貴方しかいないの

奏斗が家を出てから半年が過ぎた。

一緒には、暮らしてないけど職場が同じビルに入ってるおかげで、毎日顔を合わせる事はできる。

お互い気まずさにも少し慣れてきた。

奏斗が出ていく事になったキッカケの作品展は大盛況に終った。

あたしも、ささやかながらに参加させて頂いて多くの方から感想や激励をいただいて、今までの人生で味わった事のない充実感を覚えた。

奏斗と喧嘩したのは寂しいけど・・・

あたしの選択は間違ってなかった。

そして、たくさんの作品を初めて間近で見れた事にも感謝。

とくに、あたしが心に残ったのは、お忙しい方みたいで姿は見る事はできなかったんだけど、ガラス職人の加藤誠さんの作品。

愛する女性ひとを想って作ったと思われるその作品は、切なさと、儚さと、悲しみと、でもその中でも幸せを感じる・・・なんともいえない感情になる作品だった。

きっと、この女性を心の底から愛してたんだろう・・・そう思わせる作品だった。


「最近、りかさんと奏斗さん、一緒に出勤してないですよね?なんかあったんですか?」


事務作業をしながら沙耶ちゃんが言う。


「え?そう?何もないけど?」

「絶対おかしいです。だって半年くらい前までは、ほぼ毎日一緒に出勤してたのに、最近はパッタリ、別々じゃないですか。

もしかして喧嘩しました?」


そんな事思ってたんだ。

奏斗が出てった言葉、わざわざ言うのは面倒くさいから、黙っておこう。


「たまたまよ。喧嘩なんてしてないし、もう2年以上も一緒に暮してると、たまには別々の時間も欲しいものよ。」

「そうなんですかぁ?それなら良いけど〜。」

「今日は、鈴木さんで終わりだね。頑張ろうっ!」


今日の予約最後のお客様をお迎えする。

20年近くエステの仕事をしていて、たくさんのお客様から感謝されたり喜ばれたりしてきたけど、この間の作品展は、それとは全く違うやりがいを感じた。

あたし、もっとたくさんの作品を作りたい!


「ありがとうございました。

お気をつけて。」


笑顔でお見送りして今日の仕事はおしまい。


「お疲れ様でした〜。」

「お疲れ様。気をつけてね。」

「は―い!」


着替えて店の鍵を締めて階段を降りる。

下の美容室はもう灯りが消えていた。


もう待っててもくれないし、家にもいないんだ・・・。


帰る途中、奏斗と入ったお店や、話した事なんかを思い出す。

あのラーメン屋さん、2人ともメッチャ忙しくて、お昼食べる時間もなくて・・・仕事終わったら「お腹すいた〜」て言いながら入ったな〜。奏斗が職場の先輩に教えてもらって、美味しいからって言って。


部屋に着き、灯りを付ける。


「はぁ、お腹すいたな〜。」


手を洗って冷蔵庫を開けるけど・・・

何もない。

なんか食べる物がないかと、引き出しの中をあさる。


ん?


あたしの好きなお菓子や、インスタントラーメンがたくさんある・・・

あたし買ってないけど・・・


「もしかして・・・」


奏斗はまだ合鍵を持ってる。


あたしは奏斗に電話をした。

奏斗が、あたしの事を思って買って来てくれたんだ。

会いたい・・・


急に涙が溢れてきた。

あたし、奏斗がいないとダメなんだ。


「もしもし?」

「もしもし・・・奏斗・・・会いたい、会いたいよ・・・もっかい話しよ。ちゃんと。」

「・・・りかさん、泣いてる・・・?」

「奏斗に会いたくて、あたし・・・奏斗がいないとダメなんだよ・・・」

「・・・わかった。俺が行くよ・・・」


あたしは子供のように泣きじゃくった。


しばらくしてインターホンが鳴る。

あたしは玄関を開けた瞬間、奏斗に抱きついた。


「ごめんね、奏斗、あたし勝手な事言って。

でも奏斗と一緒にいたい。そばにいてほしい。」


奏斗は、そっと、あたしを離した。


「俺も、家を出てからずっと考えてた・・・

りかさんと俺はもう、すれ違ってしまったんだよ。

お互いの考え方が・・・・もう違ってしまったんだ・・・」

「奏斗・・・?」

「別れよう。ごめん、きちんと言わないとと思って来たんだ。」

「・・・・」

「ごめんな、りかさん。」


奏斗は鍵を置いて去ってしまった・・・

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