第十六話 凶報




 『――――――――は??』


 冒険者達は――――俺も含めて、ギルド長の発言に驚愕の声を発し……そして、言葉を噛み締めると、思考が停止。誰も一言も喋らない静寂が訪れた。


 

『ソレイユ』の壊滅。

 予想だにしていなかった事実に直面し……絶句する。おそらく、俺の顔は真っ青になっていることだろう。


 

 冒険者達は……まだ喋らない。

 ――静寂を破ったのは、ギルド長だった。 


「……『ソレイユ』は四天王の一人との決戦に挑み、敗北。

 その四天王が、勝利後、すぐさま『ソレイユ』の本拠地でもある王都メルヴェイユを襲撃し、それがトドメとなり、壊滅したとのことだ」 


 停止していた冒険者達も、更なる凶報にようやく稼働。

 

「王都を!? まさか……王都は……王都メルヴェイユはどうなったんですか!?」


「……王都には近衛騎士団だっている。

 『ソレイユ』は壊滅したかもしれないが、倒せたに違いない……いや……頼む、そうであってくれ。」


 

 王都を四天王が襲ったという事実を知り、パニック状態に陥った。そして――事情を知る、ギルド長に対して次々と問い掛けが殺到する。

  

「……俺も書類でしか把握出来ていないし……信じたくないが。

 ……まず……王都メルヴェイユだが……はっきり言うと――――――――――――陥落した。

 

 ……ユースティア王もその混乱で、死亡したとのことだ。幸いなことに、セラス姫の死体は見つかっていないが……生存もまた確認されていない。」


 王都陥落。王も死亡。姫は行方不明。

 その言葉に、なんとか平静を保とうとしていた冒険者達も耐えきれず、ギルド内は阿鼻叫喚になっていく。


「……そんな……そんなことある筈ない!――――――――これは夢だ! 夢なんだ!」

 そう叫ぶ、若い男の冒険者は泡を吹いて気絶した。

  

「……嘘よ……。

 そんなの嘘よ ……じゃあ、私達これから先、どうなるのよ……?」

 若い女冒険者は未来を嘆いて、下を向いて俯いた。


「……もうおしまいだ……。

 俺達みんな、遅かれ早かれ魔族に殺される運命なんだ」

 いかにも強そうな屈強な大男すらも、デカい体躯を縮こめ、無様に震える。


 ――そこには、ただただ絶望だけがあった。




 そして――――、


「……まだこの街付近に魔族の出現したという情報はないが……時間の問題だろう」


 ギルド長はそうポツリと呟いた。

 それによって、空気は底の知れない闇のように、際限なく、暗くなっていく。負の連鎖だ。

 



 


 ――希望は無い。

 

「あの……!

 壊滅っていっても、それは組織の話だけですよね……!?

 ソレイユに在籍していた英雄達は、今、どうしてるんですか!?」


「……殆どが死亡したらしい」


 ――英雄の殆どは既に死んでいて。


「ほとんど……!?

 じゃ、じゃあ生きてる人もいるってことになる!

 一年前にこの街を救ってくれた“ワールドブレイカー”はどうなったんです!?」


「…………“ワールドブレイカー”も壊滅だ。殆どのメンバーは死亡。

 唯一、先見の英雄カインは行方不明のようだが……聖女アリシアを始めとする、彼以外の“ワールドブレイカー”のメンバーは全員死亡が確認されていることから考えると……生存は厳しいだろうな」


 ――かつてこの街を救ったパーティーも『ソレイユ』同様に壊滅。


 あぁ……本当に最低に最悪な凶報だ。


 それにしても……厳しい、か。パーティーの他のメンバーが軒並み死んでいるというのに、都合良く、真主人公君だけが生き残っている。――なんてことは、まず無いだろうに……。

 ……ハッキリと死んだと断言しなかったのは、聞いている側に気を使ってのものか……あるいは、ギルド長自身、生きているという僅かな可能性を自分で断ち切ってしまうのを躊躇った為か……。


 


 それを聞いた冒険者達は再度沈黙。

 

 ――じゃあ……誰が倒せるんだよ。

 

 誰もがあえて言わなかったその一言を、ついに誰かが言ったことを皮切りに、一気に場の収集はつかなくなっていった。


「帝国……そうだ帝国だ! 帝国に亡命すれば、生き残れるかもしれない!」


 他国への亡命を大声で宣言するという、平時であれば、裏切り者扱いされかねない発言をした冒険者もいたが……。

 誰も咎めることはせず。むしろその手があったか。と光明が見えたような反応をする有り様。


 俺も、帝国がまだ残っているな、と少し期待した。

 まぁ、すぐにギルド長がそんな淡い希望を潰してしまったが。

 

 

「……ベルクラント帝国の帝都シェーンハイトも陥落している。

 王都陥落とほぼ同じタイミングだったそうだ……。同時攻撃されたらしい。

 そして――その情報を最後に、ベルクラント帝国からの情報連絡は完全に途絶え、向こうがどうなっているのか皆目不明だ」



「そんなの……もう、どうしようもないじゃないか!

 ……ギルド長のあんたもあんただ!

 さっきから希望を否定してばかり! 俺達はこれからどうすれば生き残れるのか、建設的な指示を下さいよ!?」


「わからん……俺も、どうしていいのかまったくわからんのだ……すまん。

 本来――これらの情報も話しては駄目だったんだが、黙っていても、ただ殺されるのを待つだけになってしまう……だから……独断で伝えてしまった。


 ――むしろ……俺も聞きたいんだ。

 なぁ……みんな、俺達は生き残れるのかな……?」


 ギルド長はもう絶望していた。

 顔面をぐしゃぐしゃに歪めて、涙も、鼻水まで垂らして、このギルドの長として……リーダーとしての責任を放棄した。


 そんなギルド長の情けない発言に絶望も怒りもピークを越え、決壊。


「あ……あああああああああああ!!!???」


「……ふさげやがってぇ!! それでもギルド長か! なんとかしろよ!!」


 そこからは、ひたすら怒鳴り合ったり、ギルド長を非難したり、とギルド内は喧騒に満ちた。



――――――――――――――――――――――――


「はぁ……」

 

 ギルドから一人、俺は出た。夜になってもまだ喧騒はまだ中で続いている。


 空を見上げる。


 満天の星空があった。


 前世の都会とは違い、建物の光が少ないから見られる星々。


 星は綺麗だ。


 それは、前世と変わらない。


 ただ……この異世界の夜空には、月っぽいのが二つある。


 月っぽいのも綺麗だ、っと言いたい所だが……今日の二つの月は、おどろおどろしく、朱く輝いていた。そう――凶兆を表すかのように。


 ……見なかったことにしよ。ワァー、お星様キレイダナー。



 


 現実逃避を一旦やめて、真面目に考える。 


「これ……どうなるんだろ?」


 本来、魔王を共に倒す運命だった仲間達の多くが死んだ。

 そして……真主人公君、カインも行方不明。


 『ソレイユ』も旗頭である、王女セラスまでもが行方不明な以上、残党がいたとしても……立て直しには、期待が出来ない。


 カインが生きてて、立ち直った所で、『ソレイユ』という支援組織が無いのは……詰んでいる気がする。

 


 ……ひとまず宿に帰って寝よう。

 考えることが多すぎて、纏まらない。

 



…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………何でこうなった。




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