第3話 プロローグ③
菘は歴史資料室の中に入った。西日が差し込む教室に、無数の埃が舞っている。まるでそう、粉雪みたいにきれいだなぁ…と菘は思ったわけである。
「ぐぇっほっ、ぐぇっほっ、びゃぁっくしゅん!」
まぁ、粉雪ならこんなに咳き込んだり、盛大なくしゃみをするはずもないのだけれど。
「一体全体、どうなってんだこの部屋は。人が入った痕跡ナッシングだよ…」
鼻水をすすりながら、菘は辺りを見渡した。普段の教室とは違い、廊下側の壁には棚がズラリと並んでいる。ガラスの扉からおそらく歴史的に有名なもの(レプリカだけど)や授業で使う備品が置いてあった。逆に、西日の差す窓側にはおそらく何かしらの塗装が施してあった長机がズラッと並ぶ。ただ、カーテンがボロボロなので日差しが直撃したのだろう、すっかり剥げて薄くなっている。
中央には余った生徒用の机といすがいくつかあり、床には無数のプリントがちらかっていた。紙もやけてしまい茶色く変色しているから、長い間放置されていたことが容易にわかる。
「とりあえず、窓を開けて換気せねば…こうも埃だらけだとどうにかなっちまいそうだ…」
窓際の長机を動かすと、さらに埃が舞う。盛大に咳き込みながら窓を開けてひとまず深呼吸。
「こんちわー!」
大きな声と扉の開く音。菘は驚きのあまり窓から落ちそうになったが、なんとかバランスを保つことに成功した。
「え、え、えっと、どちら様で?」
セミロングで少し茶色の混じった髪型。腰にセーターを巻いてなおかつブラウスは腕まくり。いや、まくるならセーターいるのか?と思いもしたが、こういうファッションもあるんだろう…と菘は納得した。
「私は、1年B組出席番号1番!赤羽椿だ。よろしくなっ!」
「赤羽…椿…あ!思い出した!部活動荒らしの椿さん?」
「えっ?私ってそんなに有名人になっちゃったの?」
椿は後頭部を触りながら照れているアピールをしている。
「あら、先客がいらっしゃるみたいよ?」
今度はおしとやか…いや艶やかな声が響いた。
「どうやら私たちと同じようにここを掃除しなさいとでも言われたのでしょう」
次は透き通るような、けれどすこしとがったような声。
「なんだなんだ?今日はここでパーティーでもあるのかい?」
いや、そんなわけないだろ!と菘は心の中でツッコミを入れた。
「私は1年D組吉村桜と言います。どうぞ、よろしくね」
黒色のきれいな長髪。それを手でさらりと触る仕草はシャンプーのCMのよう。この人本当に女子高生なのだろうか…と思わせる色っぽさと大人びた雰囲気。
「私は1年K組磯貝薊だ。よろしく頼むよ。」
「Kって特別進学クラス?すげぇ、薊ってかしこなのか?」
椿の言葉からあふれるおバカ感…。それを薊はきっちり拾う。
「まぁ、そうだな。頭の出来が君とは違う…って赤羽椿?そっちはあの桜さん?」
「えっと、私は市野菘と言いまして…」
「あらあら、校内きっての天才、磯貝さんとスポーツウーマンの赤羽さん。それから…」
3人は菘をじっと見つめた。
「わ、私はしがない遅刻魔でして…」
なんだろう、このむなしさは。夕日がいつもより目に染みる菘であった。
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