第二話 当てのない適当な旅
ブレイブside
一人旅ってのは気楽なもんだ。
村を出てから3ヶ月。俺はまさに自由ってやつを謳歌していた。
気になった場所があれば、あっちにふらふら、こっちにふらふらと、観光地巡りみたいなことをして過ごす日々。まさに毎日が休日みたいなものだ。なんと素晴らしいことだろう。……一応誓って言うが、ニートではない。腕がサビないように一日一匹は、魔物を討伐するようにしていて、それでとれた売れそうな部位をそこらの商人に売りつけているから……収入があるってことはニートではない筈だ。
それにしても……わざわざ俺は最強の~になる!みたいなことを言って成り上がる転生者達は働き者だなぁ、と改めて思う今日此頃。
…………自分で言うのもなんだが……やっぱり俺、主人公適性無いのでは?
そんな、さすらいの旅人な俺ではあるが、前述した通り、魔物を討伐することを心掛けているので腕は錆びていない。むしろ修行を欠かしていないので日々強くなっているとも思う。主人公の役割は確かに真主人公君に託したが、それとこれとは話は別なのだ。
原作知識でこれから王国と帝国の戦争や魔族による侵略があると分かっていて巻き込まれないとは限らない。モブなんて描写されていないだけで、絶対たくさん死んでる……
よって、生きていく上で強ければ強い程良いのだ。
俺は特にと言ってもいい。絆とか愛でのパワーアップが見込めない上に、前世の記憶のおかげで、良くも悪くも覚悟ガンギマリにはなれていないので、精神面では現地の人以下というのも有り得る。
そうでなくとも、ここ異世界に於いては暴力が全てだ。異世界の法律なんて興味ないので、どうなっているのかなんて知らないが、現代に比べて格段に治安が悪いことだけは確かだ。
前世で、海外は治安が悪いから気をつけないとなんて思っていたが、みんなの憧れの異世界の方がよっぽど治安が終わっていた。
だって……街でそこらを見渡したら、普通に剣とか斧を持ってるんだぜ? 前世だったら、それより殺傷力が低めのナイフを持って歩いてる人さえ、滅多にはいない。もし、いたら危険人物であり、事件性しか感じないぐらいだ。
前世ではドイツに行ったことがあったが、それよりも普通に身の危険を感じるんだよなぁ。まぁ、俺も剣を腰にぶら下げているので立派にその危険人物の一員となっているのだが……
まぁ、そんな危険人物を見る度、強くならないといけないと思えるので、修行が怠くなってきた時には街に行って、危険人物達を見て、これは必要なことなのだと自分に言い聞かせるというコツを使って、今日も三日坊主にならずになんとか頑張っているのである。
そのおかげで地力には自信がある。剣も、村にいた魔物や盗賊と戦う自警団的な人達が元は冒険者で剣に自信があるらしかったから、頭を下げて渋々ではあるが教えてもらって、我流ではなく、何年にも渡って得た剣の心得がある。これは原作ブレイブ君にはなかったアドバンテージだ。
ま、中途半端に剣を習ったところで、俺が目指す原作のブレイブ君の強さには届かないんですけどねー。どうだろう?、今だと……足下ぐらいの実力なのかな?
技術は無いよりは有った方がいいんだろうけど、こういう世界って地力を上げた方が強くなれる気がする。ただひたすらに固くて、目で追えない程の速く、全てを破壊するパワーがある、というのが最強だと思う。
だから俺は強くなりたい――――蟻を一匹倒せ、と言われて震え上がって戦々恐々とする人間はいないだろう。要はそれぐらい力の差があれば、覚悟を決めたりする必要もないのである。
その証拠に――最初は見た目に怖じ気づいていたが、俺は無事ドラゴンを倒せた。
――――――――――――――――――――――――――――
とある冒険者side
冒険者とは、冒険者ギルドという機関に正式に所属している者達のことを言う。冒険者ギルドの掲示板に貼られている依頼用紙を受付に渡すことで受領するという流れだ。
主な仕事は、魔物の討伐。一般人でもモンスターを討伐して、それを商人などに売る者もいるが、その人達が冒険者ギルドに登録していないのであれば冒険者とは呼ばない。
だが、魔物を討伐以外にも調査だけという依頼もある。今回、私が受領したのがそれだ。
『何かの唸り声のような音が聞こえてきたりする。山に異変があるかもしれないので、その原因を調査して来て欲しい。そして可能であれば、原因解決もお願いする』
大体そんな内容だった。
調査依頼は、原因が魔物ではない場合もあり、魔物が原因であっても情報を持ち帰ればお金が貰えるというボロい依頼だ。だが……たまにハズレが混じっている……。
今回受けた依頼はその最たる例だろう。
「あ……あぁ終わった……」
――――目の前にモンスターがいる。原因のモンスター。
倒す?
――とんでもない。
逃げる?
――逃げれる訳がない。
後ろを振り向いた瞬間に消し飛ぶ。
赤く巨大な体。口からは全てを燃やし尽くすような炎のブレスを吐き出す、モンスターの頂点――ドラゴン。凡そ人知の及ばない、正真正銘の化け物のようなモンスターを倒すことが出来るのは、それこそ物語に出てくるような英雄のような人物だけだろう。
「唸り声の正体は……ドラゴン、か」
原因が分かったところで、もう意味もない。この情報を持ち帰れる筈がないのだから……もはやあるのは、運が悪すぎたという諦観だけ。助けなんて来ないし、来たところでどうにもなりはしない。
(あぁ……ドラゴンと目が合った……認識された……私の人生って終わるんだな……)
ドラゴンが煩わしそうに、私という存在を消し去るべく、口からブレスを吐こうとしている。何故か時間がゆっくりだ。下を向いて、目視しないようにする。最期の光景が、世にも恐ろしいブレスなんてのは嫌だった。
「グギャッッ――――!?」
…………? ドラゴンの悲鳴のようなものが聞こえた。
私は気になって見上げると――――ドラゴンの胸……心臓を含めた大部分があったであろう場所にぽっかりと大きな穴が空いていた。理解が追いつかない。剣も魔法も通さない固すぎるドラゴンの鱗に遮られて効かない筈だ。
「グオォォォォォ――――――!!」
瀕死の傷を負ったドラゴンが姿の見えない下手人へと怒りの雄叫びを上げる。もう私なんて眼中にない。
……人間なら即死している傷でも、動ける生命力……だけど、そんな雄叫びも長くは続かなかった。
何故なら雄叫びを上げる口がもう無いから……。
何が起こったのかは分からない。突然頭諸共、何かがドラゴンの上半分が消し飛ばしたのだ。上半分を失ったドラゴンの下半分はゆっくりと横に倒れていく。
呼吸が出来ない。
悪夢だ。何かがいる。ドラゴンという化け物をこんなにあっさりと処理するドラゴン以上の化け物が。
処理。そうだ処理だ。何がいるのかは分からない――でも、少なくとも英雄なんかじゃない。仲間との絆も、愛を以て助け合いながら強敵を倒すという、人々が愛する英雄譚は――――そこには一切なかった。
「――――――――――――!?!?」
追撃は無い。あったとしてもドラゴンにどうしようもない以上、私に出来る訳がない。姿が見えないのが、余計に恐ろしい。
気付けば言葉にもならない何かを叫びながら、必死にその場から――山から逃げて、街にも戻らず、全力で少しでも離れるべく走っていた。もうこんな山はおろか、近くにある街にすら居たくない。
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