第二十七話 ある日、森の中、魔族に出会った♪



 『ユーレン』を出てから五日経つ。


 

 今の時間帯は、夕方。

 日が暮れ、空が赤く染まった綺麗な夕焼け空を眺めながら歩いていたが、すぐ飽きた。

 ずっと歩いてばかりで退屈だ。景色も森ばかりで、変わり映えしない。

 

 カツアゲ犯達を倒した後――、相も変わらず、魔物を倒しながら歩き、買っておいた食糧やら水がそれなりに減ったら、道中に見かけた街に立ち寄って補給。その日は宿に泊まり、早朝には出発。ひたすら急ぎ目で進み続けて来た。

 その甲斐もあって、今日の昼頃に中央地域に足を踏み入れることに成功している。


 だが、中央地域といっても、ここはまだ端っこの端っこだ。周りを見渡しても、街は見当たらない。自然豊か――本音を言うと、田舎だ。

 今日もまた野宿になりそうだなぁ……と溜め息をつく。

 寝るのなら、固い地面よりベッドがいい。



 まぁ、野宿する場所すら決まっていないが……。

 

「そろそろ夜に向けて、街を探すにしても、野宿するにしても、この辺りの地形を確認しておく必要があるな」

 

 高い場所に登って、周囲の確認した方がいいかもしれない。そう判断した俺は、さっき見渡した際に、やたら印象に残った岩山――他と比べるべくもない程に群を抜いて高く、聳え立っている巨大な岩山――に登ることを決意した。

 

 呑気に山登りするつもりなんかないので、鍛えた身体能力で数秒で踏破。岩山のてっぺんから周りの確認をした。

 そして――

 

 ――――見つけた。


 街ではない。野宿に適した場所という訳でもない。

 見つけたのは――だ。魔族を見つけた。

 ここから、そんなに遠くない森の開けたところで、集まって休息を取っている。

 

 数は100匹ほど……?

 見た感じ、殆どは弱いが、強そうな個体も数匹確認出来た。多分それらが魔将なのだろう。


 どれも姿に見覚えはない。

 漫画には登場していない……ハズだ。

 もう少し情報が欲しいので、目を凝らす。


「――うっ……」

 

 肉体は勇者なので、聴力だけでなく、視力も良い。それらは、普段はとてもありがたいのだが……、今回はそれが裏目に出た。


 見たくないグロシーンを生で見てしまったのである。


「……やっぱ魔族ってゴブリンとかと変わらん感じなのか」

 

 ……当たり前だが俺は、魔族を倒したことはないし、出会ったこともない。

 正直、人は殺すのを躊躇ってしまうから、人型である魔族も倒せないのでは? と、ゴブリンやオークといった二足歩行のいわゆる人型の魔物と直接会うまでは、そう思っていた。


 ゴブリンやオークは魔族には分類されない。魔物だ。その違いは言葉。血は同じ青色でも、人の言葉を喋る奴が魔族という分類らしい。

 ゴブリンなら「ギャギャギャ」、オークだったら「ブヒブヒ」のように、そもそも人の言葉を喋れないので、魔物という訳である。


 いずれ、魔族が攻めいってくるのならば、『ユーレン』にいても、戦うこともあるかもしれないと思い、まず人型の魔物を殺せるか試して置くべきだと判断し、探して倒しに行ったことがある。


 ――さて、果たして俺は、人型の二足歩行の魔物を殺せたのか?

 ――答えはYESだった。


 もっとも、戦いたくはない。

 そして、それは殺すのが嫌だからではなく……単純に

 あぁ、俺は怖い。恐ろしい。

 魔物は人を食べる。それは、ゴブリンやオークとて例外じゃない。


 最初に選んだのは、ゴブリンだった。弱いし、殺せなくても逃げれると判断した。


 ……それで俺は、見てしまったのだ。人間の手足を美味しそうに頬張る人型の魔物ばけものを。

 四足歩行の獣が口を使って貪るなら、まだいい。でも、人型の生き物がその手足を使い、火を使って人間を焼いて食べる。……その冒涜的なシーンを。

 今でも、普通にトラウマだ。マジでSAN値チェックしかけた。

 それを見た俺は、恐ろしくて……怖くて……木の枝を踏んで音を立ててしまい、ゴブリン達が襲って来るのを見て――――無我夢中で暴れて皆殺しにした。そう殺したのだ。人型を。


 そして、オークでも似たようなことがあり、俺は悟った。


「人型でも、アレを人間と同一視するとか有り得ない……」


 人型の魔物は殺せる。

 では、魔族は?

