第十七話 オレ……何かやっちゃいました(震え)?



「やっぱ夢じゃないよなぁ……。」


 あの凶報から一晩経った。 

 普通――こんな時には、夢オチを期待したりするんだろうが……それは出来ない。

 そもそも昨日、ギルドから宿に帰ってから、上手く寝付けず、結局一睡も出来なかったからだ。

 寝ても無いのに、夢オチなんてあり得ない。

 つまり、昨日の凶報は残念ながら夢ではなく、現実だった。 



 はぁ。

 昨日の凶報を改めて考えてみるか。

 

「原作は完全に崩壊……主要キャラは大勢死に……主人公側の組織までぶっ壊されてる……………………もはや悪夢だろコレ……」


 駄目だ。一晩経つのに、同じ結論しか出ない。

  

 ――『ソレイユ』の壊滅なんて、もちろん原作において無かったことだ。

 正真正銘、最初で最後の魔族対策組織。

 『ソレイユ』を倒しても、いずれ第二第三の新しい魔族対策組織が現れる……なんて展開はない。

 どう考えても、おしまいだ。



  


 ――どうすれば良かったんだろう?

  

 「……俺が真主人公君を押しのけて、無理矢理にでも原作通りに進めれば良かったのか……?」


 いや――それも違う気がする。

 初っ端から、アリシアと良好な関係を築くことに失敗したし、そんな調子で上手くいったとも到底思えない。

 そして、そんなことしたら、真主人公君と完全に敵対関係になってしまう。

 もちろん負ける気なんてまったく無いが……。

 

 その後が問題だ。

 仮に、真主人公君を血祭りにあげて、強引に奴のことを愛しているアリシアを奪う、とする。

 ――もはや、それは悪役の所行だろ…… と思うのだ。

 勇者ではなくなってしまうし、漫画の原作において大切にされている、「絆」とか「愛」とかを思いっきし、蔑ろにしてるから、後でデカいしっぺ返しが来そうでもある。


 ――俺の勇者としての道は、最初から詰んでいたのかもな。

 というか、暴力って手段での解決を真っ先に思い付く時点で、俺の勇者適正は多分、地を這うレベルで低いことだろう。



  

 あー、あとはあれだ。

 ――熱意の問題もある。


 真主人公君は熱意が凄かった。

 俺もちらっと見かけたことがあるだけだが、真主人公君は、アリシアが幼かった頃からもう、お人形遊びやらにも積極的に付き合って、好感度稼ぎに励んでいたし。

 なんか女の子って同年代の男がガキっぽく見えてるらしいから、そんな中、精神年齢が高い男(そりゃ、転生者だし)がいたら、気になる存在になるんじゃない? 知らないけど。

 実際、アリシアはコロリと真主人公君に懐いたんだから、大した手腕だ。よくやるよ……ほんと。


 対してその間、俺は食糧の確保で手一杯だったのもあり、何もしなかった。そもそも、お人形遊びなんてしたくないと思っているし。

 ほんと熱意に差がありすぎる……。




 

 いや――それも必然かもしれないな。

 俺にとって、この世界の元となった漫画は、何てことのない読んだことのある漫画の一つに過ぎないが……。

 ――思うに、真主人公君はこの世界の元となった漫画のファンなのだろう。

 

 そして、ファンだったのなら知識は、普通に俺よりも、断然あちらの方が多い筈だ。

 ……例えば――俺は、公式ファンブックとかを買っていなかったりするし。


 だから――――一見無謀に見えるが、真主人公君は、何か魔王を倒す考えがあるんだろうなと思っていた。

 いくらなんでも勝算も無いのに、主人公の座を奪う筈が無いのだ。


 

 

 ――そして、その推測は当たっていたことをつい一年前に確信することとなる。

 

 あれは、真主人公君が『ユーレン』に居た時のことだ。

 あの頃、真主人公君を出来る限り避けていたが、それでも出会ってしまったことがある。


 その時に絡まれて、塩対応していたら、真主人公君が――――、


「布石はもう打ってある!

 今に見てろ、俺はお前なんかに負けない!

 俺は、世界を救った大英雄になるんだからな! 」


 世界を救う偉業――十中八九、魔王討伐のことだと思うが、布石を打ったと自信たっぶりに口を滑らしてくれたのだ。内容は不明だが、無策じゃないことは確認出来た。


 既に、真主人公君は、アリシアを懐柔させ、原作の第一部もハーレムまで作りつつ、余裕で解決したという実績がある。


 こうして、元々主人公の立場なんかに執着していなかった俺は、勝算ありそうだしいいや、と完全に譲り、『ユーレン』でスローライフを続けることを決めたという流れだ。


 原作でもほとんど奇跡で勝った魔王とか……実物見ないことにはなんとも言えないが、絶対ヤバイ。

 地力はあるけど、絆や愛でパワーアップ出来ないし、仲間もいないしで、勝てるか怪しい俺よりも、勝算があるんだったら、そっちに任せた方がいいな、と思ったってのもある。

 



  


 なのに――――なんでこうなったんだろ?…… 本当に。


 布石って……一体どうしたんだよ……勝算あったんだろ……?

 四天王にやられてるのに、どうやって魔王を倒そうとしてたんだ真主人公ェ……。


  

 ……こんな時、なんて言えばいいんだろうな。


「………………俺、何かやっちゃいました?、とかか?」


 ははは……なろうの主人公っぽい。

 

 ……はぁ。笑えない。




――――――――――――――――――――――


 

 魔王が世界を恐怖に陥れ、それを勇者とその仲間達が救う、というある種の王道。

 ――――これは、そんな王道から外れてしまった世界の物語。

 

 ゆっくりと、確実に、遊び心さえ持って、人類を蹂躙していく魔王軍。

 現在、行方不明中の、勇者の立ち位置を奪った転生者カイン。

 そして――――勇者適正皆無の男、ブレイブ。

 

 人類滅亡という名の、滅びのシナリオはこうして始まった。



 

  


 

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