第12話 ムムッときたアオハルガール

「何なんですかあのギルド職員は!?」


「まあ…こんな事があるのも人生さ」


 結論から言うとダメだった。

 やはりダンジョンギミック頼りでモンスターを倒しても実力があるとは認められないらしい。


 水希が黒曜石サソリを倒せるのならダンジョンギミックでも何でも使っても問題ないでしょうと抗議をしたがダメだったよ。


 ちなみに黒曜石サソリの魔石は普通に買い取られた。

 こっちが何か言う前に普通に換金されてしまってお金だけ渡された。

 水希はその金額にも渋い顔をしていたけど、何か気になる事でもあったのかな?


 その後もあの男性ギルド職員はお得意の口八丁手八丁で言葉を並べる理論武装で何が何やら分からん内に昇級試験の事も有耶無耶に……。


 なんか今日はドッと疲れちゃったな、もう家に帰って寝たい気分だよ。


「……不動さん、明日も空いてますか?」


「明日?」


「はいっ学校があるので放課後なんで少し遅くはなるんですけど、もう一回ダンジョンに行ってモンスターの魔石を幾つか準備して欲しくて。もちろん私も手伝います」


「魔石を……準備する?」


 何を言ってるのかなこの子は。

 しかし僕の言葉に水希は不敵な笑みを浮かべた。


「多分あのギルド職員……不動さんを、そして探索者になる人たちをちょっと舐めてると思うんですよ。だから少し痛い目にあってもらおうかなって…あっ精神的にですからね、肉体的ではないので安心して下さい」


「……………」


 1ミリも安心出来ないよ水希さん?

 どうしょう、水希がいつの間にか暗黒面に堕ちてしまっていた。

 ここは「争いは何も生まない」とか薄っぺらい正論で待ったをかけるべきなのか?

 そうこう思案していると水希はさっさと歩き出してしまう。


「それじゃあ明日もよろしくお願いします」


「えっあの~ちょっ……」


 …行ってしまった。

 どうやらまだまだ学生の水希にはあのギルド職員の横柄な態度が大分癪に障ったらしい。

 若いね~アオハル万歳。


 あんなヤツ、社会に出たら腐る程いるから僕は何も感じないがまだまだ青すぎるアオハルガールにはムムッときてしまったのかな。

 いやっ僕もピチピチの二十歳だけどさ。


 はぁっ仕方ないな。

 どうやら水希には何やら狙いがあるらしいし、多分巻き込んだのは僕の方なんだろうから好きにさせてみよう。


 あのギルド職員が彼女にまで目をつけてきたら流石に僕も黙るつもりはないしね、まっ探索者が社会で出来る事なんて限られてるけど…。


 そして翌日は別のダンジョンで水希のスキルや僕でも普通に戦って倒せる強さのモンスターを何体か倒して十四個の魔石を手に入れた。


「どれも買い取り価格はそこまでな魔石だけど大丈夫?」


「はいっむしろ数が多い方が向こうも行動を起こしてくれると思うんで大丈夫ですよ?」


「行動?」


「ええっ取り敢えずスマホで買い取らせる魔石の写真を撮ります。他の魔石は持っていませんよね?」


「うんっ持ってないよ」


 何故かアイテムがドロップしても売るのは魔石だけ、そして売る魔石以外は持ち歩かない様にと言われた。


 何か理由があるんだろうけど、その事について質問しても笑顔だけで説明してはくれないのだ。

 そしてあのギルド職員の事について話をしようとするとその笑顔が笑顔のまま怖いオーラを放ち始めると言うね…。


 もう本当に何をするつもりなのか怖くて聞きたくなくなってくるよ。

 どうか物騒な真似はしないでくれと祈るだけだ。


 そしてダンジョンから魔法陣を使い戻ると【異界の大回路】の魔法陣の部屋に到着する。


 左右に石版が並んだ道を抜けて廊下に出て階段を目指して進む。

 すると水希は廊下に数人いるギルドに雇われた警備員の方を見ている。


「……多分あの中の誰かね」


「警備員がどうかしたの?」


「はいっ多分受付に行けばまたあの男の人が待っていると思いますよ」


「………そう」


 まあいつもいるしね。

 しかしおじさんが待っていると言うのは慣れていても気分は落ち込むものだ。

 だって何も嬉しくないからね。


「それじゃあ行きましょう」


 何でか笑顔で階段を上がる水希、対照的に僕は気が重い。


 だってあのギルド職員、強いモンスターの魔石を持って行っても実力を認めないくせに弱いモンスターの魔石だとそれはそれで嫌みを言ってくるんだよね…。


 ホント、お金が絡まないなら顔すら拝みたくない相手なんだ。

 僕は足どり重く水希の後を追って階段を上がっていった。

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