第11話 怖い雰囲気の水希

 と言う訳でダッシュで黒曜石サソリから逃げる。

 一応探索者だし軽装なので逃げ足には自信があるけど体力はそこまでなので逃げ切れるかは微妙な所だ。


 まあ距離的に考えるともう少しなので頑張ろう。

 えっほえっほえっほ…あぶな!


 黒曜石サソリの尻尾の針が僕を狙う、左右にステップして躱し、ハサミをハンマーみたいにして振るってくるので逃げる速度を上げて攻撃の範囲内から逃げる。


 もちろん諦めて帰られるのも困るので適度に挑発代わりの攻撃もする。


「……『どこまでも続くその道を、歩むだけの物と思うな。隠されるは迷宮の敵意、常に退路を忘れるなかれ』」


 キーワードによって起動するダンジョンギミックを発動させた。

 発動したのは本来洞窟の通路の上、天井が崩落し今来た道が塞がれた~ってなるダンジョンギミックである。


 それを通路を歩いてる場面でサソリにかましてやったのだよ。

 突然天井が爆発し、無数の岩が崩落してくる。

 さすがの黒曜石サソリもガツンガツンと岩がぶち当たればかなり痛いと見た。


 思わず足を止めて防御態勢を取っている、僕も息を整えよう。

 そして崩落が終わると再び黒曜石サソリが動こうとするので…。


「ウスノロってこう言う攻撃が外れないから的には丁度良いんですよね~ぷぷぷのぷ~~」


「…………」


 もちろん黒曜石サソリに人間の言葉なんて通じてはいないだろう、でも馬鹿にしてるって雰囲気は伝わると思うんだよね。


 実際に少し遅くなりかけた動きは途端に俊敏になり邪魔な岩をハサミを振るって破壊しだした。


 うわっ砕けた岩がこっちに…これは早めに退避するに限るね。


 またまた追いかけっこを再開する。

 こんな感じで時には逃げに撤して、時にはダンジョンギミックで注意を引きを繰り返して僕は黒曜石サソリを誘導していった。


 そしてようやく例の場所まで戻ってくる。

 それとなく岩が積まれた場所を見ると水希が息を潜めて待っていた。

 一人で逃げてなくて本当によかった。


 事前に魔法陣が出て来る場所とその範囲についてはレクチャーをしている、一発勝負だが水希には頑張ってもらいたい。


 もちろん僕も可能な限りサポートするけどね。

 黒曜石サソリは僕だけしか見ていない、水希の存在には気付いていない様だ。


 繰り出されるハサミと尻尾の毒針攻撃を躱して躱して躱しまくる、そろそろ僕の体力も限界だからこの辺りで勝負を決めようか。


 よしっ魔法陣の範囲にヤツが入った。

 ここが勝負だ、僕はトリモチボールを投げつけた。

 黒曜石サソリはまだあったのかと思ったかも知れないね。


 トリモチボールはその拘束力を遺憾なく発揮してその巨体の動きを封じた、僕はそそくさと魔法陣の範囲外に逃げる。


「準備出来たよーー!」


「待ってました!」


 本当ならここまですれば後は攻撃スキル持ちを並べて攻撃スキルで集中砲火で倒せるのだが僕はそんなスキル持っていない。


 だからこそダンジョンギミックで戦っているんだ。

 水希が平べったい岩の真ん中にちょんとあるボタンを押した。


 魔法陣は黒曜石サソリを包囲する様に出現する、その輝きは真っ赤で如何にも危険な気配を感じさせる代物だった。


 黒曜石サソリもそれを感じ取ったのか、それはもう全力で暴れようとしたがトリモチが邪魔をしまくる。


 しかし無情にも魔法陣の効力が発揮され、あの黒い巨体は一瞬にして塵になってしまったのだ。


 後には黒曜石サソリの立派な魔石がドロップしているだけだ。

 今回もアイテムドロップは無しか…ちょっとガッカリ。


「スッスゴイ…あんな強そうなモンスターを本当にダンジョンギミックだけで倒せるだなんてビックリしました!」


 水希が目をキラキラさせながら言ってくる、確かに黒曜石サソリレベルのモンスターを倒すなんて中級探索者でもまず出来ない経験だったろうしね。


 けどギルド職員の件もあるので注意をしておこう、ダンジョンギミックに頼ると昇級試験を受けられ難くなるってね。


「いや~ギルドの人からは自力でモンスターを倒せる実力をつけろ、じゃないと中級探索者への昇級試験は受けさせられないって言われてるからオススメは出来ないやり方だけどね」


「は? それっおかしくないですか……?」


 水希の表情が何やら怪しいヤツを見つけたかの様に変わる。

 臭う、臭いますね旦那……そんなセリフを言いそうな感じに訝しんでいるぞ。


「そうなの?」


「だって昇級試験を受けるのにギルドの職員が口を挟むこと自体おかしいですよ、そもそも実力が足りないって…」


 水希はチラッと黒曜石サソリの魔石を見る。


「あのレベルのモンスターを狩れる探索者が中級探索者になる実力が足りないなんて、殆ど言い掛かりじゃないですか?」


「う~んどうだろうね、何しろ無視して昇級試験を受けようとすると魔石の買い取りを拒否するとか、本当にしつこい嫌がらせをしてくる職員だから…」


「……ふぅ~んそんなギルド職員がいるんですね」


 彼女の目がスッと細くなる、ちょっと気配が怖くなった。

 多分何か思う所があるんだろうけど、残念ながら僕には分からない。


 「まあそれもこれもこの黒曜石サソリの魔石を持って行けば解決するさ、例えダンジョンギミックで倒したっていっても成果を出せば文句もないでしょ」


「……そうですね、それなら文句もなにも出ませんよね」


 と言う訳で僕たちは万が一にも二体目の黒曜石サソリが追ってくる前にさっさと魔石を手にして意気揚々と【エルマドル砂海】を後にした。




 

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