あぁ、グダランティーヌ姫!

やややすなん

第1話 プロローグ①

市野菘は悩んでいた。高校生というこの世のあらゆる可能性を秘めた身分を得ていながら、何もせずにグダグダダラダラ過ごすことに…。

コンビニで買った小さな紙のリンゴジュースを飲みながら、ぼーっと教室を眺める。

流行りの音楽について語る人もいれば、昨日のネットニュースについて議論する人もいる。化粧の出来栄えを自慢したり、ピアスはどちらの耳にすべきかを考えている人。真面目に参考書を読んでいる人。きっと末は博士か大臣か。


高校生になると自動的に青春モードになると思っていた。何についても熱くなれる、一瞬一瞬が燃え上がるようなかけがえのない日々。

けれど、そんな日々は受動的に得られるわけではない。自分から動いて得なければならない。その動く気力がないのだ。車でいうところのガソリン不足でエンジンもお休みモード。


「ほら、終礼だぞ、早く席につけ」

紺色のスーツ姿の担任が勢いよく教室に入って来た。彼はきっととてつもなくすごいエンジンを積んでいる。4WDだな、あれは。


「高校生になって2か月経つが、みんなどうだ?学校には慣れたか?」

ニコニコの笑顔で教室を見渡す。さっきまで放し飼い状態だった高校生たちはいつしか自分の席について担任をじっと見つめた。

2ケ月経って分かったのは、この紺色担任はそこそこ人気のある教師だということだ。女子人気はもちろんのことながら、サッカー部の顧問で休み時間は校庭で男子と戯れている。教師になるべくしてなったわけだな、きっと。


「それじゃ、この前の中間テストの結果を返すから呼ばれたら取りに来るんだぞ」

教室中から悲鳴やら歓声やらよくわからない声が響き渡った。


市野菘は飲んでいたリンゴジュースを吹き出しそうになっていた。

(まずい、これは父親が作る海鮮チャーハンと同じくらいまずい)


全ての教科が欠点ギリギリ。いや、ギリギリアウトの教科もあったはず。無気力オブザイヤーを獲得してもおかしくない菘にとってみれば、地獄の再認識、もう2度と見たくない光景を手渡しされる。それも…


「市野!おい、市野。早く取りに来い」


出席番号1番はその地獄絵図を最初に手渡されるのだ。


「そうだ、市野。終礼後、話があるから教室に残っておけよ。絶対だからな」

少し意地悪な顔をする紺色担任。


おやおや、市野さん。顔が真っ青ですよ。そりゃそうだ。手渡されたのは地獄のようなテスト結果。おまけにさわやか担任の少し怒り成分がプラスされた声色呼び出し。

いいことなんてひとつもない。なんて世界は私にとって不都合なんだ!と、不幸な主人公感を演出している菘さんでした。





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