実話5割という紹介文がありましたが、仮に半分であったとしてもこの状況を経験した人物が、この経験をふりかえって客観的に、冷静になって作品に仕上げるのはよほどの精神力があってのことでしょう。ラストシーンでは、読者のほぼ全員が梓を応援する気持ちになったでしょう。きっと、最後は小さくても確実な勝利を勝ち取ってフィナーレを迎えるんだろうと思ったことでしょう。そう思わせておいて、大どんでん返しには驚きました。こんな落ちを書けるのは明治の文豪ぐらいなんじゃないかと。
決して今の流行りのジャンルではない、主人公に全く容赦のない環境。これが現実か。電撃大賞の書評、全く言い得て然りでした。文章から精神的、身体的な苦しみが伝わってきます。が、その描写がページをめくる指を止めさせることはありません。それはひとえに作者の筆致に最後まで読ませる力があるからだと思います。いや、容易に呑み込める分、心にくるのかもしれません。この程度のレビューしか書けませんが、たとえ半分フィクションだとしても主人公の後の人生が幸多からんことを願ってやみません。