第五話 再会



 何事もなく時間は過ぎてゆく。

 15歳の時に村を出てから一年以上の時が経ち、一ヶ月程前に誕生日が訪れた俺は16歳になった。

 そして、未だに旅には出ておらず、グレッグさん達と出会った街――『ユーレン』にいる。



 俺は相も変わらず、たまに依頼を受けて、その時間以外はグレッグさん達とギルドの酒場で雑談するという、夢のない冒険者生活を送っているのだが…………ここ最近は酒場に立ち寄る冒険者がかなり増えた為、満席で中々座れなくなってしまった。俺の憩いの場が………………。

 

 で、客数が増えたことで、必然的にいつもよりギルドの酒場は活気がある。

 こうなったのは一時的なものだと思うので……時間が経てばいつも通りに戻るだろう。


 理由は多分、不安から解放された反動とかだと思う。

 

 俺が今いる街――『ユーレン』も属しているユースティア王国と、軍事国家であるベルクラント帝国の関係はギクシャクして軽くやり合ったりしていたのだが、つい最近和解した。そこには一人の少年が立役したということで、新たな英雄だと噂になっている。

 冒険者も普段から戦っている集団なので、国が不利になれば、駆り出される可能性が高い。

 これに対して、冒険者――少なくともグレッグさん達は、盗賊を倒すぐらいなら良いが、国同士の戦争なんて大規模な殺し合いには参加したくない、と歓迎していなかった。

 多分、他の冒険者も同様だろう。そんな、いつ戦争がどうなるかと戦々恐々としていたところで、まさかの和解だ。羽目が外れても仕方がない。



  


 王国と帝国の関係悪化――そして和解。

 あれ? どこかで聞いたことがあるって?

 そう、漫画の第一部のストーリーだ。戦争を止めたという英雄も十中八九、真主人公君だろう。 

 彼はこの一年間で、解決してみせた様だ。順調そうで何よりである。



 第一部が終わって、半年程時間が空いて、そこから第二部の魔王編が始まるというスケジュールなので、今は休暇中かな。



 

 何はともあれ、俺がのんびりしている間にもう原作の半分が終了したということだ。

 本来の主人公がいなくても、真主人公君が上手いことやれているので、このまま任せても大丈夫だろう。



 でも、第二部って一気に強さがインフレするけど、どうやって真主人公君は付いていくんだろ?

 正直、一般の村人のスペックだとどうしようもない気が……隠された力とか? いや、絆とか愛で無限にパワーアップしてどうにかするのかな。……うーん、考えても分からん。

 多分、王都にいるんだろうし、もう二度と会う機会なんて来ないだろうから、遠く離れたこの地から取りあえず応援でもしとこ。

 直接駆けつける様なことはしない。会いたくはないのだ。

 





 

 なーんて、フラグっぽいことを思ってしまったせいなのか、すぐにフラグ回収してしまった。

 



 多くの冒険者達が依頼で街を離れている昼間。

 働く冒険者達を酒場で高みの見物をしていた俺に罰が当たったのかもしれない。



 それは、望まない再会だった。



 

 

 冒険者ギルドの入り口の扉がゆっくりと開かれた。真っ先に入ってきたのは、一人の男。そのすぐ後ろを三人の女が付いていくのが見えた。


 ――ハーレムパーティーか。スゲェ。


 なんて俺は、呑気に観察していた。そいつらの姿をしっかりと確認するまでは。



  

「予定通りこの街で何日か活動しようぜ。

 宿について荷物を置いたら、自由行動な」


「自由行動……えへへ~、じゃあ私とデートしようよ、カイン君!」


「何抜け駆けしてんのよ! カインはアタシとデートするんだからね!」


「私もデートを所望する。

 ふっ、それにしてもこの場にいない、王都にいる留守番組は無様だな」



 

 


 …………ハーレムパーティーは、真主人公君とその愉快な仲間だった。


 ――うわぁ…………まじかよ


 ハーレムメンバー全員、漫画において見覚えがある面子だ。


 一人目。桃色の髪で、背は低めの可愛い系の女の子。名前は、シェリカ。魔法使いで漫画でもヒロイン的な立ち位置の仲間だった。この子はまだいい。想定の範囲だ。

 

 問題は二人目からだった。


 二人目、青い髪のポニーテールの女(名前忘れた)。第一部で登場する敵キャラ。たしか難癖をつけてくる貴族の騎士として登場していた。敵キャラをハーレムの一員に…………マジで何があったんだ??


 三人目、黒い髪の長身の女……ぽっと出の引き立て役のキャラだったと記憶しているが…… あー、忘れた。もう原作の細かい部分は忘れてきた。まぁ転生してから16年も経ってるし、全部覚えておける訳もないか。


 元々暇つぶしで見たような本だから、モブまで覚えている訳がない。推しがいるとかもまったく無いから、原作の~に会いたいなんて願望も無かった。だからかな……未練なくあっさり譲っちゃったのは。

 

 

 それにしても、アリシアのことからも、ヒロインには手を出すんだろうなとは思っていたが、予想を越えてきたな……。さすが真主人公君()、ヒロインじゃねぇ奴までハーレムメンバーに組み込みやがった……。

 さすがに見境いなさ過ぎだろ……。でも戦力的には増加しているだろうし、正しい判断なのかもしれないから、何ともいえない。


 てか、何でこいつらはこの街に来たんだ?

 俺は、真主人公君のハーレムパーティーを眺めながら考える。



  

 あ……やべ。凝視しすぎた。今、真主人公君とばっちり目が合ったわ……。目をすぐそらしたけど、気付かれたか。

 

 は? あいつ何で、にやにや笑いながらこっちに近づいて来るんだよ。こっち来んな。


 ……いや、待てよ。俺が自意識過剰だったのかもしれない。

 俺じゃなくて、俺の後ろの人とかの落ちもあり得る。わざわざ仲が良くもない俺に話し掛けて来るか?

 勘違いだよな? そうであってくれ……

 


「久し振りだな、ブレイブ。

 まさかこんな王国の中央部から外れた街にいるなんて思わなかったぜ」


「……あぁ、久し振り。」


 あーあ、やっぱり俺に話し掛けてくるのか……。

 再会したくないランキング一位に再会しちゃったけど、何も起きないといいなぁ……いや無理か()

 




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