伍:起源のメモリー

 目の前に広がるは、様々なたぐいの武器の数々。狙撃用のライフルからリヴォルバーまで、多種多様な銃器が壁にかかっている。その他にも東方の刀や中世のつるぎ、手榴弾や軍部御用達の毒ガスまで。かなり物騒な品々が保管されているのである。

 部屋は少し薄暗い中、白熱電球が一つのみ灯っている。鉄筋コンクリートの打ちっぱなしの壁が、綺麗な明暗を作り出していた。


 「な、何ですかここ?」

私は霧斗きりと君を見た。壁にかかってあったライフルを一丁手に取り、興味津々に見ていた。

 「帝國保安部森中路交番ていこくほあんぶもりなかしこうばんの武器保管庫さ。古今東西、南北統一の品が揃っている。」

 そんな冗談をかましながら、今度はハンドタイプのリヴォルバー?のハンマー部分やらなんやらをカチャカチャしていた。

 「こん中から好きな品を選んでくださいな。」

 今度は年季の入った刀の刀身を鞘から半分ほど出し、輝く銀色を眺めていた。放任主義な霧斗君だったが、お構いなし。色んな品々を拝見した。

 一番多くの種類を持っていたのはやはり銃器。ライフル、ハンドガン、テーザーガンなど。その顔触れはそうそうたるものであった。

 剣や刀も色々。長刀なぎなたや白刃の槍、はなの矛など色々。

 だけれどただ一つ、とびきり私の目を引くものがあった。ひと際異彩を放つ代物だった。

 「開けていいですか?これ」

指を指した。茶色の重々しい様子の木箱に。所々に金属で装飾が施されていた。

 どうぞ、と返事が返ってきたので、両脇の金具を解除し、中身といざご対面。

 「わあっ」「んん?」

 まるでお話の世界。(合ってます。)中身は金色の光線を程よく輝かせ、過ぎるとそこにはミニPC本体程の大きさの機械が一つ。マイク付きヘッドホンと共にたたずんでいた。

 「かなり古い品を取りましたね。」

 「何です、これ」

 「これ?これはね……」

ゴクリ

 「僕にも分かりません!」

ずこーっ。盛大に転げ落ちた。

 「知ってる雰囲気出さないでください。」

 「あっ説明書だ。」

 「無視をするなっ!」

霧斗君はトリセツをパラパラとめくった。彼は難しい顔をして、

 「これは……古語、なのか?」

私に見せた。

 「『汝これ渡さば、天につかひて地に応じなん。』だってさ。ナニコレ。」

 ‘おまえにこれが渡れば、天はその願いを叶え、地はその願いに応じる。’翻訳するとこうだ。

 「手ぬぐいあります?奇麗なの。」

霧斗君は廊下を飛び出てすぐに白い手ぬぐいを持ってきた。受け取って、軽く機械類を拭いた。ヘッドホンを頭にかけて、マイクを軽く調整した。


 左手を軽く添え、瞳をつぶり、トリセツ通り唱えた。

 「天に応じて地に応じろ、時空移動!」

その刹那、暗い眼の中でも分かる明るくなった。光が去ったのは数秒後。

 目を開けると、そこは武器庫ではなく、一階の入り口にいた。

 霧斗君は目を丸くし、首を右に90°、左に180°、また右に90°動かし、

「えええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーッッッ!?」

叫んだ。その場近くに居た職員らの視線が彼を一直線に走ってくる。

 状況を一時的に把握した彼は、

「ヴヴン、失礼」

そう言いながらネクタイを結び直し、目をこすった。走る視線は180°方向を変え明後日へ走り出し、仕事に戻った。

 彼はなんとも言えない驚きの顔をしてこちらを向き、

「どゆこと?コレ?」

そりゃあそうなるだろうに。案の定聞いてきた。私はトリセツを開いて渡した。

 「『力なんざや亡く取るありてまたふなう。こげん、極東こずまのときへ渡らんさば。』どゆこと?」

 直訳すると、

 ‘労力は亡くなるまであってないもの。極東へ旅に出るのなら、極力少なくすべし。’

という内容になる。

 「要するに、移動の時間は無駄だ!という古代人のサボりたさが生んだ代物なのさ。」

(霧斗:解釈の仕方……)


 「またお越しください。」

先程の青年が深々とお辞儀をして見送ってくれた。適当に会釈をして、事務所を後にした。

 三時を過ぎた日向町ひゅうがちょうは、海の水面に斜陽前の陽が差し、町は南西の光に照らされていた。

 「帰ろう!ってことで、瞬間移動してよ。」

 言われるがまま、私は機械をセットした。耳にはヘッドホン、機械はショルダーホン見たく肩から提げてみた。

 「でも、まあまあ遠い距離だよ?古世こよ、行けるかな?」

 「古世?」

 「このコの名前。流石に呼び名くらい決めてやらないと。あなたのさや駿河するが浪漫砲ろまんほうと同じよ。」

 「私の名前は博士が付けてくれたんだぞ!」

突然、清が断言した。久し振りに清の声を聞いた気がする。

 「急にどうした。」

 「ふふん、ずっと寝てた。それでこの古世?って奴は何か言わないの?」

 

