又吉塔子

公立の小学校に勤務して、20年以上になるけど、昔と比べると、ホントに今のほうがやりにくい。

働き方改革だのなんだの言うけど、就業時間は短くなったとしても、仕事内容はめちゃめちゃ多い。

1日風邪ひいて休んだだけの生徒にも、必ず電話をして様子を確認しなきゃならない。

たいがいの親が1回の電話で出る事は無く、掛け直してきてくれる人は、まだ有り難いけど、そうじゃない場合は、こちらが何度もかけなおさないといけない。

年賀状もクラスの生徒全員に出さないといけないし、しかも生徒1人1人に、ちゃんとコメント書かなきゃいけない。

頑張って出しても返事が返ってくるのは5割以下だし。

学校内の些細なケンカや怪我でも、なんでも親に連絡、説明しなきゃならない。

まあ、あたしも親だし、気持ちがわからないでもないけど・・・

それでも、ストレスはかなりたまる。


そんな時のストレス発散は・・・


「おいしそ〜。」


帰宅途中の家の近くのケーキ屋さんに寄って、大好きなケーキを買うのが、あたしのストレス発散方法。


「イチゴショートと、モンブランと、チーズケーキと、ミルクレープください。」


うふふ。うふふ。


「ただいま〜」

「おかえり」


リビングで長女の稟(りん)がサブスクの動画を見てる。


「ケーキ買ってきたよ。たべよ。」

「食べる食べる〜。」

 

買ってきたケーキをお皿に盛りつけると、稟は動画を見ながらテーブルに置いていく。


「これ、何ていうドラマ?」

「今、大学でめっちゃ流行ってる韓国ドラマ。この俳優さんがめっちゃかっこいいの!」


へえ〜。

確かにかっこいい。

日本の役者さんとは違ったかっこ良さがあるよね。韓国の俳優さんって。


「ねえ、奈緒は?」

「部屋にいる。」


2階に上がって、次女の奈緒の部屋の前に立つ。

あたしは少し心を落ち着かせる。


「奈緒?ケーキあるよ。食べにおいで。」

「・・・」


しばらくしてドアが開いた。

不機嫌な顔をした奈緒が出てきた。

そのまま、何も言わずに階段を降りて行く。


はぁー。


最近、奈緒と話す時は緊張とストレスを感じる。

2週間くらい前から、高2の奈緒は学校に行かないと言い出した。

最初は理由を言わなかったけど、担任の先生、姉の稟、夫とあたしで何度も対話をしたら、少しづつ心を開き出した。


どうやら部活の先輩と、うまくいってなかったみたいだった。

奈緒は小学校から、ずっとバレーボールをやっていて、副キャプテンをやっていた。

高校でもバレー部に入ったんだけど、そこで先輩のやり方と意見がぶつかってしまったみたいで、学校自体に行けなくなっちゃったみたい。

なにも部活が嫌なら部活だけ行かなければ良いと思うんだけど、なかなか通じないんだよね~。この思いも。


「お姉ちゃん、何見てんの?」


大好きなチーズケーキを食べながら奈緒は言う。


「めっちゃ良いんだって〜。奈緒も見なよ。」

「へえ〜。」


奈緒は稟の隣に移動して、一緒にテレビを見る。


わかんねぇ。

学校行ってねぇんだよな、お前。

あたしには無愛想なのに、なんで稟とは平然としてケーキ食いながらテレビ見てんだよ。


ムカツクな・・・。


「学校いけよ・・・」


ボソッ。


ヤバイ


思わず言ってしまった。

奈緒の顔を見る。


奈緒の表情は、とたんに曇った。


「ムカツク。2階行く。」


奈緒は2階に上がって行った。

バンッ!!

ドアを閉める音。


はあ〜

やっちまったぁ~。


「ママが悪いよ。今のは。」

「はぁ?なんで?」


わかってるけど・・・

人に言われるとムカツクんですけど。


「奈緒、今日一日ずっと部屋にこもってたのを、ようやく出てきたのに、なんであんな事言うわけ?そりゃ怒るよ。」


なにそれ!?

あたしがどんだけ奈緒に気を使ってると思ってんの!?


頭にカァーっと血が登るのがわかる。


「なんなのよ!なんであたしが、そんな事言われないといけないの!?あんた達、何もやってないじゃん!全部あたしが1人で頑張ってんじゃん!なのに、なのに・・・なんでそんな言い方しかされないの!?」


涙が溢れてきた。


あたしは寝室に上がる。


部屋に入り、ベットに倒れこむと、感情がどんどん込み上げてきた。


ばかやろう!

ばかやろう!

みんな勝手言いやがって!

ふざけんな!

あたしの何が悪いんだ!

頑張って育ててきたのに、仕事も家庭も子育ても頑張ってきたのに、感謝もされないで、なんでこんな目に合わないといけないんだ!

みんなバカヤロー!


翌日、あたしの目はパンパンに腫れ上がるほど、あたしは泣いた。


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