第23話 僕の過去1
僕が【術式】を嫌っている理由は、大切な人を奪ったからだ。
いや、これはいいわけだな。
僕が日本で普通の中学3年生として生きていたときのことだ。
6月6日。忘れもしないあの日。その日は、梅雨の真っ只中で、大雨だった。
僕は、幼馴染である佐藤加奈と家でゲームをして遊んでいた。
「あっ、このっ、てい!」
「そんなにコントローラーを左右動かしても変わらないぞ。」
「あっあ~また負けたぁ。少しは手加減とかできないの?」
「ふっ手加減など相手に失礼だろうが。」
「もう、でたなガチ勢!もう一回!もう一回だけ!」
「え〜、って言ってもこれもう本日60回目だぞ?」
「うるさい!私は負けず嫌いなのっ!」
「はいはい。わかったよ。でもあと一回だけな?もう18時だし。」
「うん!あと一回だけ!」
こんな幸せな時間が続けばいいなと思っていた。
が、世界はそんな寬容ではない。変化がないことなどありえない。
そんなこと、当時の自分でさえ理解していた。が、人間自分だったら大丈夫だろうと思いこんでいるものだ。
「ねえ、つかさ。次のゲームで勝ったらさ、私のお願い一つだけ聞いてくれない?」
「な、なんだよ急に。」
「いいでしょ?」
「まあ、いいけど。」
―――
「やったあ!勝った!」
「っ負けたぁ〜。強くなったなぁ。」
「ふふ!じゃあ約束。守ってもらうわよ!」
「ああ、なんだよ。」
「私、と付き合って!」
「え、あっその」
「これはお願いよ。強制はしないわ。だから断っても――」
「――よろしくお願いします!」
「っ、、うん。これから私達は恋人ね!」
これはいい変化。起こることにより、更に幸福が増える。
しかし、幸福とは失うことに弱い。
大切なものは作れば作るほど、失ったときが怖い。
世の中は理不尽だ。僕は理不尽が大嫌いだ。
「ねえ、『愛してるよゲーム』、しない?」
「またまた突然、まあいいけど。」
「ふふ、いっかいつかさとしてみたかったんだぁ〜。ち〜ゃんと目合わせてね?」
「あ、ああ。」
「愛してる!」
「も、もういっか――え?」
彼女は消えた眼の前から、消えた。突然のことでよくわからなかった。
その時の僕は混乱していたため、きっと僕が意識を失っていたんだと思った、思い込むことにした。
そして階段を降りて行く。そして下にいる父と母に聞く。
「加奈見てない?」
その言葉に反応した母は振り向きながら言う。
「あら?知らないわy――」
消えた。母が、無くなった。空間から消えてしまった。
「えっ、あっ、」
僕の戸惑いを隠せない声を聞いた父が近づいて来る。
あっ、あっ父さん!こっちにきちゃだめだ!
心のなかで思っても口には出せなかった。
いや、これも言い訳だ。僕の心が弱いから、父に伝えられなかった。
父が僕の顔を覗き込む。
父が消えた。
僕は天井を見た。天井が消えた。
無くなった天井を埋めるように、視界いっぱいに雨雲が広がっていた。
大雨だ。家の中に降ってきた雨は、僕の髪を通り、頬に伝う。
しかし、次の瞬間。見えたいた雲は消えた。突然青空になった。
その時僕は気がついた。気がつくのが遅かったことにも気がついた。
多分自分が見たものが消えている。そのことに気がついた僕は、即座にまぶたを閉じる。まぶたが消えることはなかった。きっと自分に危害を加えることはないのだろうと思った。
このときの僕は状況を正しく理解できていなかった。だからこそ不思議なまで冷静だった。
どれぐらいの時間がたっただろう。まぶたを閉じたままあたりを探る。
ああ、暗い。見えない。ああ、なんだ。何があったのだろう。
現実逃避に浸っていた僕の頭に機械音声が響いた。
[ピコン。スキル【空間把握】を取得しました。]
そんな音声を聞き終えたあと、突然視界がひらけた。
まぶたは開いていない。のに、周りがわかる。白黒だ。
が、ないよりかは格段にましだろう。
僕は加奈を、母を、父を、探した。家の中を歩き回って、そして気がついた。彼らはもうここにはいないと。
僕は自分が大切な人を壊してしまった、消してしまったということに気がついて、
涙がいままで流れなかった分流れてきた。そしてやっと声が出た。
「あ、あっああ、う、うあああああああああああああああああああああああ…あっあ、あああああああああああああああああああああああああああああああ、、、」
きっといままで叫ばなかった分の声が漏れたのだろう。
大きな声で長い事泣いていた。
「こんな目なんか!こんな目なんか!いらない!」
そう言うと、また脳内に機械音声が流れる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ピコン。【術式】を封ずるため、
目を封ずることができます。実行しますか?
