として恥ずかしいのよ! この場の状況で事実がどうか少しは判断出来ないの!?」


 水希がリーダーらしき少年と口喧嘩をしている、理由は相変わらず助けられた立場を理解していない彼ら四人の態度と言動である。


 リーダーが水希の相手で忙しいからなのか、ほかの少年が僕に話しかけてきた。


「……本当にアンタが助けてくれたのか?」


「そこに君らを拉致したと思われるダンジョン犯罪者が二人寝ている、そしてスキルで眠らされていた君らは起きて自由の身になってる。これが全て何かしらの偶然の産物だとでと言い張るのなら……もう好きに考えてくれていいけど?」


 それなら助ける価値もないからね。

 そう言う意味も込めての言葉にほかのパーティーメンバーも少しは頭を働かさせている様子だ、そしてその少年はしばし考えてからリーダーらしき少年に話しかける。


「おいっ健太、取りあえず礼を言ってダンジョンから出るぞ」


「ああっ!? まだ話が…」


「こちとらダンジョン犯罪者にやられたんだぞ、速くギルドに報告して連中をなんとかしてくれるように掛け合うんだよ!」


 そんな感じで渋々ながらお礼を言って僕らが来た道を戻っていく彼らであった。


「……普通、ダンジョンで助けられたらお礼金くらいは出すもんなんだけどね」


 まさか本気でお礼一つですまされるとは、バジリスクの時も思ったが彼ら…いずれまたミスをした祭に助けた探索者にキレられてぶっ飛ばされたりしないだろうか…。

 まあ高校生にそれを言うのもなって話なんだけど。


「すっすいません、本当に…」


「水希が謝る必要はないよ…ただダンジョン犯罪者たちはギルドの人間とも繋がってる可能性があるんだよね…」


 じゃないとあの量の生活物資なんてなかなかね…だからダンジョンで連中を見つけたら取りあえずヤっておこうってルールになってる訳で…。


 まあ一応日本は民主主義で法治国家な訳だし…そうだったよね?

 何やら自分の記憶に自信がなくなってきたかも、『記憶保存』で保存してないどうでもいい情報だからさ。


「それと多分…今の大声でここにいるダンジョン犯罪者にバレてる」


「………ですよね」


 こっちは水希も反省してほしい所だ。

 そしてここはこの出入口以外の道はないので普通は連中が姿を現しても何ら不思議はないのだが…。


 それがないとなると…待ち受けてるのか。

 それとも繋がってるギルドの人間が何とかしてくれるだろうと自信でもあるのかな?


「…どのみち向こうから来ないのなら行くしかないか」


「えっ行くんですか?」


「まあね」


 何故ならちょっと謝礼にならない事を連中がしようとしてる可能性が出て来たからね。

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