第一章  オレ……何かやっちゃいました?(震え)

第一話 旅立ち



 人類が住む大陸――――フィリグラン大陸。魔族達が住んでいる誰も足を踏み入れて帰ってこれた者はいないという大陸――――シュレクリヒ大陸。

 それらが原作において、主に登場した大陸である。

 原作の漫画は二部構成で、第一部ではフィリグラン大陸の西にあるユースティア王国と、東に隣接する強大な軍事国家であるベルクラント帝国が戦争状態になるので、色々頑張って和解させる物語だ。で、第二部は魔族達との戦いというのが大まかな流れである。



 そして――ユースティア王国の中でも南西の隅っこにあるこの田舎の村では、とうとう物語が始まろうとしていた!――みたいなナレーションをぼんやり考えてしまった。今日は特別な日なのだからか、自然とテンションが上がっているのかもしれない。



 そう――――――、 

 

「元気でねーーーー!!!」


「いつでも帰って来いよーー!!!」


「案外、お前ならあっさり出世出来るかもしれないな! 頑張れよ!」


 転生から早15年――――今日、俺は村から旅立ちます!

 見送りには殆ど全ての村人達が来てくれた。感動の別れってやつだ。村人に囲まれ、涙を流して惜しまれつつも励まされながら幼なじみの女の子と二人で旅立とうとしているのは、さて誰でしょう?

 答えは――――――もちろん! 村のみんなからこそこそ色々と噂されている人気者であるこの俺……なんてことはなく――――――――――――――――――――――はい……真主人公君です。


「見といてくれよみんな! 俺は絶対偉業を成し遂げるからな!!」


「さすがね、カイン君。高い目標だけど、あなたならやってしまいそうだわ!」


 

 今日、旅立つのは俺だけではないのだ……。真主人公君とヒロインのアリシアもいる。

 あ、そういえば真主人公君は最近、カインという名前だということを知った。ま、知った所でこのまま真主人公君って呼ぶのは変わらないけどね。何故ならカイン君は、俺に代わって世界を救う真主人公となるのだから、このまま真主人公君と呼ぶのが正しい気がする。

 

 いやー、数年前までは彼に任せていいのか不安だったけど、もう彼はね――完璧な転生オリ主君ですわ。前世でもあったような原作主人公をざまぁして、成功するような気しかしない。

 ある意味、俺の意識で良かったのかもしれないな。もし原作ブレイブ君のままだったら、何も知らずぶつかり合って、よくある踏み台のように落ちぶれて酷い目に遭ってしまっていた可能性も全然ある。

 

 真主人公君は、この数年間の間にヒロインの幼なじみポジションに収まっただけでなく、魔物から幼なじみを守ったりしたりと活躍し、まるで本当の主人公っぷりを見せつけた。

 もうヒロインは真主人公君にベッタリだし、原作は完全に崩壊だ。もう軌道修正も不可能だろう。全員の力を合わせて、強大な敵に立ち向かうストーリーなのに一人欠けてたらねー……もうバッドエンドしますって……。俺の主人公力が低過ぎたのも原因の一つだとは思うけども、真主人公君ツヨスギィィーー。


 現に、たくさんの村人達に見送られてる所からもその主人公適性の高さが窺える。ヒロインも連れて行ってるし、もう彼に任せるしかないのだ。

 

 それにしても……エラい差があるなー。俺なんて…… 村の人達は最低限の挨拶をした後、一切近寄って来ない有り様だ。ボッチ……いやここは孤高としておこう。

 ――これからは“孤高”のブレイブとか名乗ろうかな()

 

 悲しいには悲しい……だが一つ言い訳をするとすれば、俺の憑依??したブレイブ君は赤ん坊で森に捨てられてはいるところを村の人に拾われて育てられたという暗い過去設定がある。俺も実際そうなってるし、はぐれ者扱いされても仕方ない気もする。むしろ育てて貰っただけで十分感謝だな。

 ちなみに俺は生まれた時から俺の意識であり、記憶を突然思い出したりはしていないので、乗っ取ったのかどうかもよく分からない。おかげで、赤ん坊の状態で山にいたときは身動きも出来ず、二度目の人生さよならかと絶望したもんだ……。


 あれ?――ってか、そういえば原作ブレイブ君も村人達の見送りは数人程度だったし、真主人公君は環境の違いがあるとはいえ、凄いな。



 

 まぁ、そんな暗い過去を持つ俺ではあるが、それについて特に悩んでなんかいない。なんで王道系の漫画って主人公に暗い過去設定つけたりするんだろうなー? と思うぐらいだ。前世の記憶がなかったらヤバいかもしれないが、割り切れってしまえるのが転生者の精神クオリティーだ。――他人事に考えているとも言う。

 正直、世界の命運が俺に懸かっているという実感が湧かないのもそういう面が影響しているのかもしれない。


 なんて――一人で隅っこから真主人公君達や村の人を眺めながら、ぼーっとしてたらいつの間にか彼等は旅立っており、村の人達はさっさと家に戻っていった。


 ふっ(泣)、前世の学校での悲しい過去を思い出すぜ。教室移動で寝てたら起こしてもらえず、気付いたら誰もいなかったことを……。

 グッバイ、そしてここまで育ててくれてサンキューな村人達。………………誰か一人ぐらい見送りに来てくれてもいいんだよ? あ……家事があるから無理ですか、はい……。


 今日の天気は晴天の筈だが、水で顔でびっしょりだ。


 ちくしょーーーー!!! 俺は、俺は――スローライフを満喫してやるからな!!!

  自慢じゃないが、知識チート出来る知識もないから、一般人Aにでもなっていると思う――――だから、ざまぁしに来ないでくれよ(切願)!!!



 

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