第2話 プロローグ②

拝啓、お母さま。菘は今とっても困っております。

市野菘は人気のないとある教室の前に立っていた。場所は特別棟という、校内でいうおところの西側にそびえ立つ4階建てのコンクリート製の校舎だ。1階は多目的学習室(通称居残り監獄)、2階は理科関係の研究室があり、3階は音楽室と美術室と書道教室。そして、ここは4階。扉の上にはかすれた文字で歴史資料室と書いてある。




遡ること15分前…


「先生、えっと、私に何か用でしょうか?」

恐る恐る口を開くと、担任は大きなため息をついた。

「市野、俺は勉強がすべてだとは思っていない」

はぁ…

「勉強は今日から頑張れば何とでもなる」

ごもっとも。

「だが、これんばっかりは見過ごせない」

何でしょう?

「遅刻の回数だ!お前、今日の遅刻でめでたく15回目だ!」

あっ…

「この前も言ったよな?15回でペナルティーがあるって」

「そ、そうでしたっけ?45回の間違いじゃないですか?」

とぼけたところで火に油を注ぐだけだった。

「最速記録だよ、まったく」

「そんな、褒められても照れちゃいますね」

「褒めているわけでもないし、褒められたときの顔ではないな」

ひきつった笑顔を見せるも、あっさり見破られてしまった。どうも、菘は顔に出やすいタイプのようだ。

「それじゃ、ペナルティーもとい罰ゲームの会場に行くぞ」

担任はまたためいきをつくと教室を出て歩き始めた。菘も慌てて鞄を持って後を追う。そして歩みを進めた結果、恐怖に顔がひきつってしまった。

「先生、ここって居残り監獄じゃないですか…」

西館の前に立つと、担任は菘の頭をぽかりと叩いた。

「それは通称であって正式名称じゃない。それにここじゃないぞ、4階まで行くからな」

担任の後ろをついていく。階段を上り、また上り。やっとのことで西館4階。そしてあの歴史資料室の前にやってきたわけだ。


現在…

「市野、ここの掃除がペナルティーだ。期限は設けないが、しっかり掃除するように」

「いやいや、先生。ちょっとここは広すぎやしませんか?」

西館はそもそも1つの教室が大きい。通常の教室(菘のクラス、1年A組は30名で、少し余裕があるかな、という広さ)の約2倍。ひとりで掃除となると何日かかるのやら。

「いいか、遅刻癖は今なら掃除で解決できる。けどな、大人になるとそういうわけにはいかない。今のうちに、根性を叩き直す!」

腰に手をやると、担任はひときわ大きな声で叫んだ。

「は、はい!」

思わず敬礼してしまう菘。そして手渡される地獄へのカギ。

「あと、成績の件だけど、今日お母さんと電話で話しておくからな」

最悪の伝言を残し、担任は去っていった。どうやら、掃除の後も菘の地獄は続くらしい。


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