第十二話 光の精霊ルミエラ



 セリャドの祠に着くと、目当ての精霊はなんとも言えない顔を浮かべ、こちらを見て佇んでいたので、取り敢えず挨拶して、『スラン』で買った手土産を渡した。マナーは大切だ。


 ――その後、


「へぇー、精霊なんて初めて見たなー」

 

 君は一体何者なんだ? 的なことを素知らぬ顔で言ったところ、精霊ルミエラは、意外とあっさり自分自身について語り始めた。

 彼女の話は、正直、既知のものが多かったが、俺は時折、適当に頷いたり、驚いたりして、初めて知りましたアピールを行った…………これで、彼女の名前や、光の精霊であること、今まで封印されていたこと等の、基本情報を聞いたことになった訳だ。

 面倒ではあるが、こうして話して貰わず、


 ――君のことならもう既に、名前も過去もぜーんぶ知ってるから話して貰わなくても大丈夫☆


 なんて言おうものなら、何で知ってるんだ? と言われるに決まってる。

  

 俺は、あくまで彼女のことを知らないという体で対応すると決めた。

 急に来た初対面の人間が、名前はおろか過去まで知ってるなんてバラすのは、不気味過ぎて最悪その場で敵対されてもおかしくない愚行だと考えた為だ。


 


 こちらの自己紹介も終え、一段落ついたので、目の前にいる精霊を観察してみる。

 

 光の精霊らしく、金色……いや黄金色、とでも言うべきか、美しく輝く髪。強い意志が宿る目。

 身長は150cmぐらいで、形状は人間の少女に近いが……パーツ一つ一つの造形が整っており、人間離れした美しさだった。そして――――何より、その身に宿る力が、凄まじいものであることが、こうして目の前に立っていると、なんとなく分かる。

 これが精霊。なるほど、たしかにそう納得する他ない生命体だ。


 


――――――――――――――――――――


 

「脳内に話し掛けられるなんて初めてだったから驚いたよ」 


「それは……ごめんなさい。ようやく見つけれたから、つい……」


「……まぁ、もういいよ。

 ところで……どうやって俺をピンポイントで見つけれたんだ?」


「どうやってって……光魔法を使っている人間を探知した、としか言えないわよ」


「それだけで分かるのか凄いな」


「ふふん、当然よ。

 だって、私は光を司る精霊なんだから!

 それとアンタの言ってたテレパシーが途切れるって問題も、こうして実際に会って縁が出来た以上、もう無いから安心しなさい!」

 

 責められてばかりで、やや落ち込んでいた彼女は、褒められたことで立ち直った。


 まぁ修行とかでポンポン使ってるし、それだったらばれるか。あと、さらっとテレパシーが途切れる問題も解決したな。

 ……あれ? もう用事なくね?


「よし、なら俺も帰るとするよ。さよなら」


 精霊を一目見てみたいという目標も遂げれたし、顔合わせも済んだ以上、もう用はないな。

 さよなら精霊ルミエラ。


「ちょっと……! まさかもう帰る気の!?」


「うん」


「せっかく来たんだし、ゆっくりしていきなさいよ!」


「えー」

 

 うーん。

 ……あ、そういえばさっきの話で一つ聞きたいことがあるな。

 

「じゃあ、一つ聞きたいことがあるけどいい?」


「……聞きたいこと? しかも一つだけ?

 ……まぁ、いいわ。答えてあげる」 


「さっき、光魔法が使用されると分かる的なことを言ってたけど、俺の他に光魔法が使える奴っていないの?」


「それが質問? ……アンタ以外に使っているのを感じたことはないわね。

 ……そもそもアンタを見つけたから私は目覚めることにしたんだし」


 彼女はそう言い、目を伏せると。


「……封印自体は、時が経って弱まってきてるから、いつでも解けたわ。………でも、もうこのまま封印されていようかと思ってた……。

 だけど、ここ数年、とんでもない出力の光魔法がやたら使われてるのを感じて……気になって出ることにしたのよ」


 なるほどな。封印自体はいつでも解けたのか、原作でも登場のタイミングがやたらいいし、偶然? と疑問に思ってたけど、そういう感じだったのか。


 それにしても……これ、もしかしなくても真主人公君は光魔法を使えないのか?

  実は、光魔法使えました! 展開とか、オリ主モノの展開みたいだし、そんな感じだと思っていたんだが……。 


 ……いや、それならそもそも彼女がまだここにいる訳ないか。契約したら、魔王を倒す上で大きな戦力になるし、あのハーレムが大好きそうな男が放っておくようなことはしないだろう。

 

 光魔法が使えないと魔王は倒せないとは言わないが……難易度が跳ね上がる。

 

 魔法の属性には相性がある。

 闇は光を除く全ての属性に強い。対して光は、闇には強いが、他の属性には相性の優劣がない。


 つまり光は、魔王に対する唯一の特攻だ。


 なので、光魔法がないと只でさえ強い魔王は尚更どうしようもないと思う。

 ……光の精霊とも契約出来ないし。

 それこそ、実は真主人公君は、神にでも会って、チート能力でも授かったチート主人公だった、とかか?


 ――真主人公君がどうするつもりなのかサッパリ分からないな。



 


「……ねぇ、他は? 何か無いの? 」


「……うーん」


 ネタが完全に尽きたな。帰るか。

 

「嘘でしょ!?

 精霊よ、精霊!

 待って! 契約以外なら何でもするから、帰ろうとしないでよ――!」


「契約もいらないな……」


 精霊までいたら過剰過ぎる。もう今の強さでも普通に暮らすならオーバースペックだ。

 それに……


「何でよ!

 契約するつもりは無かったけど、こうもあっさり拒否されるとムカつくわ!」


「だって――食費が掛かりそうだし」


 さっき渡した手土産の饅頭っぽい食べ物は――今はもうない。彼女があっという間にペロリと平らげたのだ。

 この精霊は美味しい食べ物を食べるのが好き、という……俗に言う腹ペコキャラ。

 契約したら、さぞ食費が掛かることだろう。

  

「精霊を、そんな理由で、拒否るな――!

 それに……それは久し振りの食事だったから!

 偶々……そう! 偶々なのよ!」


「……。あ、まだ手土産の饅頭あるんだけど、食べる?」


「ほんと! 食べるわ!

 ……ハッ……!? わ、罠ね、卑怯よ!」


 駄目だこいつ。

 




 

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