第二章  義務感で世界を救おう

第十八話 終末系世界へようこそ




 誰も聞く人もいないのに、なろう主人公っぽいセリフを言ってから数時間。

 

 部屋にたくさんの光が入ってきて明るい。時間帯としては、昼頃だろう。

 

「……外を軽く散歩するか」

 

 俺は、ずっと暗いことばかり考えていた為に、気が滅入りそうになったので、ひとまず宿から出て、気分転換に街を歩くことにした。


 ――外も気分転換には到底ならないような雰囲気だったが。


「まぁ……あんな凶報が広がったらこうなるか」


 ギルド長が冒険者達に話してしまった凶報。人の口に戸は立てられないと言う言葉があるが、内容が内容なので、あっという間に『ユーレン』全体へと伝わったのだろう。

  

 街の人達の怒声や悲鳴やらが、そこかしこから聞こえてくる。


 ――誰か早く魔王を倒してよ!

 

 ――そういうお前が倒せ!

 

 ――ふざけんなよ、『ソレイユ』! 何が魔族対策組織だよ! 期待させやがって、この役立たずが!

 

 ――そうだそうだ! 勝手に死にやがって! せめて、魔族共と相討ちにでもなれ! 責任とって、生き返るなりして、なんとかしろ!


 

 精神的に追い詰められた民衆達。その怒りの矛先は、事態解決へと最も期待を寄せていた組織――『ソレイユ』へと向いていた。

 

 誰も彼も、自分が魔族を倒して世界を救います、なんて言いやしない。

 一般人はそんなことを考えない。自分と身近なものが守れてさえいれば、他のことなんてどうでもいいのだから。


 ……ああ……その気持ち分かるよ。



 

 改めて思う……勇者というのは本当に損な役割だと。人々が自分の為に行動している中、勇者だけは人々の為にと行動している。それなのにも関わらず、魔王を倒してハッピーエンド、とはならず、粗を探され、叩く人がどうしても現れるのだから報われない。


 自己犠牲は、見てる分にはカッコいいかもしれないが、実際には絶対にやりたくないものだ。

 

 ましてや……で勇者になるなんてとんでもない。


 この世界では、勇者と書いて人柱と読むんじゃないか? そんな風に俺は思っている。

 


――――――――――――――――――――


 

 そのまま……街の人達の声を聞きながら、歩いていると、前方に人集りが出来ているのが見えた。 

 そして――何かを呼び掛ける声が聞こえる。


 ……行ってみよう。

 そうと決めた俺は、人集りの最後列に立ち、人と人の隙間からその人物を視界に入れ、耳を澄ました。

 

  

 そこにいたのは、一人の中年の男。

 その男が、舞台劇の役者のような、誇張された動作で手を広げたりしながら、演説していた。

 

「皆さん、『ソレイユ』は天罰を受けたのです!

 魔族様達に支配されることこそが、人類の幸福!

 さぁ、我らガウディウム教に入信し、魔族様に逆らう者共を生け贄として捧げ、許しを請いましょう!

 ――それこそが! 私達、人類の目指すべき道!」


 ……終末思想のカルト教だ。

 こんなのまで出てきたのか。

 でも、こんなの賛同する人なんていないでしょ。……さすがに。

 そう、俺は思っていた。……思っていたんだが……。


 

 ――ふざけんな! 誰が魔族なんか崇めないといけないんだ!


 ――いや、でもどうせ勝てないんだし、生け贄渡して、妻や子と暮らしていけるのなら……。


 ――ソレイユの残党とかまだ残っているんだったら、丁度いいんじゃないか? 見つけて引き渡しちまえば……。

 

 ――そりゃあ、いいや! 役に立たなかったんだから、最期ぐらい役に立って貰おう!



 たくさんの意見の中には……賛同している声もあった。 

 えぇ……マジか。

 

 『ソレイユ』の人達もここまでくると哀れだ。守ろうとしていた人達に残党狩りまでされそうになるなんて……。


 ……そういえば異世界ってドラゴンとかに生け贄を渡すとかいうのは、話としてはよくあるし……それの魔族版があってもなんか受け入れられそうだなぁ……。

 生け贄文化……元から素養があったのかもしれない。異世界の民度ってかなり終わってるのでは?


 俺は、その演説の場から離れ、絶望した。



 終末思想的な変な宗教まで出てきちゃってるし……もう王道ファンタジーの見る影もない。終末世界と化してると来たもんだ。


 もう無理だろ、これ……。魔族殺してたら、人間にも狩られそうになるとか。




 

 ――だから、俺も諦めよう。


  

 そう言い切ってしまいたくなる……が。

 

 


 断じて、俺が正義の心に目覚めた訳ではない。

 『義務感』

 それが俺を諦めさせてくれないものの正体だ。 

 

 ……俺はブレイブだ。原作において主人公の立場だった存在。故に、本来の役割を果たさないといけないのではないかとも考えてしまうのだ。

 なんだかんだ流されて、真主人公君に譲る判断をしてしまったのも、俺である。

 

 一人生き残る分には、多分? なんとかなる。だが、その場合、俺は――、


 人類を見殺しにした、という十字架を心で背負いながら、この先、生きていくことになるだろう。


 ――それは耐えられない。多分、精神を病むと思う。


 もっと俺が、善か悪のどっちかに振り切れた人間だったのなら悩むことはなかったのに。そう思わなくもない。

 善人なら――自己犠牲の精神で立ち向かうことが出来た。

 悪人なら――全てを見捨てて、終末世界でモヒカンにでもしてヒャッハー出来た。


 

 そんなことを思いながら、これからどう行動するか悩み――、

 ……取り敢えず、ギルドにでも行って、少しでも情報を集めてみることを決めた。


 ギルドで四天王の情報を集める。魔王は倒せないかもしれない。だが、四天王ならまだなんとかなるのでは?、とも思うのだ。

 四天王がいなくなれば、一旦は落ち着くかもしれない。元凶がいる限り、根本的な解決には至らないだろうが……。


 ……この世界の魔王もそうだが、大抵の魔王って魔王城にドンっと待ち構えている感じだけど、勇者が行かなかったらどうなるんだろ? ずっと来るまで待っといてくれるのかな?



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