拾捌:協力者

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」

 月明かりが皮肉にも綺麗だった。

 全身が思うようにならない。

「所詮保安官も、こんなものか。」 


――銃声――

 


 一日明けた、水曜日。四年生の生徒たちは、来たる週末の修学旅行に心躍らせていた。

 あの後、瑛くんはこっ酷く怒られたらしいがなんとか説明して事なきを得た。

 仕掛けられた爆発物も、全て解除を済ませ火葬した。

 後一体残っているという大きな情報があっても、所在が分からないなら元も子もない。

 ただ一つ、昨夜に面白い出来事があった。


 昨日、つまり火曜日。

 時刻も8時を回ったところ。いわゆる満天の星が目の前に。とは言っても僕には星座の知識なんて微塵も無いので、「綺麗ダナー」とただ感想を垂れるだけだった。

 誰も居ない(居るはずがない)校庭にただ一人、警備兼散歩として来ている。周りの大きな広葉樹の木々が風で揺れる中、月と星の灯りが強調される。

「さてと、そろそろ――」

妙だ。校舎の屋上からの視線。間違いなくこの僕を見ている。数は一人のみ。動体視力を駆使すると、正体があらわになった。

「この國では見ない顔立ちだな……異邦人か?」

なお顔は見えていない。

 取り敢えず、校舎に入って正体を暴き出す。

 そりゃあ不審者だったらポリコの所へ突き出すし、職員だったら尋問をしよう。屋上入り口から近いエリアに留まって、正体を探し出す。

「Bonan vesperon!」

(こんばんは!)

その人はすぐに両手を上げた。その動きはかなり速かった。

「Bonvolu turni vian vizaĝon al mi.」

(顔をこっちへ向けてください。)

やはりこの國の人では無かった。

 金髪で色白、凛々しく整った顔立ちに碧眼がより一層輝いている。服装は青いスーツにネクタイ姿。やけにお金がかかっていそうな装飾がなされていた。あと、めちゃめちゃスタイルが良い。東果あずみさんが見たら鼻血出すだろうなぁ。

「Mi montros vin al mia ĉambro, bonvolu sekvi min.」

(私の部屋へ案内します、ついて来てください。)

彼は首肯した。


 いつもの寮室。夜なのでカーテンを閉めている。

「Bonvolu diri al ni vian nomon, devenlandon kaj okupon.」

(お名前と出身国、ご職業を教えてください。)

「Chabre Gina. Naskiĝis en Utopilio. Aĝo estas 23. Ni agas kiel la monda polictrupo adoptita de la Ligo de Nacioj.」

(名前はシャーブル・ジーナ、23歳だ。ユートピリーアの生まれ。国際連盟で採択された、世界警察をやっている。)

ジーナさん23歳男性。ユートピリーアとは、中央部にある永世中立國だ。国際連盟の本部をはじめ、様々な国際機関が置かれている。

「Mi estas Haruno Kirito. Bonvolu nomi min Kirito.」

(僕は春野はるの 霧斗きりとと言います。霧斗とでも呼んでください。)

僕は続ける。

「Antaŭe mi aŭdis pri la Monda Polico, sed mi ne konas tian organizon.」

(先程、世界警察と聞きましたが、僕はそんな組織は知りません。)

「Ne mirinde. Ĝi estis adoptita antaŭ du semajnoj. Ĝi ne povas esti disponigita al publiko ĝis ĝi estas ratifita de la Kongreso.」

(無理も無いだろう。2週間前に採択されたものだからな。議会で批准されないと、一般には公開できない。)

実際、彼の持っていた電脳にはその旨が記されたニュース記事があった。さやに聞いてみても、嘘では無いらしい。


 その後、彼の話を聞いた。

 森中路もりなかしにて人を襲う怪物がいると聞き調査に来ていること、この國の料理は美味しいということなど。僕が、人喰いなら知っている、と言えば彼はとても驚いていた。さらに、なんか協力することになった。

 ちなみに、この國にいる世界警察の人はジーナ1人らしい。


 今思えば、昨晩は何かと忙しかった気がする。

 ジーナさんは自分の部屋で匿っているが、いずれは保安部でも公表する必要はあるだろう。

 時刻は午後3時。昼下がりの秋晴れには、一面に鰯の群れがいる。

 いずれにせよ今日、人喰いとの決着をつける。


 まさか、校長がヒントを残しているとは思わなかった。一人、しかも最近被害は無い。なら、廃屋の体育館にいる他ない。

 寮室のカメラを見たところ、ヤツの言い分は、

「言ったら消される」

という旨だったが、明らかに唇の動きが変だったのだ。ジーナさんに言われるまで気付かなかった。

「タイイクカン ニ ヰル。」

彼に読唇術が備わっていて、本当に良かったと思っている。国際機関の凄腕はレベルが違う。今度教えてもらおう。

 

 そうして午後6時、もう月が昇っている。

 今日こそケリをつけるのだ。ジーナさんにも協力を要請し、戦力を少しでも上げておいた。


「そろそろだな」

その瞬間、体育館の大屋根の大半が爆散した。

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暗躍の保安舞隊 紺崎濃霧 @noumu28

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