第13話 容赦なし

 そして受付に行くと例の男性ギルド職員がいた、受付には他のギルド職員も多数いて別々に受付窓口に立っているのだが何故か僕が他の人の所に行くとギルド職員があの男性職員と交代してくるのだ。


 もうそんな対応にも辟易へきえきしていて一々指摘したくもない。

 僕は渋々そのギルド職員の所に行って倒したモンスターの魔石を出した。


「……今日はランクの低いモンスターの魔石ばかりですね」


 どのモンスターの魔石を持ってこようと普通は文句とか言われる筋合いありません。


「……まあ下級探索者ですから、それに見合ったものをと」


「嫌がらせのつもりですか? ギルド職員からの評価が下がると昇級試験がますます遠ざかりますよ?」


 そんな権限ギルド職員にあるとか聞いた事もない、しかし無視してスマホに目をやると黙ってギルド職員は魔石を持ってギルドの奥に消えた。


 そしてお金を持ってくる。

 ちなみに当たり前だけどこう言う風に売却とかするとあの領収書みたいな紙もついてくる。


 これは魔石をどれくらいの数売りましたよってヤツね、本とかCDを売った時にあったヤツである。

 パソコンの画面にデジタルペンでサインもした。


 そんでその紙なんて普通は見もせずに捨てるのだけど、今回は水希に前以て幾つか言われてる事がありそれを確認する。


「………どうかしました?」


「………いえっ少し確認を」


 僕が領収書を確認すると、何故か少しそわそわし始めたギルド職員。

 その理由は直ぐにわかった。

 ………はぁっ本当に数が合わないな。


「………売った数と合いませんね」


「ッ!?」


 僕の言葉にギルド職員の表情が引きつる。

 このギルド職員は僕が持ってきた魔石の一部をちょろまかしていた。

 理由は不明、小遣い稼ぎのつもりだったのか?


 どのみち信用第一のギルドの人間がする事じゃないね、僕が久しぶりにそのおっさんの顔を真っ直ぐ見ると相応に疲れたおっさんフェイスの両目が見開かれていた。


「気のせいでは?」


「そんな訳ないでしょう」


 そう言って颯爽と現れたのは水希桜子である、今回のギルド職員が中抜きしてる事を昨日の今日で見抜いたのは彼女だった。


 むしろこれまでずっと気づかなかった僕は何なんだって話だけどね。

 仕方ないじゃん、嫌いな人の話題とかその人間とのやり方とか最短で終わらせてさっさと忘れたい人間なんだよ僕は…。


 まあそれはともかく、現れた水希を見たギルド職員はまさに苦虫をかみつぶしたような顔ってヤツをしていた。


 ここまで人を忌々しそうに見れるのかおっさん…ちょっと引くね~てレベルで顔に内心が滲み出ておりますな。


「……失礼ですが持ってきた魔石の数を数え」


「事前にスマホで今回不動さんが売る魔石を写真で撮ってます、そしてそれを手にしてここまで移動して貴方に渡す所までの動画もね」


「……ッ!」


 完全に狙われていた事を理解したおっさんの顔は……もう説明する気も失せる様な表情をしているな、大人が学生に向けていい顔じゃないよそれ。


「……ちなみにさっきのギルド職員の評価が昇級試験にとかって発言もスマホで録音してますからね」


「なっ!?」


 こちらも水希に言われていて僕が実行していた事だ。

 何でもこのギルド職員は圧倒的にこちらを侮っていて脇が甘いらしく、突けばボロが次々に出てくるから一つでも多くそれらを集めて欲しいと言われたんだ。


 それらに全く気づかなかった僕は一体何だったんだろう…まっいいけどさ。

 僕と水希が無言で見つめる中、ギルド職員は口を開く。


「……おそらくパソコンの打ち間違いでは? 金額に違いは」


「あるに決まってるでしょう?」


「何故そう言いきれると?」


「…本当に人のこと舐め過ぎですね、あのモンスターの魔石は通常のゴブリンの魔石です。ギルドのホームページはおろか冊子にもその一個単価の買い取り価格は載ってるんですよ?」


 水希が呆れた顔で「まさか小学校レベルの数学すら探索者は出来ないとでも思ってます? ここは日本なんですよ日本」とギルド職員を心底見下すかの様に言い放った。


 そうっ黒曜石サソリみたいに滅多に倒されないモンスターはその魔石大きさとかで買い取り価格も変わる、しかしゴブリンやスライムみたいな雑魚中の雑魚モンスターの魔石は一つ当たりの単価が完全に決まっているんだ。


 だから今回はゴブリンの魔石を用意した、数もどんぶり勘定を辞めた上に多めに用意してちょまかしし易くしたのだ。


「……お前ら、私をハメたのか!」


「どの口で言ってるんですか?」

「全く以て不動さんに同意です」


 大人の責任転嫁ってここまで醜いものなんだね、あんまり見たくはなかったよ。


「こっこんな事をしてタダですむと思うなよ!?」


 だからどの口が……。

 するとそんなクズギルド職員の後ろから彼の肩をポンポンと叩く人が現れた。

 クズギルド職員はビクッとなって振り返り、その五十代くらいのおじさんを見る。


 普通のおじさんが相手なのだけどクズギルド職員のその表情は完全にビビっていた。

 そして何故か水希が笑顔で僕にそのおじさんについて話す。


「あの人はこのギルドの責任者です」


「…………そうなんだね」


 水希……容赦ないね…。


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