第三話 冒険者デビュー
あ……ありのままの今の現状を話すぜ!
悲報)さすらいの旅人を気取ってた俺氏、とうとう街に定住してしまう。旅人引退()
初めはワクワクしていた。異世界の色々な所に行くことに。異世界に生まれたといっても、行動範囲は小さな村の中だけ。不便な田舎の村というだけで、まったく異世界だと実感したことはなかった。
ならとっとと村の外に出れば良いって話になるんだが……。村から一歩踏み出せば、モンスターに襲われようが周りには一人もいないし、そう都合よく助けが来るとは限らないので、何かあっても自分で解決出来るよう準備をしておかなければならい、村から送り出される15歳まで修行に充てるべきだと自分に言い聞かせた。
そんな満を持しての異世界一人旅。好奇心を抑えつけていた反動で前世で初めて海外に行ったときぐらいテンションが高く、浮かれていた。せっかくだし、異世界の街全部巡っちゃおうか? なんて無謀な目標をつい考えてしまうぐらいには。
ドラゴンをも簡単に倒せる実力という保険が、俺の不安を取り除いてくれたおかげである。
だけど、色々な場所へと足を運んでいくうちに背負う物が多くなっていった。物理的に。
見たことのない小道具や、見た目が気に入った皿、そんな物を行く先々で思い出を残すためにと買っていたら、いつの間にか背負って旅するには、難しい荷物になっていったのだ。かといって、全てを捨てる気にはならない。これはいつか使えるとか思ってしまって殆どが捨てれないのである。異世界に来ても、断捨離に悩まされることになるとは……
そして――――最初に語ったことに繋がる。現在いる街――『ユーレン』に訪れ、宿に泊まった時、ちょっとペース落として、しばらくは休憩しようと街に長居することを決めたのが終わりの始まりだった。
長居するのだからと、必要な物を荷物から出して、部屋を快適な空間へと変えていき。
街に到着してから1ヶ月経って――――そろそろ新しい地へ行かなければと心は思うのだが……体は動かなかった。部屋にある荷物をしまって、また旅に出るのは怠くなってしまったのである。
ぶっちゃけ、さすがに旅にも飽きてきた……という理由があった事は否定出来ない。モチベーション的にも一旦のクールタイムが必要だった。
観光で色々な街に行ったが……街の大小はあるものの、こう水の街! とか、火山の麓にある街! とかいうのを期待してたのに、そんなに大きな違いがなかった。そういう環境が大きく異なる街はもっと遠い場所に行かないと無く、気楽には行けない距離だった。そして、遠い場所は行くのに時間が掛かる。新幹線も飛行機もないのだから当然だ……。
こうして俺の旅は終わった……。でも今でもいつかは、行こうとは思っている。そのいつかはまだ未定だけど……。
だからその時の為にお金を稼いでおくことにしたんだ。
――異世界で定番のあの職業で。
今の俺は、さすらいの旅人ではなく、お金を稼ぐべく、異世界お馴染みの冒険者ギルドに登録した立派な冒険者だ。
前世では、異世界ものではほぼ必ずと言っていい程、登場する冒険者ギルドだが、この世界でも殆ど同じものである。
これまたお馴染みであるダンジョンの消滅や危険なモンスターの間引きを目的とした異世界お約束の組織――それが冒険者ギルドだ。ちなみに、この世界の冒険者ギルドの冒険者ランク制度は、最上位がSランク。一番下が、Eランクである。
冒険者は予想外のことが起きたりして、常に危険が付きまとう仕事だが、要は冒険者ランクを上げずに、普段から危険なモンスターを相手にしなければいいだけのことだと思っている。
どこかの伝説のモンスターが住み着いているとか言われている伝承があって、そもそも生息している強いモンスター全てが強い、どこかの霊峰なんかに行けば、ドラゴンとか予想外のモンスターが出てきてもおかしくない。
だが、街からあんまり離れていないような場所でゴブリンを討伐していてもドラゴンが現れるなんてことはほぼ0%だろう。
そんなこんなで、普通の冒険者として順調に活動している。パーティーメンバーはいないが、街に留まってから何ヶ月か経っているので、それなりに喋ったりする冒険者仲間も数人出来て、楽しめているぐらいだ。
そんな冒険者仲間、有り難いことに彼らは前にパーティーに勧誘をしてくれたりと気にかけて貰っているのだが――俺はソロで冒険者をやっている。
普通の新人なら必要に駆られて、慣れていなくとも仕方なく組んで、段々と慣れていくのだろうが……。
俺は、ソロで問題無かった為、刃物を持った他人と一緒に居るのは、忌避感からつい断ってしまった。チャンスを逃した俺は、パーティーを組むことは一生出来ないのかもしれないな……。
そうして今日もモブ冒険者として、適当な依頼を達成して、それなりお金を稼いだので、そのお金で冒険者ギルドに隣接されている酒場で何か食べる為に足を運んだ。
すると、酒場には知り合いがおり、目があった。彼等が先程言っていた冒険者仲間だ。
「お、ブレイブ! 依頼終わりか?」
「ソロなのによく無事だよな、お前!」
「俺達のパーティーに入りたかったらいつでも言えよー?」
上から、リーダーのグレッグさん、ジェイクさん、ラッセルさん。全員もれなくおじさんで、彼等は主人公相手に絡みに行くかませ犬っぽさがある冒険者達なのだが……生憎、俺はもう主人公ではない。
冒険者登録しようとした日に話しかけられたのだが、彼等は冒険者としては先輩だし、どう対応するかで困って前世での部活での先輩と同じ様な感じで敬語を使って話してたら、気をよくしたのか冒険者について色々アドバイスしてくれて、自然と仲良くなった、案外いい人達だ。
「あはは……今日もなんとかなりましたー」
先輩冒険者をボコしたり、ましてやいきなりドラゴンを倒して実力を見せつける、なんてことをせず、目立たない新人モブ冒険者――それが今の俺だ。だが、これでいい。世界を救ったりの責任なんて前世で一般人だった俺には荷が重すぎるのだから。
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