 ……正直、俺の中でゴブリンやオークと変わらない。

 俺は見た。見えてしまった。魔族達は、楽しそうに団欒している。お手玉をしたり、鍋料理を食べたりして……。

 ただ……お手玉の玉は、。鍋には、人の頭やら足が入っているのを見て、吐き気がこみ上げた。

  

 もう嫌だ。生理的に無理だ。どう考えても化け物だ。ゴブリンやオークと変わらない。


 漫画だと描写はカットされていたのだろう。こんな事実知りたくなかったな……。

 

 人型というだけで……人と少しだけ重ねたかつての自分が嘆かわしい。

 馬鹿が……よく見ろ。あれらは化け物なんだ。



  

――――――――――――――――――――――


 


 さて、どうするか。それなりに長い間見たが、四天王もいない様子だった。


 見逃すのは……うーん、あまりよろしくない。とっととこの世から消えてほしいし。

 魔族は事前に殺しときたい。四天王の時に初めての魔族を殺す、とかいう、ぶっつけ本番は厳しいとも思う。


 で、やるなら不意打ちをすべきか?

 でも、魔将が最高戦力な奴等相手に、不意打ちなんてしてたら、四天王になんか勝てっこないのでは? とも思う。

 前、倒したドラゴンよりも魔将は弱そうだし。

 


 


 考えて、真っ正面から行くことにした。


 そしてあっという間に魔族に囲まれた。

 

 弱い生き物を嬲るのが大好きなようだ。

 なんとなく分かる。将棋で、相手の駒を全部奪いとって、王だけにして遊ぶのとかが好きだったし、圧倒的な力の差があると優越感を感じたりするものだ。


 怖い魔族も、大半は力で勝てるからこうして向き合えているが、力でも負けてる魔王とか、本当どうしようもない。


 ……おっと、また勇者らしからぬことを考えてしまった。 

  

「――ひっひっひ! 人間だ!」


「一匹だけかぁ? 残念だなぁ。痛めつけて悲鳴を上げさせたら、何匹か集まってこねぇもんかねぇ」


 ……うん、やっぱ化け物だ。

 一応、対話してみるか。


「なぁ、何で人間を殺そうとしてくるんだ?」


 それを聞いたところ、魔族達はニタニタ嗤い始めた。


「ひひっ、お前らは人間はなぁ! 壊す時には、いい声で鳴くし、壊した後も、食べれるしで二度美味しい最高の玩具なんだよぉ!!

 まさに俺達魔族の玩具になる為に生まれてきた下等種族だ!! ひっひっひっひっ――!!」


 ……はぁ、これだ。言葉が同じとかでも価値観が終わってる。共存とかの可能性も0。分かり合えるとは欠片も思えない。

 そして、ゴブリンとかと同様、気持ち悪いし、普通に怖い。


 

 ……迷いを断ち切ってくれてありがとう。


 ――お礼に悲鳴を聞かせてあげよう。お前ら魔族の断末魔の悲鳴だけど。




 とりあえず、下等種族、下等種族うるさい先頭の魔族だな。


「へっ、なんだ殺されにくるなんて殊勝――――ガペッ!?」


 両手を上に上げ、魔族の頭の位置に。そして、パーンッ、と左右からまるで蚊を叩くように潰した。

 まぁ、蚊と違い、大きさが全然違うので、全体をパシッと潰すことは出来ず、万力プレスで圧縮して無理やり潰した感じの方が近いか。


 魔族の頭は縦にとても長細くなっている。


 ざまぁみろ。


 

 大体、下等種族なんて、こちらを見下してくるってことは自分達から人間とは違うと自白しているようなものだ。

 人を玩具としか思っていないキチガイなエイリアンモドキに人権があると思うな。


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