第十一話 セリャドの祠



 

 俺は悩んだ末に、一度会いに行ってみることにした。

 

 脳内に語り掛けてくるテレパシー的なものも、距離が遠いからか、たまに途切れて地味に話し辛い上に、脳内に声が響くのは慣れていないのでそれなりに苦痛だったりする。……無視するのは可哀想なので、適当に話し相手にはなっているが。


 それに精霊という前世ではいなかった存在を一目見てみたい、という気持ちもあるので、遠出になるかもしれないけど行って損はないな、と思った訳である。

 幸いにして、あの精霊の居場所も予測がつくというのも大きい。『セリャドの祠』という場所に居ることが、原作知識で分かっているのだ。残念ながら、はっきりとした位置までは分からないが、名前さえ分かってしまえば、調べればなんとかなるだろう。



 

 

 聞き込みの末、『セリャドの祠』の位置は判明した。 

 現在地の『ユーレン』はユースティア王国の南東に位置する街ではあるが、目的地はさらに東――――ベルクラント帝国との国境付近にあるとのことだ。

 なので、帝国方面へと向かう馬車に乗って、東へと向かう。ちょっとした旅の始まりである。

 

 残念ながら、ポツンと祠があるだけという観光地として微塵も魅力がない『セリャドの祠』にわざわざ寄ってくれるような馬車は無いそうなので、まずは地図を眺めていて見つけた最寄りっぽい『スラン』という街に向かうことにする。

 地図で見た感じ『スラン』は、目的地の真下に位置している街で、スラン行きの馬車ならある様なので、そこまでは馬車で行って、街でもう一度物資を補給したら、徒歩で歩いていくというプランである。

 迷子になりそうだが……街を出たら、王国と帝国の国境まで行って、それに沿う形で北上して行けばなんとかなるだろ、多分。

 

 ちなみにだが、ユースティア王国とベルクラント帝国の国境はめっちゃ分かりやすい。何せフィリグラン大陸の中央を悠然と流れる巨大な河川、グランツェ川がまんま国境だからだ。前世でも、川を利用して国境線を決めている国はあったが、異世界の国にも当てはまる様だ。



  

 数日後――――

 旅に必要な荷物を軽くまとめて、馬車に乗り込んだ。

 馬車に揺られながら、後は『スラン』に着くまで待つだけ――――――――なのだが…………如何せん暇だ。暇なのだ。

 暇をつぶせる娯楽が何もない……せいぜい魔法で遊ぶしかやることがない。それも人が近くにいる中、デカい魔法をぼんぼん撃ちまくっていい訳もないので、目に見えないぐらい小さな光の粒子の玉をシャボン玉のように飛ばしてこっそり遊んだ。

 

 うーん、俺は一体何をやってるんだろ?………………いや、これは緻密な魔力制御の訓練、ということにでもしておこう。

 ――あとの時間は、かなり薄れつつある原作知識を振り返ってまとめることに時間を充てることにした……。たまに、こうして振り返らないとマジで忘れるから必要な作業だ。





  

 さて――――時間だけはあるので、今回会うことになる光の精霊「ルミエラ」の原作での活躍を振り返ってみることにしよう。

 まず、彼女が本格的に登場するのは、二部である魔族との戦いの時だ。

 といっても、出会い自体は一部の序盤。仲間達と旅をしている中、何かに導かれるように立ち寄ったとある祠。その祠こそが『セリャドの祠』だ。

 原作のブレイブは、ポツンと佇む祠に興味が惹かれて近付いたところ、祠が突然光り輝いた為、驚いて離れたが、その時は特に体に変調はなかったので、気にしなかった。だが、それからブレイブは、ピンチになったりする度に脳内に声が響き、謎のパワーアップをするようになるのだ。


 そして、二部序盤において、魔族に歯が立たず敗北したブレイブは、鍛え直してさらなる力を得なければ、と一斉奮起するのだが、ふと思い浮かぶ訳だ。

 ――自分のピンチを何度も救ってきた謎のパワーアップ。あれを自分の意思で使いこなすことが出来るようになれば、魔族にも対抗出来るかもしれないと。

 そうして色々あって最終的に、旅の初めの頃に立ち寄った『セリャドの祠』に立ち寄ってみることなり、そこで封印から目覚めた光の精霊ルミエラと初めて対面し、今までピンチ時の主人公の謎パワーの正体が明らかになる、という流れだ。


 もちろん俺は、この祠に立ち寄ったことは一度も無い。

 なので、間違ってもこうして脳内に語りかけてくることなど有り得ないと考えていたんだが…………現に起きてしまっている。

 

 考えられるとしたら、今の時期的に封印から解かれたので、自力で契約者の条件に合った者を見つけてコンタクトを取ったとかか?


 人間なら有り得ないことだが、精霊だし出来ないと決めつけれないな。テレパシー? で会話する力も持ってるし。


 ちなみに契約者の条件は光の魔法の適性の有無。


 闇の魔法は魔王が使うので、それに対するのは光というシンプルな設定だった。


 



 振り返りするのも終わり、考察まで考え始めた頃、馬車は『スラン』に着いた。その二日後には、必要な物資を買い集め、『セリャド祠』へ。

 予定通り、一旦、グランツェ川まで行くと、川に沿って北上した。


 歩いて歩いて、ひたすらに歩く。前世だったら、途中で足が痛くなってリタイアしていたことだろう。だが、今世では平気だ。異世界人と前世の人間とでは、見た目は同じでも、体の仕組みは違うのかもしれない。

 まぁ、それは肉体面での話。精神的にはクルものがある。馬車では身体が動かせなくてストレスがたまったが、動き続けるのもダルい。

 それからも何日か歩き、道中、人目が無いことを確認して全速力で走って時間短縮したり、魔物に襲われたりとそれなりのドラマがあった。


 そうして――――――――俺は『セリャドの祠』へと辿り着いたのだ。


「はじめまして」


「……何でここにいるのよ」


 何でこいつ、ここが分かったんだ的な感じで歓迎はされなかったが()




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