テンカラ 10color

香山黎

テンカラ 10color

 テンカラの第一人者、テンカラ大王こと石垣尚男いしがきひさおいわく――、

「テンカラは、10colorテンカラー


 テンカラ。と聞いてこの文筆界隈で何のことか分かる人はとんどいないのではないだろうか。


 何のことだか分かる人は元々釣りをしている人かアウトドア界隈の人であろう。


 テンカラとは、主に渓流魚、アマゴ、ヤマメ、イワナを狙う、日本古来の伝統釣法である。元々は職漁師の釣り、で効率よく魚を獲るための釣りであった。


 その特徴として道具仕立てのシンプルなことが挙げられる。釣りには六物ろくもつ(下ネタではない)、竿、糸、ウキ、おもり、釣りばり・エサが必要とされるが、テンカラは竿、釣りばり、釣り糸の三物さんもつで事足りる釣りといわれる。この場合の鉤とは毛鉤、つまり水生昆虫や羽虫の疑似餌ぎじえを指す。


 この釣りの特徴として、シンプルさと手返しの良さ、勝負の速さは他の釣りにはない利点である。手返しの良さ、とはいわば攻撃の予備動作の少なさ、みたいなものである。


 一般的なスピニングリールのついた竿の場合、ラインを巻き取る→ベイルを起こす→糸に指を引っ掛ける→キャスト→ベイルを戻す→糸を巻くという繰り返しになる。


 テンカラの場合リールが無い分、キャスト→流す→キャストの繰り返しになる。この比較だけでも複数のポイントにジャブの連打のように何度も打ち込めることが分かるであろう。


 また毛鉤というホンモノではないニセモノをあたかもホンモノのように見せて魚を騙して釣る、というところにも面白さがある。


 そして前述の通り、簡素ゆえに各々が創意工夫する、技量に明確な差が出る、まさしく『十人十色』の釣りなのだ。


 今年も渓流解禁され(禁漁期間がある)ゆっくりとテンカラのシーズンが近づいている。


 深山幽谷を踏み分け、尾根を越え、滝を巻き、水墨画の如き柳緑花紅の渓流に至る。

 そして岩に隠れ木に化け、竿を振るう。

 僅かな魚信を己の感覚を信じてアワせる。瞬間に水中でギラリと光る魚影。慎重に引き寄せ、タモで掬う。

 まみえるは美麗なる渓魚。


嗚呼ああけだし男女の交わりは、水魚の交わりに如かず――。


 少年よ、今すぐ書を捨て、竿を持て。


 マッチングアプリで女を引っ掛けるのではなく、テンカラで雨子アマゴ山女魚ヤマメを引っ掛けろ――。

 ※渓流釣りには遊漁券の購入が必要です。

 


 

 

 

 

 

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テンカラ 10color 香山黎 @kouyamarei

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