カイン君の凋落 中



 強さ議論というものには、一定の人気がある。

  

 バトル系漫画には大抵、最強ランキングというものが作られているぐらいだ。

 それはあくまでもファンが描写等から読み取った予想――という訳なのだが……。

 どうしても、こういうランキングには、独断や偏見が入った結果、本来有り得ないような順位を作ってしまう者がいる。


 自分の好きなキャラは強くあってほしいから、過大評価。嫌いなキャラは、強いと認めたくないから、過小評価するのである。


 ――カインにも若干その傾向が見られた。

 そう若干だ。カインとて、ブレイブは嫌いなキャラではあるが、それでも人類の中でも最強級だとは仕方なく……本当に仕方なく認めている。

 

 しかし、だとしても、嫌いなキャラが自分の好きなキャラよりも圧倒的に上回っているとは思いたくない。

 ――ブレイブが魔王を倒せたのは、あくまでも奇跡が起きたから。絆や愛のブーストがあったから。

 ――というか、実は、自分の好きなキャラ達が与えたダメージは結構大きかったのではないか? 、とそんな風に擁護していった。


 そう――カインは良い意味でも悪い意味でも信じているのだ。自分の好きなキャラならもっとやれる筈だと、理想を押し付けている。


 


――――――――――――――――――――――


  

 カインの魔王討伐計画は、蒼炎の剣皇レーツェルの強さと“ワールドブレイカー”の面々の強さが肝となっている。


 大雑把に言うと、


 まず――レーツェルが魔王をかなり削る。


 弱った魔王を“ワールドブレイカー”でリンチにして討伐。


 ――以上だ。

  

  

 もちろんレーチェル・フォン・ベルクラントは強い。自分達より強い存在に打ち勝つからこその王道。第一部のラスボスを担う者が弱い訳がないので当たり前だが。

 原作でも、ブレイブはもちろん他の仲間達を相手に大立ち回りし、最後に絆でのパワーアップという不確定な要素がなかったら、実力的には普通に勝っていた、という程の実力者である。

 剣皇という異名がつく通り、達人でも惚れ惚れするような磨き上げられた剣技はもちろん。蒼炎とまで呼ばれるようになった火の魔法も非常に強力――そんな戦闘において、どこをとっても天才な存在。それがレーツェルという第一部のラスボスだった。


 ――そして現在のレーツェルは、カインが譲渡した魔剣を所持している。

 それが魔剣ティルヴィング。一回使うごとに所有者の寿命を削るという大きな代償の代わりに、一時的に絶大な力を得ることが出来る魔剣。

 三回使えば確実に命を落としてしまうという最悪の剣でもある。

 この魔剣は、原作の第一部にて登場しており、その性質から数々の悲劇を生み、最終的に原作のブレイブに、こんな武器存在してはいけないと溶岩の底へと投げ捨てられる運命にあったのだが……カインは捨てなかった。


 ――レーツェルに使わせる為に。


 レーツェルの寿命が大変なことになるが……三回目を使わないまま魔王を倒せれば、寿命はかなり減るだろうが、すぐには死なないし、セーフだとカインは妥協した。

 ――レーツェルは“そこそこ”好きだが、本命の大好きなキャラ達の安否も掛かってくるとなると、話は別だ。

 

 そして同時に原作で名前も登場しない王国、帝国にいる残存する一般騎士やら兵士やらのモブを全て連れて行き、主力が怪我をしたら、モブを盾にして、その間にひっこめさせて、アリシアに回復させるというゾンビ戦法もとる予定でカインはいる。

 

 原作で描写も無い、魔剣を持ったレーツェルの強さを勝手に魔王を削れる程であると想像し、アテにするのもそうだが、削った魔王を自分のお気に入りのキャラで構成されたハーレムパーティー“ワールドブレイカー”の面々で叩くという案――これはもっと酷い。

 何せ――原作よりも強くなっている彼女達なら魔王を倒す頃には、四天王を一人で倒せるぐらい強くなってる娘も多数いる筈だ、と贔屓目も贔屓目、とてつもなく甘い採点をしている問題ばかりの策だった。



 しかし――これがカインの計画である。


 

 好きなキャラの過大評価――それは別に悪いことではない。個人の自由でもあり、前世だと、多少、他のファンと衝突するぐらいで済む。

 誰しも、自分の好きなキャラが高く評価されて欲しいという気持ちはあるものだ。

 

 ただ――実際にその世界へと転生して、その考えを持ち込んでしまったことによって、このような誤算を生むこととなり、カインへと牙を剥いてしまったのだった。




――――――――――――――――――――――

 

 

 カインの計画は、レーツェルの行方不明で、あっさり瓦解した。


 『ソレイユ』に、初めて四天王の一人である磊塊らいかいのプルルスの居場所についての情報が入った際――戦闘狂であるレーツェルが独断でふらっと単独で襲撃しに行き――、


 そして帰って来なかった。


 カインは作戦の肝となるレーツェルの勝手な行動にキレたが……元より、強い敵と戦う為に王国と帝国の戦争を起こそうとした、元ラスボスにまわりのことを考えろと唱えたところで無駄な話。

 カインには、レーツェルを御しきれなかった。

 ただそれだけの話だ。

 

 その4日後。 

 『ソレイユ』は、魔将らしき者達と一般魔族の大量の集団が北に集合しているという情報を得て向かい、結果、壊滅することとなる。


 

 


 カインにとって最大の不幸。

 ――それはレーツェルが、期待したほどでないが、かといって、ちゃんと強かったことにある。


 既に、カインによって強化された者達は、まだ序盤の時期にも関わらず、魔将を退けれるまでの力を有しているという原作崩壊を起こしている。

 ……それだけだったなら、四天王はまだ動かず、魔将が多めに送られてくる程度で済んだだろう。

 

 しかし――レーツェルが、四天王:磊塊らいかいのプルルスに挑み。部下の魔将を何人か倒してしまった上に、あろうことかプルルス本人にも負傷をさせてしまった。


 それが致命的な歪みとなり――


 ――よりにもよって、こんな序盤から四天王が『ソレイユ』殲滅に動き出してしまうという悲劇を生み出してしまったのである。

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