第十九話 君に決めた!
冒険者ギルド――ユースティア王国・ベルクラント帝国、両国に進出している、フィリグラン大陸屈指の大組織。
こういう時、前世の漫画とかでよくある手法だった酒場での情報集めをしようかな、とも思ったが、嘘が本当か分からない酔っ払いの話した信憑性の無い情報よりも、ギルドで尋ねた方がよっぽど良いと思ったので、ギルドの方に向かった。
で、結論として。
――多少の成果は得られたと思う。
ギルドに保管されている、魔族の目撃情報や襲撃された場所がどのような惨状になっていたのかが纏められている資料を見ることが出来たのだ。
これ単体ではあまり意味はないが、原作知識と掛け合わせると、多少は有意義な情報になる。
未来の予測という点において、今となっては、あってないような原作知識だが、それでも絶対に変わらないこと――相手の能力のことについてとかは、まだまだ役立つ。これは大きなアドバンテージとなるだろう。
例えば、四天王は火、水、土、風の魔法の遣い手であることとか。水の四天王は、水魔法を極めたら氷も操れるとかいう設定で普段は水魔法を使うが、奥の手で氷を使うこととかを俺は事前に知ることが出来ているのである。
水とだけ聞かされていたら、水中戦を得意にしている敵なのかと疑うだろうし、その勘違いした状態で、急に氷で攻撃されたら心の準備も出来てないので、驚いて動けなくなるかもしれないので、非常にありがたい。
そしてこの原作知識で能力を知っていることによって、目撃例から四天王の居場所も範囲が広すぎるが、一応分かるのだ。
目撃例には、王国だと、巨大な竜巻や山のような大きさで動く巨大なゴーレム。帝国だと、都市を丸ごと燃やし尽くした黒い炎と、都市が大量の水で押し流されたりしているという資料があった。
――そう、この痕跡でどの四天王が、王国か帝国にどちらにいるかぐらいなら分かる。
国というのは……なんとも、範囲が広すぎるが……。
ちなみに原作においても、ユースティア王国に風と土の四天王、ベルクラント帝国に火と水の四天王という組み合わせだったが、原作崩壊したこの世界も変わっていなかったようである。確証の裏付けも出来て良かった、と考えることにしよう。
……資料探しも交渉とかしないと見せてもらえないかも、と不安だったりしたが、あっさりと見れた。
――――
俺は冒険者ギルドに入り、受付嬢に魔族の出現情報を尋ねようとして、少し驚いた。
いないのだ。どの時間帯でも、ギルドで必ずそれなりにうろうろしている冒険者達の姿が。ほんの数人が依頼を受ける様子もなく、ふらふらとしているだけ。
そして、受付嬢も明らかに少なかった。
閑古鳥が鳴いている、
天下の冒険者ギルドが、だ。
だが、すぐに納得した。
まぁ、人生がもう少しで終わりますって言われたら、働いたりせずに貯めていた貯金でも崩して豪遊してもおかしくは全然ない。
もっとも俺がそう思うだけで、人によって行動も異なるようで――。
こんな状況でも働いていた受付嬢の数人は、人類が滅ぶと言われても、ピンと来ず、実感が湧いていないそうで、いつもと変わらない日を送ろうと決めたらしい。
ギルド長は夜逃げしたとのことだ。凶報を伝えた時、冒険者にもこれからどうしたらいいのかを尋ねていたことまでは知っているが……俺が途中で帰った後も話し合いは続き、船を買って、大陸南の港からフィリグラン大陸を脱出する案が出て、それにギルド長は賛成。それを提案した冒険者と、自分の親しい人を誘って、今まで貯めた財産を持って、職務を投げ捨てて旅立ったらしい。
――他の人よりも一秒でも長く生きたい。それも人間らしい行動だな、と思う。
その後、魔族の情報を聞くと、「被害の資料があるのでお好きなようにどうぞ」、と受付嬢に言われた。なんか手慣れていた対応だったので、俺の他にも、どんな被害が起きているのか尋ねてくる人がいたのかもしれない。
こうして、大切な資料の筈だが、もう秩序が体をなしていないからか、雑に許可が出たのだった。
――――――――――――――――――――――
四天王が、王国側に風と土。帝国側に火と水がいると言ったが、原作だと、まず王国の風と土を倒している。
ただ……もう崩壊しているし、わざわざ律儀に順番を守る必要はないように思えるのだ。
俺の中では、同じ四天王といっても、倒すべき優先順位にはかなり差がある。
まず、火。四天王の中で別格で強いので、一番最初に戦うのは絶対に避けたい。
土と風は……土とは相性が良さそうだな、とは思ったりもするが、両方普通。
で、一番最初に倒すべきなのは、水。
出会った順に殺していくのではダメなのだ。
例えば――脳筋の力だけの敵と、同じ強さで頭もキレる敵。どちらを先に倒すべきだろうか?
――もちろん頭がキレる方だろう。後々残しておいたら、困ることになる。対策とかを考えてくるかもしれないからだ。
だからこそ最初は肝心だ。今、四天王は油断していることだろう。王国、帝国の首都を滅ぼし、後は消化試合だと。その油断を狙う。
玲瓏のカエルレウム――こいつは、原作でも悪質なことをしてくる敵だった。
ベルクラント帝国の都市で大虐殺を起こして、殆どを皆殺しにしたが、あえて女や幼い子供を残して人質にすることで、原作でのブレイブ君達に自分にとって有利な条件を強いさせ、苦戦させた策士だ。
何もさせないまま暗殺した方がいい。もし俺が途中で断念して、魔族に征服された世界で生きていくにしても、邪魔すぎる。
それに、多分指揮を執ってるのも、コイツっぽいし、上手くやれば、魔王軍の足並みを崩せるかもしれないのだ。
よし、(最初に殺るのは)君に決めた!
考えは纏まったので、資料を片付け、諸々の準備をする為に、俺は帰ろうとし――ギルドを出る直前。
何かを重たい物を振っているような音が聞こえた。
「ふんっ、ふんっ」
という謎の掛け声? と共に。
場所は……多分、ギルドの裏手。
裏手にあるのは……たしか冒険者なら自由に使っていい修練場だった筈。
魔族と戦う気概がまだ残っているような強い人なんて、この街に居たっけ?
……気になるな。行ってみるか。
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