第四話 モブ冒険者side



 とある冒険者side


 

 ――少し前からグレッグ達と連んでいる新人冒険者がいる。リーダーのグレッグはCランクで他二人はDランク。Cランクは冒険者の中でもベテランと呼べるランクなのだが……そんなベテランのグレッグは新人冒険者に絡んでは、生意気なら喧嘩を起こし、ボコボコにしてしまうチンピラのような奴らだ。そんな問題がある奴だが、その実力は本物。むしろ喧嘩をよく起こしているだけあって、戦い慣れているといってもいい。戦闘ではCランク内では上位の方だと噂されているぐらいだ。

 正直、俺もグレッグには勝てる気がしねぇ……。


 そして件の連んでいる新人冒険者。初めは、グレッグ達にへりくだって、取り入ろうとしているのかと思っていたのだが……どうも違うようだった。新人冒険者とグレッグ達はよくギルドで会話をしているものの、パーティーは組んでいないという謎の立ち位置にいる。



 そんな評価だった新人冒険者。だが、その評価は次々と変動していくこととなる。


 初めは腰巾着。誰の目に見ても、ベテランの冒険者に気に入られようとしている情けない奴という風にしか見えなかった男。

 俺も少し引っかかる所があったが、そんなことがある筈がねぇと無視した。



 次は、無謀な頭の足りてない新人冒険者。

 何せ、その新人冒険者は、パーティーを組まなかったからだ。危ないからこそ、冒険者達は基本誰もがパーティーを組む。

 ベテランなら簡単な討伐ぐらいならソロでもなんとかなるかもしれないが、奴は新人。

 新人にも関わらず、一人でパーティーも組まずに依頼へと向かっていったのには酒場の冒険者達は揃って呆れたものだ。こりゃあ死んだな……と。

 不謹慎だが、いつ死ぬのか賭けが行われたりもしたもした。

 


 

 だが――その予想に反して、何度依頼を受けようと、その新人は死ぬどころか、掠り傷一つ負うことすらもなかった。

 それも誰かが言った、運が良いな、の一言で疑問は解消され、ラッキーボーイと評されることになったが……。もはや俺にはそうは思えなかった。

 


 別に俺が目利きに優れているという話ではない。俺の冒険者ランクはCランク。グレッグと同じランクであり、ベテランではある。が、そんな戦ってる所すら見ずに、立っている相手を見ただけでそいつの実力が分かってしまうなんて達人のような真似なんか出来ない。

 それどころか、俺はグレッグはもちろん他のCランク冒険者よりも戦闘力においては一歩劣っている自覚すらある。

 だが、俺には一つだけ特技があった。その特技のおかげで、冒険者として長年命を落とすことなく冒険者稼業をやり続けることが出来たのだ。その特技は、直感。俺は直感が他人よりも鋭い。

 こいつは勝てないなと、モンスターに限らず、自分より強い者は理屈じゃないがなんとなく分かる。この直感をうまく生かして、勝てそうに無いならすぐさま撤退と、上手いことやってきた。生存能力という点なら、Cランクから下で俺より優れたの冒険者を見たことがない。

 ――だからこそ信じられなかった。そんな俺が頼りにしている直感が、腰巾着になろうとしている情けない新人冒険者如きに反応したという事実に。

 その新人冒険者は一見強そうには見えない。俺の目には。だが、俺の目利きとは関係なく、直感はその新人冒険者を大音量で危険信号を発していた。まるでソイツはヤバイと……言っているように……。



 


 そして最後には、その新人冒険者はよく分からない奴、とまわりに評価された。




 最近、何故かモンスターが活発に活動している。何かが起こる前兆――と街では噂されていたのだが……特別、他に何かが起こったことはなかった。

 あの日までは――――あれは……モンスターの唸り声がやたらと響く夜だった。

 おかしいと思い、冒険者ギルドに向かうと、他の冒険者達も殆どが集まっていた。

 ギルドから、すぐさま大量の魔物が街に向かって来ているので街の防衛をしろという緊急の依頼が出され、街を囲うようにして、冒険者はもちろん騎士までもが配置される厳重体制。


 

 そんな中、グレッグ達が何やら騒いでいた。

 どうやら、例の新人冒険者が夜に活動する、森フクロウの討伐依頼を受注していて外にいるから、救助を出してやってくれ、と言っているようで、状況も考えずに無茶なことをギルドの受付嬢へと怒鳴っていたが、論破された。


 曰く、もう助けられる見込みはない。新人冒険者でしかも一人で外にいるのなら、既に死んでいるだろうと。


 まったく以て、その通りだった。Bランク冒険者をリーダーとするパーティーが唯一帰還していたが、メンバーのCランク冒険者の一人が死亡したのだから、新人冒険者なら助かる道理はない。



 

 だが――それでも奴は何時も通り平然と帰ってきた。あれほどの大量の魔物達がいる中、一人で帰還? この状況でソロで街まで帰ってこれる冒険者がどれだけいるか……Bランク冒険者、いやAランク冒険者といった高ランク冒険者と呼ばれる奴らでもないと有り得ない。

 

 しかも、だ。恐ろしいことに奴は相も変わらず、無傷だったんだ!

 いや、おかしいだろぉぉー!? なんで無傷なんだよ!! キッショ!!

 こっちはたくさんの冒険者と騎士と一緒に戦っても傷まみれだってのに!


 それで、俺もハッキリと認めたさ!

 俺の目利きなんかより、直感の方が正しかったんだってな! 命の危険がないから直感を直ぐには信じず、じっくりと疑ってなんかいたが、そりゃあソロでやっていける訳だ。で、疑問はそんな奴が何でグレッグ達と連んでいるかだ。マジで何を考えているのかが分からねぇ……。

 そんなこんなで、今回のことはさすがに街にいる冒険者達も俺の様に確信まではしてないだろうが、さすがにおかしくね?? と思い、ラッキーボーイから、よく分からない奴へと評価された。

 

 グレッグ達は「よく帰ってきた!! よしっ!今日は祝いだ!飯を奢ってやる!」なんて呑気に言っている様に、気付いていない奴らもいたがな……


 新人冒険者――ブレイブ……実力はもちろん何を考えているのかすら分からない、得体が知れなすぎる男。……間違っても喧嘩を売らないようにしよ……ミンチにされるかもしれねぇ……。


 


 

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