良くない出会い

今日は1件のお宅が引っ越しをする為に、今ある家具を売りたいというので、査定を兼ねた搬入作業がある。

あたしと旦那は朝10時にお店を出た。

お客さんのお宅は、お店から30分くらいの1戸建てだった。

敷地はざっと100坪はありそうな、立派な家だ。

4台は留めれそうな駐車場に車を止め、あたしと旦那は降りて、玄関のインターホンを押す。


「おたから倉庫の山内です〜。」

「あ、はい。今行きます。」


しばらくすると、40代後半くらいの男の人が出てきた。


「ご苦労様です。どうぞ、中へ。」

「失礼します。」


旦那とあたしは軍手をはめ、中に入った。

まだ10年もたってなさそうなキレイなお宅だった。


玄関奥の25帖くらいのリビングダイニングのカウチソファーと、6人掛けのダイニングテーブルセットを査定する。

アンティーク調の高級家具だ。

まだそんなに使われてない感じで、とても綺麗な状態だった。


「査定が終わりました。こちらの金額でよろしければサインをお願いします。」


夫が出した査定額を見て、お客さんは驚いた。


「こんなに良いんですか?」


すぐにボールペンでサインをした。


「ありがとうございました。」


あたし達は家具をトラックに乗せ、お客さん宅を後にした。


「あの人、離婚だよね。きっと。あんな大きな家でさぁ、家具もあまり使ってないような状態じゃん。まだ何年も経ってないのかね。」

「そうだなぁ、大人しそうなご主人だったけど、いろいろあるんだな、きっと。」


夫婦なんて、他人にはわからない、色んな事があるんだよね。

うちだってさ、旦那が浮気した時はガチで離婚考えたんだけど・・・経済状況とか、子供の事考えたら離婚できんかったし・・・。


「あぶないっっ!!」

旦那が急ブレーキをかける。


ガチャン!!


目の前に自転車に乗った小学生の男の子が飛び出してきて、トラックと接触してしまった!


「大丈夫!?」


あたしと旦那は急いで駆け寄る。

幸い子供は転んでヒザを擦りむいたものの、トラックと接触したのは、自転車だった為、大した怪我は無かった。

だけど、万が一の事を考えて、救急車と警察を呼び、あたし達は警察に事情を説明した。


後日、あたし達は少年の親と連絡をとり、お宅に謝罪に伺った。


少年の名前は、加藤来輝らいきくん。

小学生5年生。

母親と、お祖父さん、お祖母さんと暮らしていた。

そして、あたし達が驚いたのは・・・

この家のデカさ!!!

どうやら、おじいさんが、代々続く建築業者の社長さんらしく、母親は生粋のお嬢様のようだ。


「この度は、大事な御子息に、お怪我をさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。」


あたしと旦那は深々と頭を下げる。


「ほんとよ!

大事な息子に何かあったら、どうしてくれるつもりだったのよ!」


母親がえらい剣幕で怒鳴る。


「ほんとに、申し訳ありませんでした。」


「いったい、どこ見て運転してたのよ。

スマホでも見ながら運転してたんじゃないなの?」

「いえ、そんな事は・・・」


旦那は、ひたすら謝るしかなかった。

てかさぁ、飛び出してきたのは、そっちなんだけど!

母親のイチャモンに、あたしもだんだんムカついてきた。

あたしの顔を見て察したのか、旦那はあたしの前に立った。


「これからは、保険会社にお願いしてありますので、何かありましたら、保険会社を通してという事で、お願いします。失礼します。」


母親は、まだいい足りない感じだったけど、あたし達は家を後にしようとした。


ピンポーン


その時、インターホンが鳴り、この間のお客さんが入って来た。


「え?」

「え?リサイクルショップの・・・」

「おたから倉庫の山内です・・・加藤さんて・・・ひょっとして、来輝のお父さん・・・」


驚く3人。


「何よ!誠さん、この人達と知り合いなの!?」

「知り合いってほどじゃないけど。」


母親は、加藤さんを見下すように言った。


「あなたって、ロクな人と知り合いじゃないのね。」


はあ?なんだ、その言い方!


「そんな言い方するもんじゃないよ。失礼だろ。」

「何が失礼よ!来輝は、もしかしたら、この人達に殺されてたかもしれないのよ!」


なんだ!この女!


「すみません、もういいですから、お引取り下さい。」


加藤さんは、あたし達に頭を下げた。


それから何ヶ月もして、事故の示談がすんだころ、加藤さんがお店に現れた。


「先日は、うちの元妻が失礼な事を言ってしまって、本当にすみませんでした。」

「いえいえ。元々は、うちが悪いんだし、奥さんが怒るのは無理ないです・・・」

「いや、うちの子が飛び出したのが悪かったのに、自転車も弁償していただいて・・・

あの、もし、良かったら、受け取って頂けますか。」


加藤さんは紙袋から箱を取り出した。


「僕、ガラス職人をやってるんです。」


箱の中には綺麗なガラスの花瓶が入っていた。


「え!そんな・・・こんな素敵なもの・・・

いいんですか?いただいちゃって。」


加藤さんは微笑んだ。


「ぜひ、使ってください。」


加藤さんは、店を出て行こうとした。

そして入り口で立ち止まると振り返り


「また来てもいいですか?」


ドキッ・・・


「あ、はい・・・いつでも、どうぞ。」


加藤さんは微笑んで店を出て行った。


・・・なに?

なんであたし、ドキッとしたの?


この出会いが、あたしの生活を変えるとは、思っていなかった。





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