【はい】 【いいえ】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
...はい。を選択した。目はあかなくなった。こんな目なんていらないから。
玄関でピーンポーンと間抜けな音がなる。
屋根がないこの家に防音性能なんてあるわけがない。
その上であんなに泣き叫んだのだ。きっと近所中に声が響いたに違いない。
『大丈夫?ねえ?藤沢さん?ねえ聞こえてる?藤沢さん!』
その数分後サイレンが鳴り響いた。きっとさっきの人が警察でも呼んだのだろう。
まあ、その時の僕にとってはどうでもいいことだった。長く叫んでいた僕は体力が無くなってしまって、倒れた。意識はそこで途切れる。
「じょう…だ、…じょうぶ、大丈夫?」
はっ!加奈!
僕は飛び起きる。そうだこれは夢だそうだそうに違いない!と思ったが、
ここは病室のようだ。【空間把握】とやらは常時発動らしい。...大体わかる。きっとあそこで意識が切れていた自分、そして消えていた天井。当時その部屋にいたはずの3人。これを踏まえて事件とした警察。
倒れていた少年を、病室に運んだ。そんなところだろう。僕はやはり冷静だった。
泣き叫んですべて吹っ飛んだわけではない。深く考えたくなかっただけだ。
先程の声の主はぁ、、、きっとこの看護師だろう。
返事などできるわけがない。大丈夫?そんなわけ無いだろう。
自分が3人殺した!そうだ。僕は死ぬべき人間!、、、自白すればもしかしたら!
ああ、早く加奈、母さん、父さん。会いたいよ!
と期待した自分が馬鹿だった。
「ぼくが、さんにんけした。みたらきえた。」
震えるカタコトな日本語で看護婦に説明する。が、首を傾げるだけだった。
そりゃそうだ。たとえ中学三年生だとしても、自分が見たから人が消えたなんて話をそのまま信じるやつなんかいない。
看護師は最後に
「ちょっと待ってね?」といって部屋を立ち去った。
次に部屋に入ってきたのは先程の看護師、、、ではない。警察だ。
警察が病室に入ってきた。彼らは事情聴取をするために入ってきたようだ。
聞いてきたことに答える。
「昨日その時間なにをしていたのかわかるかい?」
口調がやけに優しい。先程看護師に伝えた事情がそのまま伝わって、精神に異常があるとでも思われたのだろうか。
「はい、ぼくは幼馴染の加奈とあそんでいました、かくげーで」
「なるほど、次に消えた佐藤加奈さんと君のお母さんお父さんについてなにか心当たりは?」
「あります。」
嘘など付く必要はないから正直にこたえる。
「教えてくれるかい?」
「はい。僕が消しました。」
警察は顔をしかめる。
「消した?とはどういう。」
「そのままです。僕が目を合わせたら消えました。」
「?どういうことかな?」
「僕はいま目を閉じています。その理由は見たものを消してしまうからです。」
そう言った。すると警察は思わぬことを言った。
「目を開けてくれないかい?」
と。
僕は言った。
「目は開けられません。封じました。こんな目などいらないので。」
そう言うと警察は呆れたような顔をして、
「わかった。また何か思い出したら言って。」
といって去っていった。
次に医者が入ってきた。僕の目を手術したいやらなんやら喋っていたが、僕はめんどくさかったので、すべて聞き流し承諾した。
麻酔をかけられたあとは記憶がない。
気がついたのはその1週間後。
医者曰く。
「君の目は絶対にあかない。どんな凶器でまぶたを切ろうとしても切れなかった。そして君を切ることも叶わなかった。刃先が当たらない。なにか特別なものが君を守っている。異常だ。きみはきっと”異端者”なのだろう。」
