王道系ファンタジー漫画の主人公キャラに転生したら、村にもう一人転生者がいた~何やら主人公に成り代わりたいみたいなので譲ってあげたら世界が滅亡しかけてるんだが……~

出来立てホヤホヤの鯛焼き

prologue



 ――なんか転生してた。

 それが現状を表す最適な言葉だろう。


 車に引かれて死んだと思ったら、気付いたら赤ん坊だったのだ。しかも異世界にである。

 神にも会っていないのであまり実感が湧かないが、二度目の人生を送れるのはラッキーだと捉えようと思う。前世の未練はあるにはあるが、幼い時から人生をやり直すというのはそれ以上に魅力的だ。


 問題があるとしたらそれは――――転生してから7年経つがようやく現状を認識したことで、俺が前世で読んだことのある漫画の登場キャラ……しかも主人公のブレイブになってしまっていることだろうか。……あと一つ。いや、もしかしたら希望になるかもしれないので、問題かどうかは一旦保留だ。


 はははー……魔王討伐ねー……勇者スペックを活かせば楽勝……なわけがないよなぁ。ふぅ――――実際マジでヤベェ……


 何がヤバいのか……それは、この漫画が王道といってもいい、世界を侵略しようとする魔王を主人公と仲間が絆で支え合って討伐するストーリーだという点だ。少年漫画のように絆の力が重要視にされているだけあって、作風はそんなに暗くないのだが…………逆に仲間の声援で主人公がパワーアップする展開が幾つもあるということで、困っているのだ。


 ……俺は仲間の声援でパワーアップ出来るのか??

 これが純粋な疑問だった。

 前世での運動会で、クラスメイト達に応援されても特に順位を上げることなんて出来やしなかった。

 つまり、このことから本来の力に加算されるはずの、友情パワーを俺は端から持ち得ていないということが分かる。そして、友情バフ無しってことは俺は相当弱体化する筈だ。


 ……世界オワタ。



 ――――だが、世界が滅びるのに何もしない訳にはいかない。ましてや、転生先は主人公だ。不意打ちでも何でも、倒せれたらいいかと、とりあえず日々修業を頑張っている。もしかしたら、無駄になるかもしれないが、懸念材料もある。

 修業のし過ぎで、王道系のストーリーというだけあって、同じ村にいる最初の仲間になる系ヒロインのアリシアを完全にスルーしてしまっている形になってしまっている……

 というか、あまり喋ったことすらない。その理由が、先程もう一つの問題として挙げかけた――――謎の男の子の存在だ。


 彼ともあまり喋っていないので、深くは知らないが言えることがある(名前すらも知らない)――――ぶっちゃけ同じ転生者であることだ。なんか前世での発言をしまくって知識で村の人にマウントとってるから分かった。俺? 俺はボッチだし、あまり村の人と喋らないよ。

 だから、向こうもこちらが転生者だと知らない筈だ。


 転生者同士、仲良く助け合えないか?

そうすれば、主人公としてやっていける自信がない俺でも転生者の仲間がいてくれたらなんとかなるかもしれない! 、なんて俺は最初は考えていたのだが……


 普通に無視られてます…………

 どう考えても嫌われてるんだよなぁ…………


 助け合うどころか、アリシアの尻を追いかけていつの間にか仲良くなったのか、幼なじみポジションを獲得している。正気か? アリシア現時点だとまだ幼女だぞ? 普通に引く……



 これがもう一つの問題? まぁ問題か。

 主人公の立場乗っ取られかけてる問題だ。ヒロインの一人であるアリシアが幼なじみどころか、もはや他人同然というのは、ストーリーを崩壊させにきてること間違いなしだ。

 ストーリー崩壊させたら、原作知識を利用出来なくなるし、したがって魔王を主人公が倒せなくなる、という可能性が生まれてくるのだが……まぁそれも今更な話だ。俺が主人公の時点で崩壊してるからな。


 彼は多分、主人公(俺)をざまぁしたいんだと思う。初っ端から原作崩壊させているのも、そのためだ。題するなら――――『モブに転生した俺が主人公に代わって魔王を倒す~ヒロイン達も俺に全員ついてきちゃったよ。主人公? 一人で頑張っとけ~』とかそんな感じだろうか?

 

 

 前世でも原作主人公が負けて酷い目にあって、転生者が活躍するとか流行っていたし、そうなるのかもしれない。

 ざまぁ展開は普通に回避したい。だが全てが問題という訳ではないのだ。

 だって――――これって俺が何もしなくても魔王を倒してくれるってことじゃん?


 彼はざまぁしてくるかもしれないという不安要素を持っているが、同時に魔王を勝手に倒してくれるという一つの希望でもあるのだ。


 だから――――俺は彼のことが嫌いじゃない。向こうが嫌って、俺の悪い印象を村の人に植え付けようとしていて、ないことないこと吹き込んだせいで、現在進行形で村の人から糞ガキ扱いされて、ほぼ全員に嫌われかけているという被害にあっているが……なんとか……ギリギリ許せる。




 主人公は一人でいい。棲み分けをしようじゃないか。これからは真主人公君と呼んであげよう。もし、君がこのまま主人公を目指すのであれば、俺は譲る。出会わないように適当な田舎の街にでも行って適当にスローライフでもしとくよ。君は魔王を討伐でもハーレムでも好きにすればいい。


 さて、方針が決まったし、修業でもするか。例え、魔王と戦わなくても漫画の原作知識を活かして鍛えないとな……もしかしたらこれを向けるのは魔王じゃなくて、真主人公君になるかもしれないし……。

 そうならないことを祈りたい。ざまぁなんてされたくないし、したくもない。安牌に生きていきたい。




 

 ――十年後。


 ……真主人公君が行方不明ってマ?

 しかも、それで魔王軍がかなり侵略してきてて終末系世界になりつつあるって……


 ――うっそだろ……


 

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