第十話 帰ってきた平穏と脳内に響く謎の声



「……はぁ、なんとかやり過ごせた」


 たまたま目に付いた酒場で、適当な料理を注文。料理が持ってこられるのを待っている中、俺は息を吐いた。

 ちらっと、目だけを動かして、軽く周りの様子を見てみるが、店内は客が普段のこの時間と比較すると明らかに少ない。


 あのざまぁ事件から一週間が経つ。

 あの日、俺は、真主人公君の近くにいると録なことが無いなってことを改めて再認識したのだが……

 そんな真主人公君は、何故か仲良くもない俺にわざわざ話し掛けに来るので、関わってしまうというジレンマ。

 ――――ざまぁは……俺には起こり得ないとは思うが、警戒を強めることにして、なるべく依頼で森に行ったり、とにかく街にいる時間を減らしたりして、真主人公君と出会わない様に頑張っていたのだ。

 まったく気を休めれる時はなかった。正直、この街から離れるか? と自問したことも何度もある。 

 だが、そんな日々ももう終わりだ。


 

 今日、真主人公君は街を離れる。おそらく本来の拠点の王都に戻るのだろう。

 俺はギルドの酒場にいるが、多くの人は街を救った英雄を見送りに行った。酒場に人が少ないのはその為だ。


 


 

「へい、お待ちどう様」


 苦労した事を回想している内に、店員の人が料理を持ってきた。


「……あぁ、ありがとう」


 店員は、机にぱぱっと慣れた手付きで皿を置くと――――、


「珍しいな兄ちゃんは。街のほとんどの奴らは、先週にこの街を救ってくれた英雄サマを見送りに行っちまったってのに」


 なんか喋りかけてきた。暇なのか? いや、人もいないし、暇なのだろう。

 店員が世間話をしてくる……か。日本だったら、下町とかそんな感じにある店とかじゃないと有り得ないことだな。

 とりあえず返答しとくか。


「特に行く必要性を感じなかったんで」


 英雄、ね。まぁ、これが真主人公君じゃなくて、見知らぬ英雄なら、俺もミーハー精神で見に行ったりしたかもしれないが……真主人公君だしな……。もう見飽きた。

 そもそも関わるべきじゃないと決めたのに、見送りに行くなんて本末転倒だ。


「ひゅー、冷めてるねえ。

 兄ちゃんぐらいの歳の冒険者の子なんて、みんな英雄とかに憧れて、成り上がる夢を抱いてるって思ってたぜ」


 夢……。英雄になることが夢か。

 ……前世でとうに夢なんか叶うわけ無いと諦めた俺には少し眩しいな。

 夢なんて、まず叶わない。その夢が簡単なものだったら、実現可能かもしれないけど。


「新人冒険者なんて英雄どころか、日銭暮らしがやっとですよ。そんな夢抱けませんって」


「ふーん、そんなもんか。

 そういえば兄ちゃんも一時期は、期待のルーキーって噂になってたが、今は話題に挙がらないな」


「…………は? 俺って期待のルーキーだったんですか?」


 何でそんなことに……。


「何だ知らなかったのか?

 以前は注目されてたんだぜ? 魔物の群れに囲まれて生存は絶望的と思われていた中、普通に帰還した新人冒険者ってな。この酒場でも酔っ払った冒険者達が、もしかしたらタダモノじゃねぇって言ってる奴らがたくさんいたぐらいだ。俺もそれで顔ぐらいは覚えててな、今回話し掛けたって訳だ。

 ……まぁ、あれから特に何も話題になってないし、まぐれだったで済んで、今では忘れられていってるがな」


「……なるほど。」


 あの時か。普通に帰ってきちゃったのがこんなことになってるとはな……。まぁ、今はまぐれと思われてるならセーフ、セーフ。


「兄ちゃんも頑張らねぇと埋もれちまうぜ?

 まずはベテランと呼ばれるCランク冒険者にならないとな!」


 Cランク冒険者か、まだいいかなー。


「……はは、応援ありがとうございます。程々に頑張っていきますよ」


「程々ねえ……なんとも煮え切らない返事だなぁ。

 だがまぁ、そんぐらいの方が冒険者としては長生きしそうではある」


 そう言うと、店の奥へと店員は戻っていった。

 

 興味を失った、という感じかな。

 噂の真実が気になったから、店も忙しくないし話し掛けた。だけど、その冒険者は特にやる気の無い、そこら辺にいる日銭暮らしの冒険者だった。期待のルーキー、ということだったが、そうでもなさそうだから、どうでも良くなった。こんなところだろう。

 

 どうやら俺はあの店員の期待に応えれなかったらしい。

 期待のルーキーかもしれない、という期待に。


 こういうのは、期待に応え続けないといけない。でないと、勝手に期待され、勝手に失望されるからな。

 こうして考えると、真主人公君は本当に大変な道を歩んだなって思う。期待が大きければ大きいほど、失望も大きいと言うし。

 俺は多分、やっぱ大したことのない新人冒険者だったと、軽く笑われるぐらいで済むと思うが……英雄はやらかしたら一巻の終わりっぽいしな。

 俺とは比べ物にならない、英雄という肩書きに見合った活躍を常に要求され続けるんだから大変だ。

 

  




 

 全てが解決し、一件落着!


 それからは、またいつも通りの日々が戻り、ゴブリンを倒したり、薬草をつんだりのスローライフが続く。


  かのように思ったが…………。



『ちょっと聞いてんのアンタ!?

 せっかく、すこ~しだけなら、私の力を貸してあげるって言ってあげてるのに!』


 真主人公君が帰ってから一週間後ぐらいに――――力が欲しいか? みたいな事を語りかけてくる、謎の声(笑)が脳内に響くようになった。なんでさ。

 どうしようか、と悩んだ末、取りあえずなかったことにしてスルーしていたら、次第に相手にされていないことにキレたのか、怒鳴ってくるようになった。


 普通にヤバい事態のように聞こえるが、「ヤバい!謎の幻聴が聞こえるようになった!? 」と不安になる必要はない。

 というのも、これは原作のブレイブが経験していたものだからだ。逆に、原因不明の幻聴の類では無いのは幸いと言うべきかもしれない。

 

 謎の声(笑)の主――――この声の正体が誰なのかはもう分かっている。

 その正体は――――光の精霊。原作においてブレイブ君と契約した精霊さんだ。


 ……話し掛ける相手間違えてね? 真主人公君に話し掛けてあげないと駄目だろ……。


 うーん、そもそも、これって心の中で強く思えば、返事を返せるのかな?

 まぁ、やってみるか。……一回やってみたかったこともあるし。


 せーの。


 “ファミチキください”


 さぁ、どうだ? 送れたのか?


『ふぁみちき???』


 あ、送れてる。

 良かったー。

 

 で、これからどうしよう。 

 

 

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