といった。話を聞くところによると僕以外にも特別な力を持つ人たちがいるとかなんとか。その人達は世界を滅ぼす
そしてそれを育成する施設があるらしい。
僕には考える余裕がなかったので、進められた通りその施設にはいったのだ。
施設はまるで学校のような作りをしていた。まあ結局一般人に学ばせるには学校というシステムが最も有効なのだろう。
担任として紹介された先生。彼は夜露
「よお。俺は夜露
声は爽やか。若くてイケメン。正直かっこいい。年齢は20歳だそうだ。
目に掛かっている前髪が更にイケメン感を醸し出す。
長い髪を結んで束ねているあたり教師か?と疑いたくなるほどだ。
だが、その漆黒の髪は美しい。先生に髪について問うと、毎日手入れを欠かさないらしい。先生はよほどこの髪型が気に入っているらしい。
ちなみに彼も【術式 】とやらを持っているらしい。が、そのときは教えてくれなかった。当時の僕はケチだと思ったが、今思えばそう簡単に渡せる情報ではないからと理解できた。【術式】は住所より重い個人情報だ。教えてしまえば対策されてしまう。そうなれば術者にとっては首元にナイフを突きつけられているのと同じ状況だ。
彼のことをここからは零と呼ぶことにする。なぜって?実際当時の僕は零と読んでいたからな。
「よし。ついてこい。クラスに行こう。」
担任についてこいと言われたのでついていく。
「ここが今日からお前のクラスだ。」
そう言って零はクラスに入っていく。
そそくさと教室にはいる先生に続いて僕も教室に入る。
教室は騒然としていた。みんながみんな誰かしらと話している。
元気のある良いクラスだが、当時の僕からすればうるさくて目障りだった。
「おい。時間だぞ〜。着席しろ〜。」
そう零がいうとみんなが走って席へ向かい、静かになる。
「はい。みんなおはよう。今日は新しく友達が増えるぞ。」
(ほら自己紹介して)
小声で指示をしてきた先生。
「こんにちは。僕は藤沢つかさ15歳です。」
言われた通り端的に自己紹介をすませると、
一人の女子生徒が俺の下へ向かってくる。
驚いた僕は先生の方を向くが、先生は何も言わないらしい。注意しないんかいと心のなかで突っ込んでいた。
「あんた。本当にこのクラスなわけ?みたところ弱そうだけど。」
「どういうことだ?」
意味がわからず思わず尋ねる。
が、彼女はそんな僕を無視して先生に話しかける。
「先生。この子はSクラスにいるべき人間ではありません。実際。目も見えてないようだし、この子一ヶ月前まで一般人だったんでしょう?このクラスにいる資格も実力もないように見えます。」
と少女は言った。
内心Sクラスってなに?って思いながらそいつに問いかけようとした僕を制し、
零が言う。
「それは違うな。お前じゃ負けはしなくとも勝てない。」
といった。
それに対して僕はツッコむ。
「いやいや、僕武術とかもやったことないし、第一自分で【術式】封じちゃってるし...」
「そうだな。だが、つかさ。君は【術式】なしでも彼女に負けない。それこそ俺にも負けないだろう。勝ちはしないがな。」
「それってどういう...。」
「まあやってみればわかるだろう。本日の一時間目は模擬戦とする。それぞれペアを組み、戦うこと。ただし、奏。君はつかさとやれ。」
「っいいわ!私がボッコボコにしてあげるからせいぜい死なないようにね!」
という彼女を放って先生にどういうことかと聞くが、
「ん?まあ戦ってみろ。」と言われてしまった。
ということで一ヶ月前術式で大切な人をすべて失った僕の学園生活が幕を開けたのである。
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