第3話 キーワード

 僕はすぐに行動を開始した。

 まずはバレないように僕に背を向けているバジリスクの左側後方の石ブロックが積まれた石壁の側面に移動する。


 そしてバジリスクがゆっくりと移動してこちらが狙っている地点に来た段階で その石ブロックの壁にあるブロックの一つを少し力を入れて押した。


 すると本来動くことがない石ブロックが奥に入り込むように動いた。

 ダンジョンギミックの発動だ。


 爆発音がした。

 僕から見てバジリスクが立っている右側真横の壁の石ブロックが吹き飛んで、ものすごい勢いでバジリスクに向かってすっ飛んでいく。


 壁から矢なんて生易しいもんじゃない、何十個もの大きな石のブロックが襲ってくるダンジョンギミックだ。


 人間よりも大きなバジリスクは体で受けるが、それでも石ブロック自体も大きく数も多い。


 バジリスクはたまらず左側の壁に吹っ飛ばされてしまった。

 僕はすぐにへたり込んでいる女の子の探索者の元へ行く。


「大丈夫かい?」


「あなたは…一体?」


「もちろん探索者だよ、偶然この場に居合わせたね」


「助けてくれるんですか?」


「そうだよ、困った時はお互い様。ダンジョン内では探索者同士の助け合いが推奨されているからね」


 吹っ飛ばされて壁に激突したバジリスクの方を見る。

 結構なダメージを与えたので動きは鈍くなっているが、まだ光になって消えてない。

 つまりは生きているってことだ。


「さあ立って、モンスターはまだ生きている。油断しちゃ駄目だ」


「わっ分かりました…」


 彼女は何とか立ち上がろうとする。

 しかしバジリスクの方はそんな真似を許す程甘くない。

 ヤツの魔眼が再び光った。


「…まあ僕には聞かないんだけどね」

「!?」


 バジリスクの頭はヘビなので感情が読み取れるわけではない、ただ明らかに動揺していることだけはわかった。

 バジリスク同様に驚いている探索者の女の子が聞いてきた。


「バジリスクの魔眼が効かないなんて、どういう事なんですか?」


「本来なら秘密にするんだけど…その理由はこれさ」


 僕は右手の人差し指にしている赤い宝石が埋め込まれた指輪を見せる。


「これはバジリスクリングと言われている、身につけていればバジリスクの魔眼の石化を防ぐ事ができるバリアを展開出来る上に石化された人間を元に戻すこともできるダンジョン産のアイテムだよ」


 バジリスクリングはバジリスクを倒す と低確率でドロップするドロップアイテムの一つだ。

 コイツのおかげで僕も彼女も石化していないのだ。


「すごい、どうしてそんなアイテムを持ってるんですか?」


「そんなの僕がバジリスクがこのアイテムをドロップするまで何体も倒したことがあるからだよ」


「シャアァアーーーーーーーッ!」


 自身の必殺の魔眼が通用しないことが分かってこちらへの警戒度を一気に上げたバジリスクが威嚇してくる。


 しかし残念ながらそれは失敗だ。

 それだけ図体がデカイんだから一気に力押しで来られた方が僕は負けていたんだよ。


 バジリスクはそこそこ頭が良く性格が悪い、故に未知の相手に対していきなり仕掛けるということをつい躊躇してしまうという弱点があった。


 僕からすれば…そういう相手は狩りやすい相手なのさ。


「来ないのならこちらから行くよ、そして終わらせるね…」


 僕は右手をバジリスクの方に向ける、これ自体に何の意味もない。

 バジリスクへの陽動と後ろにいる探索者にダンジョンギミックじゃなくてスキルでモンスターを倒しましたと勘違いしてくれないかなというアピールだ。


「…『積まれた石の壁に潜むは悪意、進む者よ、その悪意に気づかねば貫かれるわ己が命と心得よ』」


 ダンジョンギミックはなにも壁を押したり床を踏んづけたりする以外にも無数に発動させる条件がある。


 その一つがこんな感じのキーワードを口にすることだ、ただこれはとある場所にある石版に記されてる象形文字を解読できないと誰も使えないんだけどね…。


 ダンジョンギミックが発動した。

 バジリスクの背後の石の壁が崩れ、その向こうから漆黒の槍が無数にバジリスクに向かって放たれる。


 バジリスクは背後から貫かれ絶命した。

 壁を背にしてるからというのも油断をした理由の一つなのだろう、本当に無駄に頭が良いっていうのも考えもだね。

 バジリスクは今度こそ光となって消えた、後には魔石だけが残った。


「すごい…あのバジリスクをこんなあっさり倒すなんて」


「タイミングと場所が良かっただけだよ、普通ならまず勝てる相手じゃない」


 よもやこのダンジョンのこの回廊という、僕が割とバジリスクをハメて倒すために使ってるダンジョンギミックがある ところで襲われていたのだ。

 この子たちはある意味運が良かったのだろう。


「…さて、まずは石化した君の仲間たちの石化を解除していこうか」


「あっありがとうございます!」


 そういうとその女の子の探索者は目に涙を浮かべていた。

 きっとダンジョンに潜るようになって、初めて死にかけたんだろうな。


 僕にも経験がある、ダンジョンは気を抜けばあっさりと人が死ぬような危険な場所だ。

 それをを改めて実感した彼女とその仲間にはそのことを教訓にしてもらいたいね。

 一応同じ探索者なんだし…。

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