第十四話 平穏? な日々


 最初にルミエラに会いに行った時から、一年経った。少し前に俺も十七歳になっている。

 あれから大きな事は特に何も起こっていなかったんだが……今日、悪い知らせ――いや、悪い知らせなのか?――をギルドで聞いた。


 さて、悪い知らせについては後に話すとして、この一年の空白期間の出来事について大まかに話すとしよう。

 まず、俺のやっていたことだが……基本的には、修行をしながらのスローライフだな。今までとほとんど変わらない。ただ一つを除いて。


 変わったこと――――それは、俺はあれからもテレパシーでやたら来訪を希望するルミエラに、時折、会いに行くようになったことだ。

 そのおかげで親睦も深まり、俺は彼女をルミエラと呼ぶことになった。たしか……三回目? ぐらいの時にルミエラが、他人行儀な感じがするから、光の精霊なんて前につけずに、普通に名前で呼べって怒ってきたので、自然とそうなったのだ。


 そして、光の精霊との日々は、思わぬ恩恵を俺に齎した。……修行がとんでもなく捗ったのである。

 ここ一年程、ルミエラに相談しながら行ったんだが、光の精霊だけあって、光魔法の的確なアドバイスをしてくれたので、そのお陰だ。


 そういえば――原作ブレイブ君もルミエラに教わっていたな。物語の時間的にそんなに長い時間は取れていなかったとかで、物に光の力を纏わせるだけで終わっていたが。ちなみに、原作ブレイブ君はそれを応用して、剣に光を纏わせて戦う戦法である。


 当然、原作での修行は真っ先に参考として、幼少期の俺は実践している。というか、物に光を纏わせる練習をし続け、十歳の頃には出来る様になっていた。 

 その後は、前世で見た光を扱うアニメキャラクターの修行を試してみたり、その能力を再現することを目標にした独学だ。  

 ――そういうことで、基本的な技術を習得済みな俺は、早い段階で「やるわね! 光魔法の扱いはもう一人前よ!」と精霊のお墨付きを貰うことに成功し、テンポ良く新たな技能を身につけていった。

 ……一年後、ルミエラに「……アンタ何を目指してるの?」と呆れた目で見られることになってしまったが。


 

 

 ……うん。目標の前世での知識を活かした能力開発も、何個か完成したので、専門家(精霊)に聞けて良かった、と改めて思う。

  

 ついでに、力を隠している関係上、今まで確かめる術もなかった、俺の魔力量も判明したし。

 せっかく回復するんだから、なんか使ってないともったいないって感じのモッタイナイ精神で、毎日魔力を使い切っていたけど、ここ数年は、使い切ること自体難しくなってきたから、なんとなく結構増えたんだろうな、とは思ってた俺の魔力量は、精霊から見ても、ドン引きするぐらいの魔力量のようである。

 

 

 ……力がいくらあっても損はないと思うし、娯楽が無い中、魔法で時間を潰すのは一石二鳥だとは思うが、ルミエラの言うとおり、近頃の俺は何を目指しているんだろう? と思わないでも無い。


 フィジカル面も、『セリャドの祠』に着くまで全力ダッシュなど走り込みをして、ばっちし鍛え上げた。

 ルミエラは、「……身体も鍛えるなんて修行が好きなのね」と感心したが、彼女は勘違いをしている。俺は魔法は好きだが、肉体面での修行はまったく好きではない。

 接近したら、剣とかの凶器で怪我をするリスクがある以上、怖いし、なるべく遠距離から仕留めたいのである。

 でも、魔力が無くなったら、最後は素手で戦うしかない。嫌だけど。だから、フィジカルも鍛えておいているというだけの話なのだ。

 




―――――――――――――――――――― 


 


 悪い知らせだが、そこまで緊迫した状況でもない。なんてことはない――ただ真主人公君が一回負けただけの話だ。

 

