第10話 トリモチボール
僕は水希に『水操作』のスキルで黒曜石サソリをおびき出せそうな真似が出来るのかを尋ねた。
たとえばの何かしらの生き物を模した動きをさせたりとか…まあ水の塊が宙を動いてるだけでも気を引けそうだけど。
後はスキルの効果がどれだけ離れてるくらいなら問題なく使えるかについても聞く。
あんまり離れると効果が切れると言うのなら距離を置くことが難しくなるからね。
それらについて水希が答える。
「黒曜石サソリを釣れそうな生き物…ならヘビとかでどうですか? 距離は大体百メートルくらいかと…」
「そうか、なら黒曜石サソリの姿を先ずは確認してその後に水希のスキルでここからおびき出そう」
「おびき出せなかったらどうしますか?」
「あのダンジョンギミックが使えないなら勝ち目が少ない相手だ、諦めて別のモンスターにターゲットを変えよう。無理は禁物だ」
「分かりました」
彼女は素直に頷く、素直に人の言うことを聞けるってやはり美徳だと思うな。
無理して死んだり大怪我をすれば探索者すら続けられなくなるからね、そこは無理をするべきタイミングなのかはちゃんと考えるさ。
というのは訳で如何にも出そうな洞窟の中に侵入、息を潜めてコソコソと進んでいく。
そして暫く進むとそれらしいモンスターを発見した。
回りの黒い水晶よりもずっと大きくずんぐりしているのが動いていた。
アレが黒曜石サソリか、確かに硬そうな外殻を持ってるな。
僕の短剣じゃ攻撃しても簡単にポッキリといきそうだ。
「見た目は……動きとか遅そうですね」
黒曜石サソリを見た率直な意見を言う水希だ。
確かに、サンドアントとかもそうだけど幾ら虫型とはいえ僕らが知る虫、例えばあの黒いやつらみたいに俊敏には動ける訳ではない。
サソリがあの黒いヤツ並に早いなんて聞いた事はないしね。
「……問題は離れていても攻撃する能力とかあると怖いんだよね、だから出来るだけ距離を取りつつ誘導したい」
「それで私のスキルを餌におびき寄せるんですね」
「そうっ後はヤツを誘導する通路にまたモンスターが現れていないかの確認を…」
ズンッと言う重たい音がした。
……僕たちが観察していたヤツとは別の個体が傍にいたみたいである。
「ふっ不動さん…」
「こう言う時こそ冷静に……逃げるよ」
二体目の黒曜石サソリはハサミを動かして威嚇してくる。
もう一体にも気づかれた。
…僕たちは全力で逃げる事にした。
「ひいぃいっ死ぬーー!」
「落ち着いて、まだ死にはしないから」
僕たちを追ってくるのは二体の黒曜石サソリ、しかし幾ら大きめの通路とはいえ洞窟は洞窟。
さすがに巨体なサソリが二体も並んでは追っては来れない、前後に並んで追ってきている。
そして離れた相手を攻撃する手段もないようでハサミと尻尾を振るって攻撃してくるくらいだ。
恐怖に負けて錯乱でもしなければ生き残れる可能性は十分にある。
「……まああれなら何とかなるかな?」
「なっなんとかなるんですか!?」
「やってみるよ」
僕はポケットに手を入れた、モンスターに奇襲を許したりしてこちらの態勢が整う前に戦闘に入ったら大して強くはない僕は詰む。
そこでいざって時に逃げ切る為の手段も幾つか用意はしているのだ。
いつでも取り出し安いポケットとかに入れてね。
ポケットから出したのは手の平の上を転がるゴムボールみたいなヤツだ。
「そっそれは…」
「ダンジョン探索者御用達の逃走アイテム、トリモチボールだよ」
トリモチボールを背後にポイッと。
トリモチボールは前方の黒曜石サソリに当たると簡単に弾ける、するとその中にあった大量のトリモチが出て来て黒曜石サソリの動きを封じる。
あのゴルフボールくらいの玉にどうやってあれだけ大量のトリモチが入れられていたのかは謎である。
黒曜石サソリは洞窟の床と壁にトリモチが張り付きこちらを追って来ることが出来なくなった。
もちろん後ろの黒曜石サソリは前方のヤツが邪魔で追って来れない。
「ふうっこれで何とか大丈夫だ…」
「ハァッハァッハァッ…あのトリモチボールって凄いですね」
一気に距離を取り息を整える。
そして水希が肩で息をする状態から脱したタイミングで話を続ける。
「あのサソリ、番なのかな…まさか二体でいるとか勘弁して欲しいね」
僕の持つスキルは二つだけ『迷宮文字解読』と『記憶保存』だけだ。
戦闘自体には殆ど役に立たないスキルしかないのであんなモンスターを二体も相手にしたら死んでしまう。
本来なら目的の達成は困難なのでダンジョンから撤収も視野に入れる必要があるんだけど……。
ズガァンっと感じの岩を砕く音が聞こえた。
「……恐らく後ろにいた黒曜石サソリが通路の壁を破壊して回り込んでこようとしてるね」
「どっどうしますか?」
「多分トリモチボールをどうにかするのは無理なはず、一体なら予定通りあそこにおびき寄せる。僕が餌になるから水希はあのボタンがある所に先に行って待機してもらえる?」
「はいっ!」
水希は走り出す。
あのままダンジョンから逃げたりしないと良いんだけど、その時はその時だね。
黒曜石サソリ、調べていた以上に強そうだったから。
ビビってる気持ちは分かる。
けど出来ればあそこでスタンバっていて欲しい。
少し待っていると予想通り黒曜石サソリが一体で現れた、こちらに対する強い殺意を感じる。
「それじゃあ追いかけっこの再開かな?」
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