幸せって?

ハンドメイド教室。

あたしは今、オリジナルのブレスレットとアンクレット作りにハマってる。

スケッチブックにデザイン画を書いて描く事から始める。


「りかさん、素敵なブレスレットとアンクレットね。2つずつ?」


先生が、あたしの作品を見てくれる。


「彼とお揃い?」

「はい・・・そうです。」

「あら、羨ましい。」


この年齢で彼氏とお揃いのアクセサリーって、ちょっと恥ずかしいけど・・・


「りかさん、あとで少し時間あるかしら。」

「あ、はい。」


なんだろう・・・


◇◇◇◇


「先生、ありがとうございました。りかさん、お先に〜」

「ありがとうございました。りかさん、さよなら〜」

「は〜い。お疲れ様。気をつけて帰ってね〜」

「さよなら。また来週ね。」


教室の生徒さんが帰って行く。

あたしは先生に呼ばれてるので居残り。

なんだろう、話って。


「あのぅ、お話って、何でしょうか。」

「うん。あのね。」


先生は、あたしにパンフレットを差し出す。


「これは?」

「こんど、作品展をやるんだけど、良かったら、あなたも一緒に出展してくれないかしら。


え・・・


「もちろん、場所代なんかは私が全部負担するから大丈夫よ。

どうかしら?」


急な話で、なんて言っていいのか・・・


「あの、嬉しいんですが、それって、あたしだけですか?他のみなさんは。」

「他のみんなには伝えてないんだけど、私、あなたには何か他の方とは違う才能を感じるの。これを機会に、あなたの才能を、もっと広めたいとおもって、声をかけさせてもらったの。」


あたしに才能?

イヤイヤ、あたし、まだ始めたばっかだし。


「光栄ですけど、あたしに出来るかどうか。」

「ごめんなさいね急に。

そうよね、あなたにも仕事があるし、無理にとは言わないけど、でも返事は急いでないから、よく考えて決めてほしいわ。」


先生は、あたしの作ったブレスレットを見る。


「この才能、ここだけで留めておくのは、勿体無いわ。」


◇◇◇◇


「りかさん、りかさん。」

「えっ?」


エステサロンLacoco


ふと気がつくと、紗耶ちゃんがあたしの前にいる。


「はい。次のお客さんのカルテ、出しときました。」

「ああ、ありがとう。」

「どうかしたんですか?」


あたしはカルテに目を通す。


「何もないわ。今のお客さん、タイマー鳴ったら、パック外しといてね。」


作品展かぁ。

あたしの作品を色んな人が見てくれるんだ。

自信は無いけど、せっかく先生が勧めてくれたなら、やってみる価値はあるかも。


「お疲れ様。」


仕事を終えてあたしはビルを出る。


ドンッ


後ろから人がぶつかって来た。


「すみません!!」


大学生くらいの女の子だった。


「いえ。大丈夫です。」


あたしは、そのまま歩こうとした。


「あの、すみません、この美容室の方ですか?」


女の子が訪ねてきた。


「あたしは違うけど。」

「そうですか・・すみません。」


女の子は頭を下げた。


「あたしは違うんだけど、ここの人とは仲が良いから、用事だったら伝えようか?」

「え・・・?

あ、でも、いいです。また来ます!」


そういうと、女の子は走って行った。


???


若いって、いいわね。良くわからんけど。


◇◇◇◇◇


帰宅すると、奏斗がご飯を作ってくれてた。


「う〜ん。いいニオイ〜。おいしそ〜」

「今日、スンドゥブチゲと、海鮮チヂミ。美味そうだろ。」

「うん。美味しそう〜。早く食べよっ。」


あたし手を洗って席に着く。


「いただきます。」

「いただきます。」


チゲを一口。

ん~~美味い!

奏斗、どんどん料理が上手くなってく。


「あ、そうだ、あのさ、あたし今手作り教室に行ってるでしよ?そこの先生が、自分の作品展に、あたしの作品も出展したいって言ってくれてるの。ねぇ、どう思う?」

「どうって?」

「あたしが作った作品を、色んな人が見てくれるかもしれないの。

先生が言うには、あたしには何か才能がある、みたいな感じだって。すごくない?やってみようかな。」


奏斗は頬杖をつく。


「才能?

それやってどうなるの?」

「どうって?」

「もういいじゃん、別に何か新しい事なんか始めなくたって、

手作り教室だって趣味で作って楽しむ範囲なら別にやっても構わないけど、そんな作品展とか・・・どうでも良くね?」

「・・・なによ。怒ってるの?」

「りかさん。」


あたしを見つめる。


「俺との事は、どう思ってるの?」

・・・・

「俺は結婚したい。もう2年も一緒に暮してさ、年齢だって30過ぎてるし、そろそろ今後の事を、きちんと考えたい。」

・・・・

「このままじゃ、俺達ずっとこの調子でズルズル時間だけが過ぎていって、気がついたら何もない状態になっちゃいそうだよ。」

・・・・

「何もないって・・・なに?」

「りかさん?」

「何もないって、別に結婚しなくても、ずっと一緒にいて、お互い楽しく過ごせば、それで幸せじゃないの?」

「子供じゃないんだよ。」

・・・・?

「りかさんは、そうやって自分が好きな事やってるのが幸せかもしれないけど、俺は結婚して、子供ができて、家族が欲しい。それが俺の幸せなんだよ。」

「・・・・ごめん・・・・。結婚は、考えられない・・・」


ごめん、奏斗・・・。


奏斗の悲しそう顔・・・


その夜は、初めて2人、別々の部屋で寝た。




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