 もう人類の命運を賭けた戦いが始まっている。

 時が来たのだ。原作第二部――人類VS魔族という最終決戦。


 既にシュレクリヒ大陸から魔族が入り込んでおり、ユースティア王国とベルクラント帝国、両国の北部はかなり激戦地となっていると聞く。


 もっとも、俺がいる街――『ユーレン』はユースティア王国の南東にあるので、今一実感は湧かないが……。

 シュレクリヒ大陸は、俺達人類が住む大陸フィリグラン大陸から北方向に進んで、海を越えた先にある大陸。北から攻められるのだから、『ユーレン』に魔族が攻め込んでくるとしたら……当分先のことだろう。


 

 実は、原作とは既に相違点が生まれている。北部は今、激戦地となっていると言ったが、原作ではあっさりと陥落している。

 そうならなかったのは、真主人公君が動いたからだ。

 良いのか悪いのか、俺には判断がつかないが、「魔族が攻めてくる! 王国も帝国も北に気をつけろ! 」的な注意勧告を出して、真主人公君の功績から無視出来ずに北部も準備した結果、なんとか魔族の様子見の部隊を押し留めることに成功したようである。

 

 真主人公君の異名は『先見の英雄』。他にも、預言者とも呼ばれていたりいる。

 どうやら原作知識を、預言ということにして、未来の知識として語っているらしいのだ。

 曰く、その目は未来を全て見通しているとか。曰く、人智を越えた目を持つ史上最高の英雄だとか、色々言われている。

 ここまでいくと、いっそ原作第一部で活躍した真主人公君をユースティア王国が祭り上げて、大袈裟に広めているというのも考えられるな。

 ……同じ転生者としては、未来なんて見てないだろお前と欠片も信じる気にはなれないのだが……事実、いくつも的中させているので、民衆はこんな噂を信じ、真主人公君はユースティア王国の大英雄ってことになっている()

 もし俺が街で、真主人公君のことをペテン師扱いを大声でしたら、石を投げられるレベルだ。


 アリシアも、水魔法での回復が凄まじいらしく、真主人公君の仲間として、原作通り、聖女と呼ばれているし。


 真主人公君→未来を予言する王国の英雄

 アリシア→聖女

 俺→一般の冒険者


 凄いな。

 同時期に村から出たとは思えない程、見事に立場に差が出てる。



 そんな稀代の英雄である真主人公君達一行が敗北したことは、一気に広まり、街の雰囲気はまるでお通夜のよう。平常通りなのは、俺一人ぐらいじゃないかな。

 俺とて、最初は少し焦ったが、考えてみればそこまで悪い事態じゃない。

 真主人公君が死んだとかいう話も聞かない。敗北して、撤退したというぐらいだ。それならどうにでもなる。


 なにせ――原作ブレイブ君もこの時期に一度、敗北してる。


 要するに、負けイベだ。魔族の強さを知らしめるための必要措置。その時点では敵わなくとも強くなった後に再戦の機会が与えられ、その時に主人公が強くなって打ち倒すという王道な展開。


 だから真主人公君達が一回負けた所で、特に驚きはない。

 むしろ人類に危機感やらを抱かせる為にも、一度負けといた方がいい。

 そうしないと、あの組織――――魔族に追い込められた末に、いがみ合い続けてきたユースティア王国とベルクラント帝国が初めて手を取り合って生まれた、いずれ人類の希望になる魔族対策組織の発生フラグが無くなって詰んじゃうし。




 


 ――そして、その二週間後。

 北方地域は、魔族の援軍が来たこともあり、とうとう突破され。この期に及んでも、王国・帝国は協力し合うことはせず、各々の国が抱えるご自慢の主力騎士団を差し向けて、正面衝突。……そして各個撃破され、壊滅。


 いよいよピンチだなって時に。


 とある、魔族に対する対策組織が立ち上げられた。

 

 ユースティア王国の王女 セラス・ファン・ユースティア が、これは人類が一丸にならなければどうにもならないと説き、ベルクラント帝国にも呼び掛け、集めた一騎当千の猛者達を複数抱える人類史上最強の組織。

 

 そんな、魔族対策組織『ソレイユ』――――それに真主人公君達も招かれたという話を聞いた。


 ここから人類の反撃が始まる。



 

 今のところ、原作通り? にうまくいってるっぽい。


 


 

 

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