お茶比べ
猫煮
さあ、お飲み
眼前の橙色の液体を見ながら悩む。
「どうだい、これが何のお茶かわかるかい」
「もう少し考えさせて」
過去の自分が恨めしい。
はっきり言って、私は馬鹿舌である。緑茶と煎茶はおろか、緑茶と紅茶の区別もつかぬ程だ。
それほどの味音痴であるから、匂いで区別することもできるはずはない。
多少敏感な人ならば口に残る雑味からでも細部に至るまで解るのだろうが、残念ながら私に判るのはこの推定紅茶がミルクティーで無いこと程度。
チラと目を上げれば、ニヤケ顔でこちらを見てくる男の顔。出題者当人のバカにした笑みである。
「このキーホルダーが欲しいなら、良く悩むことだ」
そう言って揺れる手の先には人質となった竹ちゃんの姿。囚われの身となった、茶色の可愛らしいマスコットである。
普段から私の味音痴をバカにしてきたこの男、その売り言葉に買い言葉で茶の味ならばと大ボラを吹いたのが運の尽き。
我が推したる竹ちゃん、その限定カラーである枯れ竹ちゃんキーホルダーを見せびらかすこの男は、恥知らずにも聞き茶で私が勝てばそれを譲ると持ち掛けたのである。
何度も挑んだが、力及ばずこれが都合八回目。
一度は恥を忍んで、乞い願おうかとも考えたが、この男が応えるとは思えなかった。
「しかし、この器の紫の絵付けは見事だね」
「青だよ」
少しの時間稼ぎも失敗に終わったようだ。
「これは、あれだ。キャンディだね?」
「緑茶だよ」
天運にかけて当てずっぽうで言ってみるが、そもそも紅茶ではなかったらしい。
「まあそういうわけで、竹ちゃんは今日もお預けだね」
「このっ、外道、犬畜生めっ、悪鬼だ、人非人だっ、鬼畜外道の極みが……」
「そこまで言われることってある……?」
彼の鞄にしまい込まれる竹ちゃんを見て漏れる恨み言。
「意地っ張りめ」
呆れた彼の声色に応えず目を閉じる。
一つの色しかない私の世界に回り道はない。
私にはいつも橙に見える空の下で、次こそはと決意を固めて、策を練るのであった。
お茶比べ 猫煮 @neko_soup1732
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