第四十話 帝国潜入



 てっきり全滅したものだと思っていた原作味方キャラ。そんな一人である王女をオークのような魔将から命を救うというテンプレみたいなことが起こってから一週間経ち、俺は“ルゥリエ大橋”を視覚によって捉えれる距離にまで来ていた。


 そして…………一週間経った今でも、まだあのやらかしは――血塗れ王女事件は脳裏から離れてくれない。

 

 ……もはやテンプレとは呼べない、よく分からない結果になったあの事件。 

 はぁ……俺も王族への礼儀作法なんか知らないから無言で立ち竦んでいたし、王女も自分にそんな態度をとる人間を相手にしたことなんて今までなかったのだろう、困惑した様子だったなぁ。

 

 ……でも、なんだかんだあの王女は俺がグダグダ悩んでいる間に、いつの間にか立ち直って俺を観察するように見ていたし、偉い人というのはやっぱり恐ろしい。

 英才教育とか受けてきたんだろうし、現代の教育を受けたというだけで、どれだけ対抗出来るかは謎だ。

 交渉術なんて学んでいないし、ちょっと会話しただけで手のひらの上で踊らされて、こちらの重要な情報を引き抜かれてた、なんてのもありえる。こちらには、あの王女に聞きたいことなんて無いし、これからも関わる気が無い以上、今考えてみても、やはり逃亡はベストだったかもしれないとも思ったりもする。

 沈黙が正しい答え、なのかもしれない。

 

 王女は話し掛けるタイミングを窺っているようだったが、見て見ぬ振りをして逃亡。それからは、まだ現在地の確認が終わっていなかったので、再び山に登り。予定通りルゥリエ大橋へと向かった――というのが、あの後の事のあらましである。


 

 

 そうしている間に、ルゥリエ大橋に到着。

 とっととルゥリエ橋を渡って、華麗に帝国へと侵入をかましたいところではある。


 だが…………俺は足を止めていた。二つの要因で。


 一つ目は、

 グランツェ川には流れなかったであろう橋の大きな残骸が所々に残っている。


 遠くから視界に捉えた時に、なんか壊れてね? と疑問に思っていたが、やはり見間違えではなく壊されていた。

 ――十中八九、魔族の仕業だろう。こんなことをするのは。王国と帝国の戦力が合流し辛くなるように仕組まれた嫌がらせだ。これを考えた奴は性格が悪い。

 それに……人間を下等種族扱いしている魔族らしからぬ手で……本気で人類を倒しに来てるなって感じる。

 

 俺は“橋”が無いなら“船”、と思い、船を探してみたが、近くには見当たらなかった。


「他に手は無いし、力押し――最終手段を使うか」

 

 手段は一応ある。残骸を見た時に思っていたが、グランツェ川に落ちている残骸はどれも互いに距離が離れていて普通なら無理だが、俺のジャンプ力なら十分届く。頭脳でどうにかするのも面倒だし、脳筋プレイで強行突破しよう。


「……橋は壊されてるけど、橋の残骸を足場にしてジャンプしていけば意外となんとかなりそうだし。

 今は――、アレが気になる……」 


 橋が無いという問題はなんとかなる。解決した以上、その気になればすぐにでも渡ることも出来るだろう。


 しかし、要因二つ目が俺をこの場に押し留めていた。




  

 ――俺は眺めていた。

 

 近くにはいない。ソレが巨大過ぎることと、俺の目が良いことで、視認出来ているだけだ。

 

 ソレは――――ユースティア王国中央地域に聳える富士山ぐらいの標高の山“シャルム”よりも大きなで出来た物体だった。

 しかも、明らかに超重量のソレは普通に。重い胴体を支えるように、スカイツリーをさらに巨大にしたような太い金属の足が四本取り付けられていた。


 正体は分かっている。


 あれが四天王:磊塊らいかいのプルルス。

 いや、正確に言うにはプルルスが土魔法で造り上げた、巨大機動要塞型ゴーレム“ヨトゥンヘイム”だ。  

 他の四天王と違い、巨大な為に目立ち、見つけやすいので、突然奇襲される、ということは無いが、準備万端だったとしてもそれでどうにかなるようなものでもない。

  

 その圧倒的な質量を以て進行方向の全てを踏み潰し、蹂躙する。

 しかも、あの機動要塞型ゴーレム……ただの岩とかで造られているのならまだしも、で造られているので馬鹿みたいに硬い。

 アダマンタイトの塊。それは生半可な攻撃では傷一つつけられないことを意味している。ダイヤモンドを普通の人間がいくら素手で殴っても意味が無いように、数を集めた所ではどうしようもない。蟻のように踏み潰されるのがオチだ。ゴーレムも少し壊したぐらいでは、プルルスが土魔法ですぐに修復してくるっていう糞仕様もある。


 以前、魔将を倒したジャンプ踵落としだと凹ませることは出来るだろうが、ゴーレムの中に潜んでいるプルルスがすぐに修復してくるので意味は無さそうだ。それに、アダマンタイトを蹴りつけるのは、痛そうなのでやりたくない。

 

「あれが……俺が戦うことになる四天王の一人、か」


 距離は相当離れている為、向こうはこちらには気付いていないだろう。

 

 居場所は分かったが、今は後回し。玲瓏れいろうのカエルレウムが一番というのを変えるつもりは無い。

 殺るんなら、カエルレウムの次だ。


 プルルスの姿をしばらく目に焼けつけて、どうやって殺すかを考えたりした後、橋の残骸を足場に向こう岸まで渡った。

 

 初の帝国だ。



  

――――――――――――――――――――



  

 それ以降は魔将をたまに倒したり、帝国の無事な街に立ち寄ったり、不審者扱いされて捕まりそうになって逃げたりしながらも、特段語るような事も起きず、時は経ち。

 

 そして――――――、


 俺はとうとう――カエルレウムが支配する帝国の大都市“ゼルトザーム”に辿り着いた。


 

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