王道系ファンタジー漫画の主人公キャラに転生したら、村にもう一人転生者がいた~何やら主人公に成り代わりたいみたいなので譲ってあげたら世界が滅亡しかけてるんだが……~
第四十一話 魔族に占領された都市“ゼルトザーム”①
第四十一話 魔族に占領された都市“ゼルトザーム”①
都市“ゼルトザーム”に近付く程に、無事な街や村は少なくなっていき、逆に見かける魔族の数は増えていった。
王国と同じ様に見かけたら倒すってスタンスでいこうか迷ったが、流石に敵の拠点近くで魔族が大量に行方不明になれば、魔族を倒している何者かがいると気付かれてしまう可能性が高いと考えて、スルーすることに。
また、もし魔族に見つかりでもして目撃情報を報告されたら困るので、俺は光魔法で光学迷彩を再現して、透明状態で移動している。
そうして、昼頃に俺は“ゼルトザーム”の城壁に辿り着き、まず、俺はどこから侵入するかを決める為、城壁に沿うようにしてグルリと“ゼルトザーム”を一周歩いて見て回った。
城壁はやたら長く、ゆっくり観察しながらだったこともあって、かなりの時間を要してしまったが……まぁ仕方ない。やはりここは慎重に行くべきだろう。
――これが“ゼルトザーム”か。異世界に転生してから、立ち寄った街の中でダントツで大きく……そして…………不気味な街だ。
周り終えた後に、そんな感想を抱きながら、少し休憩。ここに来る前に帝国内の無事な街に立ち寄った際、聞き込みをして得た、“ゼルトザーム”の予備知識を振り返ることにした。
――帝国の人達の話を聞いた限り、“ゼルトザーム”は高い城壁に囲まれている帝国でもトップクラスに防衛に優れた都市だったらしい。
実際に、過去、王国との戦争時に何度か攻められたが、一度として陥落したことはなく、それどころかまったく寄せ付けもしなかったとかいうのが、自慢だったという。
そして、守りやすいようにつくられた構造に加え、大都市と云われるだけあり、兵の数はもちろん、名の知れた実力者も沢山いたらしく、戦力は整っていたようである。
それによって、魔族との戦いも途中までは魔将を撃退したり等、大活躍していたらしい。
だが、そんな“ゼルトザーム”の難攻不落伝説も終わりの時が訪れた。
例の四天王によって王都と帝都が同時攻撃されて陥落した事件が起き、勢いに乗った魔族が次々と街を滅ぼしていったのである。
首都の陥落という情報が伝わってからも、騎士や兵士が逃亡しまくった王国と違って、帝国という名前のイメージ通り、なんやかんや好戦的なベルクラント帝国の人達は、すぐに南に逃げたりはせずに街に残って戦ったそうだ。
“ゼルトザーム”もその一つであり、頑張って耐えていた様だが、結局、それも
幸いなことに、カエルレウムは人間を殺すことが目的ではなく、“ゼルトザーム”を拠点にしたかっただけなのか、城主を殺されて撤退していく元ゼルトザーム軍への追撃にはついぞ加わることは無かったようで、そのおかげかそれなりに生存者はいるらしい。
俺が話を聞いた人も、“ゼルトザーム”の生き残りだと言っていたし。
予備知識を振り返り終え、一旦深呼吸。淀んだような空気な上に、たまに風が吹いた際には血の匂いがした。
今の“ゼルトザーム”は酷い有り様だ。
空は魔族が飛んでいるし、城壁は所々壊れているし、血のシミが至る所にあるしで、マジで不気味な雰囲気を醸し出している。
城壁沿いに一周して分かったのは、警備が厳重だということだ。出入り口である城門は東西南北に一カ所ずつ、計四カ所あったが、どの場所にも門番――魔将が二人ずつ立っていた。それだけならいいが……空には、飛べるタイプの魔族が巡回しているので、門番っぽい魔将を倒してしまったら、すぐに異常事態として知らされてしまうことだろう。
城門からの正面突破は絶対にすべきでは無い。他の……例えば……そう、城壁をジャンプで飛び越えるとかが良いかもしれない。
あとは、時間帯をいつにするか、だ。
そもそも――透明化せずに、この魔族まみれの都市の周りをうろうろしていたら一瞬でバレていたな、と思うぐらいには、魔族の警備は厳しかった。……もしかして昼はハズレで、侵入するのは夜にするべきだったのかもしれない、と俺の決断に迷いを生じさせている。
でも……夜に侵入するというのは鉄板過ぎて、普通に対策されているような気がするのだ。やはり裏をかける昼が良いのか?
俺は心の中で唸りながら悩み、三十分後、透明という利点を活かせる昼に行くべきだという結論を出した。
――――――――――――――――――――
城壁のふちをジャンプして掴み、懸垂して、城壁上の歩廊を歩いている魔族がいないことを確認してから、身体を押し上げて登った俺は、中の都市への降り口を探して、歩廊を手当たり次第に歩いた。
飛び降りても怪我をすることは無いだろうが、下に魔族がいるかもしれない中、確認せずに飛び降りたくはない。階段というちゃんとした方法が取れるのなら、そちらの方がいい。
途中、城壁に配されている塔から出てきた三匹の魔族とすれ違った際に、
犬のような魔族が鼻をフンフンと鳴らして、
「なんか人間の臭いがしねぇか?」
と呟いた時には身構えたが。
一緒にいた二匹魔族の内の一匹が、懐から干からびた人間の心臓を取り出すと、自慢気に喋りだした。
「へっ、まったく鼻が良い奴だぜ。実は、大切に取っておいたおやつを持ってきたんだ」
「おいおい! そんないいもん隠し持ってやがったのかよ! ずりぃぜ!」
「一口! 一口でいいから齧らせてくれよぉ!」
俺は、魔族共が心臓で盛り上がっているのを見て。原作ブレイブ君だったら我慢出来ずに殴っていたな、と思いながら迂回して通り抜けた。
匂いについては……正直どうしようもない。消臭スプレーみたいなのがあればいいけど、無いし。香水をつけても、それはそれで絶対バレる。
透明とはいえ、あまり近付き過ぎたら不味いという弱点を再確認し、他を完璧にして補うしかないと意気込んだ俺は階段探しを続けた。
そして階段を塔の中で発見。それを使って、俺は“ゼルトザーム”の街へと降りた。
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