カイン君の凋落 下②


 ――4日後、シャグラン平野。 


 元は緑豊かな平野だったが、今は、人の血で赤く染まっていた。


 魔族VSソレイユ&王国騎士団の連合部隊。その火蓋は切って落とされ――、

 ――一瞬で勝敗は決した。

  


 魔族の集団を発見し、連合部隊は突撃しようとしたが、辿り着く前に、背中からトンボのような羽を左右に二本ずつ、計四本生やした黄緑色の髪の妙齢の女――四天王:飄風ひょうふうのウィリディスが突如空中に現れ、手をかざし、魔法を発動させ――、

 ――次の瞬間生まれた、風速150m/sの巨大竜巻によって呑み込まれ、一瞬にして連合部隊は壊滅的な被害を受けた。


 もちろん人類側も黙ってやられる訳がない。彼等とて人類の中から選ばれた精鋭。

 魔法には魔法を。人類屈指の魔法使い達は、果敢に竜巻へ向かって、自身のありったけの魔法を撃ち放った。

 火、水、土、風――数多の魔法使い達によって様々な魔法が竜巻に撃ち込まれる。

 ――が、竜巻は依然として健在。

 四天王であるウィリディスの魔法の前では無駄な足掻きに終わり、彼等もまた自身の無力を嘆きながらも、竜巻に吸い込まれていった。

 吸い込まれた人間は、風によって刻まれ、それでもまだ生きていた者もいたが、一緒に巻き込まれていたモノにぶつかり合って――結局、最期は肉片になって死んでいく。 


 時折、竜巻から王国騎士団の者達の鎧やら剣の残骸――そして血や肉体の一部がはじき出され降り注ぎ、それらはシャグラン平野を赤く染めた。


 竜巻はその後も、移動しながら人間を吸い込んでいき――ウィリディスが竜巻を消した時には、『ソレイユ』も、王国騎士団も生き残りは殆どいなかった。



――――――――――――――――――――――


  

 数少ない生き残りの中には、カインもいた。


 もっとも――彼の周りにはいつものように沢山の女性の姿は見られない。


 カインが生存を確認出来るのは、隣にいる少女――最近“ワールドブレイカー”に加わった、魔法使いのダリアのみ。北方地域の出身で、原作の二部に登場する、魔族によって住んでいた村を滅ぼされたことで復讐者となり、最終的にブレイブの仲間になる少女である。

 そして……他の面々は……行方知れずだ。

 

 カインとダリアが無事だった理由――それは、竜巻が“ワールドブレイカー”へと迫った瞬間、チームの中でも上位の実力者である数人が、足止めをして2秒稼ぎ、その作れた僅かな合間に、メンバーの一人がせめてカインだけでも生き残れるようにと、硬直していたカインを突き飛ばし、咄嗟のことで、威力が調整出来ていなかった為、思ったよりも吹き飛んだカインが後ろにいたダリアも巻き込んで、共々、竜巻の進行方向から外れることに成功したからである。

 

 他の者は、生きているのかどうかは不明。そして、竜巻に吸い込まれていたとして、見分けられるだけの原形を留めているとも思えない。

 

 カインは嘆き、憤った。理不尽に対して。 


「なんで……なんで四天王が来てんだよ……!?

 おかしいだろうが……!!」

 

 しかし、憤った所でカインには、どうすることも出来ない。生い茂った、茂みに身を隠すので精一杯だ。

 “死”という恐怖の前にカインはただ震えるだけの無力な存在だった。





 そして――――――


 カインは岐路に立たされる。



 


 キッカケは、ウィリディスがふと平野に転がる人間の死体をゴミを見るような目で眺めていた折、同僚である四天王:玲瓏れいろうのカエルレウムに言われていたことを思い出したことから始まった。


「……んー、何か忘れておるような……? ――――思い出したぞ。そういえば、先見の英雄とやらが未来が見えているらしい危険人物ゆえ、確実に死んだか確認するよう、カエルレウムの奴が念押ししておったな」 


 ウィリディスは、周囲を見渡して一言。


「……どの肉片が先見の英雄か判断がつかぬな。

 まあ、探すだけ探してみるとしよう」


 そうして、ウィリディスは魔将を含めた部下に探させ――――一人の生きた人間が発見されてしまう。


 それは――、右腕を失い、全身余すことなく血塗れになって気を失って倒れているアリシアだった。

 それだけなら、只の人間の兵士の一人として、普通に始末されたかもしれないが……幸か不幸か、この場にアリシアを見たことがある


 ――かつて“ワールドブレイカー”が撃退したエクレール姉妹が。


 シュラは一目で、倒れている女が聖女だと見抜き。

 

「あー、その女! 聖女アリシアって奴じゃん!」


 遅れながらも、ミュラも気づいた。

 

「……たしか“ワールドブレイカー”の回復担当。前衛を倒しても、すぐさま回復させるから、うざかった記憶がありますね」



 二人の魔将の証言。

 それによって、アリシアが“ワールドブレイカー”の、ひいては先見の英雄の重要な関係者だとバレてしまった。



 ウィリディスは思考を働かせ――もし先見の英雄が生きているのなら、おびき寄せれるであろう、とある策を思いついた。

 ウィリディスは、アリシアの首を掴み、高く持ち上げると――声を張り上げて宣告する。“英雄”と呼ばれる存在なら無視出来ないことを。


「――先見の英雄よ。

 貴様の仲間である聖女アリシアは捕らえた。今から殺す。だが、貴様が出てくるのであれば、この女は見逃してやってもよい。時間は……そうさな十秒待ってやろう! さぁ、生きているのならば姿を表せ!」 

 

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