第二章 潜入調査―学園編

プロローグ ―懐かしき頃―

 初任務の日から時は過ぎて、今日で長月9月に入る。

 私はその後、小さな任務を詩音しおんちゃんと共に幾つもクリアしていった。

 今はお昼休憩で、霧斗きりと飛鳥瑠あかると三人で話をしていた。


 「これは長くなりそうだな……」

 「なになに?」「また長期任務か。」

霧斗が普段使っているパーソナルコンピューターのディスプレイには、任務の概要が載っていた。

 『こんにちは、春野一課総括。急な達示たっしで申し訳無いが、聞いてくれ。今回、君には、森中路学園もりなかしがくえんに教育実習生として潜りこんでもらう。学園内に人喰いが潜り込んでいるという通報が入った以上、我々はこれを見て見ぬふりをするわけには行かない。検討を祈る。』

 「最後漢字間違えているのダサいなー。“健闘”なのに。」

飛鳥瑠がどうでもいいツッコミを入れた途端、霧斗がこう訴えた。

 「潜入なら飛鳥瑠くんの方が良いと思うんだけどなー。」

 「確かに。明らかに手馴れているのは飛鳥瑠のはずなのにね。」

三人とも黙り込んで、

「ま、どうでもいいか。」

という結論になった。すると、

 「どうかされたんですか?」

出張から帰ってきたのであろう妹の紗弥果さやかが顔を出してきた。

「霧斗が今度、森中路学園に行くんだってさ。」

「ああー。あそこの先公センコーたちには世話になったな~。懐かしい懐かしい」

「あはははは……」

霧斗の苦笑。無理もない。

「そういや、礼別花れべっか先生、元気してるんかな?」

北見きたみ先生も。懐かしー」

三人は思い出に浸っていた。一方の紗弥果はポカンとしていた。無理もない。

「四年生の修学旅行にも行けるって。楽しみ。」

霧斗はその旨を示すところに指を指した。

「修学旅行かー。確か河都かわと(国境沿いの多文化融合都市)に行ったんだっけ。何年前だ?」

「飛鳥瑠くんが新幹線でぶっ倒れて少し騒ぎになったのはよく覚えているよ。」

「あったあった!」「そういえばそんなことが……」

「飛鳥瑠で言えば、卒業式でも倒れてたよね?」

「確か、貧血?」

「あったあった。今でも面白いねそのネタ。」

「止めろぉ、止めてくれぇ」


 「というわけで、しばらくの間頼んだよ。」

 「はいよー。」

飛鳥瑠くんに見送られ、僕は事務所を後にした。

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