妻か女か母親か

「雅ちゃん、何言ってるの?」


あまりの衝撃発言に、他の言葉が見つからない。


「あたし、彼氏ができました。」

「彼氏って・・・どういう人なの?」

「旦那さんは・・・知らないんだよね。」

「もちろん、知るわけないじゃん。

最近知り合ったお客さん。

バツ1で、子供がいるんだけど、奥さんの方にいる。

ガラス細工職人やっててね、奥さんとは結婚して12年くらい経つんだけど、なんでも奥さんの実家が代々続く建設会社で、超お金持ちで、彼は、ずっと奥さんの尻に敷かれてきたんだって。

だけど、もう限界がきて・・・離婚したんだって。」

「それと、雅ちゃんと、どう関係あるの!?」


あたしは少しキツめに言う。

相手の理由なんて、どうだっていい。

どうして家庭があるあなたが付き合ってるのか、意味がわからない。


「塔子・・・

あたしはね、女なの。オ・ン・ナ。

母であり、妻でもあるけど、女であるの。

このまま一生、母と妻だけで生きていくのは嫌なの。」

「うん、それは、わかるよ。女でいたいっていう気持ち。だけど、それは旦那さんじゃダメなの?

雅ちゃんのやっている事は、旦那さんと子供を裏切ってるじゃん。

家庭を壊してでも、他の男の女になりたいの?」


ダメだ。

どんどん感情的になっていく。

抑えきれない。


「旦那じゃイカないし、それに旦那も浮気したの!やられた事やり返して何が悪い!」

「やられたら、やり返すのか!自分がやられて嫌だった事を、自分もやるのか!」

「まあまあ、2人とも、ちょっと落ち着いて。雅ちゃん、あたしも、ちょっと考え直した方がいいと思うよ・・・

今なら、旦那さんにバレる前なら、まだ間に合うと思うし」


雅ちゃんは苛立った顔してる。

嫌な気分。


「ねえ、真美ちゃんもそう思うよね。」


りかが、真美ちゃんに助けを求める。


「え・・・うん。あたしも、りかちゃんと塔子と一緒だよ。不倫は良くない。」


「はあ・・・不倫不倫って、わかってるよ。

不倫が良くないって。

じゃ、バレなきゃいいじゃん。バレなきゃみんな幸せだよ。」


はあ、もう。

今は何を言ってもムダかもしれない。

雅ちゃんは今、その男に夢中だ。


♫♫


あたしのスマホが鳴った。


「ちょっとゴメン、はい。又吉です。」

「又吉奈緒さんのお母さんですか?私・・・」

「はい・・・警察!?」

「!?」

「!?」

「!?」


「はい、はい、わかりました・・・はい、すみません。失礼します。」

「・・・どうしたの?」


手が震える・・・


「奈緒が深夜徘徊で補導されたって。家には帰してもらえたみたいだけど・・・ごめん、先に帰るね。」

「うん。わかった。気をつけてね。」

「気をつけてね!」


♢♢♢


「ただいま!

奈緒は!?」


はあ、はあ、はあ・・・


「おお、お返り。」


あたしは旦那を押しのける。

奈緒はソファーで体操座りをしている。


「奈緒、あんた何やってんのよ!」

「はあ?なにが?ただ友達と喋ってただけじゃん。そしたらイキナリ警察がきてさ、わけわかんないし。」


パンッ!!!


感情を抑えきれず、あたしは奈緒の頬をひっぱたいた。


「塔子!」

「あんた!警察沙汰になって何偉そうにしてんのよ!なんなのよ!その偉そうな態度!!」

「なんなのよ!!

バカじゃないの!!偉そうなのはそっちじゃない!!」


奈緒は泣きながら叫んだ。


「あんたなんか、偉そうな事ばっかり言って、肝心な時にいつもいないじゃない!!

今だって、警察が電話した時、友達と飲んでたじゃないか!!

あんたにとって、あたしの優先順位は何位なんだよ!!ムカツク!!」


そう言うと泣きながらリビングを出て行った。


あたしの優先順位・・・

その言葉が、かなり刺さった・・・


「奈緒、帰ってきた時、お前が家にいない事にムカつくって言ってたぞ。

俺は、ムカつかれる事もない、奈緒にとって、優先順位が下だから。

お前は、奈緒にとって1番なんだ。」


旦那の言葉が胸に響く。


奈緒、奈緒・・・


2階に上がり、奈緒の部屋の前に立った。


奈緒、ごめんね、ごめんね。

あたし、子供達が小さい時から仕事ばっかで・・・仕事を理由に、子育てから逃げてたのかもしれない。

子供達が聞き分けが良かった事に甘えて、仕事や自分の趣味に時間をかけて、本当は、こんなに、我慢してくれてた事に気づかなくて・・・


「ごめん・・・奈緒・・・」


気づかなくて・・・ごめん、ごめんね・・・


部屋からは泣き声が聞こえる。


「奈緒、ほんとにごめん。」






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