稲田りか

マンションの1室。

寝室のベットで愛しあっている男女。


ああ・・・

もうダメ・・・!!


奏斗が、あたしの胸に倒れこむ。


「はぁ・・・はあ・・・」


くちびるを重ねる。


ヤバイ・・・


「りかさん、もう1回、いい?」


え〜!


「う〜ん・・・少し休憩してからなら・・・」

「少しってどれくらい?」


奏斗はあたしの耳たぶにキスをする。

はあ・・・

この辺が正直、違うのよね。

奏斗は、32歳。

まだまだ元気が有り余ってるけど、あたしは体力的にちょっとキツイ。

奏斗の事は、大好き。

顔もスタイルも、もちろん性格も。

だけど・・・

1回戦終わると眠くなっちゃうの。


あたしは奏斗にキスをする。


「明日も仕事だから、今日はもう寝よ。」

「・・・

わかった・・・」


奏斗は少し残念そうに服を着た。


ごめんね。

時々、不安になる。

奏斗は・・・なんで、あたしと付き合ってるんだろう。

彼なら、同じ世代の女の子がたくさん寄ってくるだろうし、その子達のが話も合うだろうし、すぐ疲れないだろうし・・・

あたし、いつフラレてもおかしくないな・・・。


翌朝、目が覚めると、トーストとコーヒーの良い香り。

あたしは欠伸をしながらリビングに向かう。


「おはよ。りかさん。」

「おはよう。」


奏斗は家事全般が得意で、毎朝、朝食を作ってくれる。

あ、あたし達は同棲2年目です。


「いただきます。」


スクランブルエッグを食べる。

美味しい。


「りかさん今日は仕事何時まで?」

「うん。今日は10時くらいなるかな。8時半から、予約のお客さんがいるから。」

「わかった。何か食べたい物ある?

オレは7時くらいに終わるから、何か作るよ。」


あたしと奏斗は同じお店で、エステティシャン、美容師として働いてる。

1階の美容室で、奏斗が美容師、2階がエステになってて、あたしが働いてる。

会社のみんなも公認のお付き合いだから、仕事の合間に晩御飯の話もできるし、イロイロ、ラクだ。

基本、早く帰ってきた方がご飯を作るルールだけど、だいたい、あたしがいつも遅くなっちゃうから、どんどん奏斗は料理の腕前が上がっていっちゃう。

感謝、感謝。


「最近、太ってきちゃったから、軽いものがいいな〜」


奏斗はニコッと笑う。


「わかった。この辺だよね。」


お腹の肉をプニュとつまむ。

もうっっ!


あたしと奏斗は、一緒に部屋を出る。


「あー、雨だ。」

「奏斗、傘は?」


あたしのはあるけど・・・

奏斗のが見当たらない。


「あ、そうだ・・・この間、店に持って行って、お客さんが傘持ってなかったから貸してあげたんだ。」


そうなの?

奏斗、優しいからね。


「一緒に入って行く?」


久々のあいあい傘で、出勤する事にした。


「おはようございます〜」

「りかさん、おはようございます」


エステサロンLacoco


あたしの職場。

エステティシャン3名

と受付1名

オーナー

と、少人数のアットホームな職場。


「今日は、ひろかちゃんが有給休ね。」

「そうです。ひろかさん、今日、彼氏とユニバに行くって言ってました。」


新人エステティシャンの松本沙耶ちゃん。

美容専門学校を卒業したばかりの20歳の小柄な女の子。


「そうなんだ〜。

でも、あっちはどうなねかな?たぶん雨だよね。」

「残念ですね。」


沙耶ちゃんが開店準備をしながら窓の外を見ている。


「あの子、美容室のお客さんかなぁ。さっきからずっ待ってる。」


ん?

あたしも覗いてみる。


大学生っぽい女の子が雨の中、傘をさして立っている。

反対の手には、もう1つ傘を持っている。

あの傘・・・


「あ、奏斗さんだ。」


美容室から、奏斗が出てきて、女の子と話している。

朝言ってた、傘を貸してあげたお客さんて、あの子だったんだ。

女の子は、嬉しそうな、少し恥ずかしそうな顔をして、奏斗に傘を返していた。

そして、何か可愛らしい紙袋も一緒に。

奏斗も、最初は遠慮してる感じだったけど、結局受け取った。


なにアレ。

気になるな。




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