ピピッ(起動音)

 「古世かぁ、、古世、古世。」

 「古世が喋った!!」「古世が喋った!!」「古世が喋った!!」

 その声は、どんな歌姫よりも高く澄み、どんなテノール歌手よりも荘厳な声を発した。機械音声っぽい、荒いスピーカーの音が玉に傷だった。それであっても、美しいことには変わりない。古世はとても満足そうに名前を連呼していた。

 「和多志わたしの名は古世となりました。東果《あずみ》さんの忠実なしもべとして一生を添い遂げます。」

 (一つ間を開け)

 「機械が喋っている……だと!?」

 「飛んだブーメランだぞ、清。」

 そんなやり取りの中で、私は古世の話の中、一つピンとこなかった所を覚えた。

 「何故、古世は私のことを『東果』だと知っているの?」

 「そういえばそうだな。『東果さん』って呼んだ覚えも無かったし。」

霧斗君も気づいた様子。明らかにおかしい。

 「失礼ながら、和多志に備わった『記憶スキャナー』で東果さんの記憶を読み取り、信号として受得しました。とても善良な方だと認識しました。」

この機械、よく分かってる!!!

 「じゃあ、現代語で喋っているのもそのおかげか。」

 「はい、義務教育のビジョンから学習をしました。」

賢い。

 「と言うことで、古世、瞬間移動。」

 「どちらに致しましょうか。」

 「霧斗邸へ。行ける?」

 「行きたい所を強く思って下さい。脳受信のうじゅしんから一気に飛ばしましょう。」


 ということで帰ってきた。まだ日没とはなっていないが、周りに立つ木々のお陰で夜の始まりを感じられた。

 私たちは古代人の遺したトリセツを片手に、古世と会話を交わした。よくできた精巧な作りで、なんと各種部品の設計図まで付いている。寸法は流石に現代のものとは違ったが、古世の換算機能を使えば大丈夫だろう。

 古代に作られた清。と表現しても何ら不思議ではない。

 「昔にそんな技術があったの?」

私たちがそんな事を聞くと、

「和多志からはお伝えすることが出来ません。数年前までは ロストテクノロジー に分類される技術だったようですが、最近の科学の発展に伴い、和多志もさほど変わらない待遇を受けるようになりましたね。」

決まって口を紡ぐ。触れてはいけないことに触れたくなっちゃうやつ。角井かくい博士に今度調べて貰おう。

 「記憶スキャンに瞬間移動、他には何が出来る?」

霧斗君が興味を示し聞いた。

「一通りの天変地異は可能です。後は、自我保存機能じがほぞんきのう身体保存機能しんたいほぞんきのうがまだ遺っているはずです。」

 しれっと恐ろしいことを言ったのち、霧斗君がさらにこう質問した。

「自我保存と身体保存について詳しく。」

「何らかの衝撃が自我に来た場合に、その自我意識が吹っ飛ばないようにするのが自我保存機能です。身体保存機能は、いわゆる不死身の体に近くなり、ケガをしません。弾丸が飛んでこようが、その場に隕石が落ちようが、老衰と病気以外で死ぬことはありません。」

 「すげー有能。東果さん、やって見せてよ。」

 「ええっ?ちょっと、待て、めてええええ!」

 霧斗君が素早く銃にゴム弾を一発 装填し、腕をピンと伸ばすと、轟音と共に弾が発射された。ゆるがない軌道が真っ直ぐに私を目掛け、殺された!!と思ったら、、

 「嘘、何が起こったの?」

 「東果さんの身体に危険が生じようとした時、防護膜が一時的に張られ、あなた様をお守りします。」

 「実際、ゴム弾は消えて無くなったよ。」

 「そのゴム弾は何処に?」

 「無い。防護膜に触れたと同時に燃え尽きた。大気圏に入った極小の隕石見たくぢり(散り)になったよ。もっかいやる?」

 結構です。けれどそれは無意識のうちに消えてなくなっていた。零下秒にまで及ぶ処理を古世はしたのだろう。


 「今は燃やしましたが、他にも東果さんの身体をすり抜けるように出来たり、触れた瞬間に相手へお返しすることも可能ですよ。」

 恐ろしや、古代文明。

 「さあ、武器?も決まった事ですし、時期もよろしいでしょう。」

霧斗君が何故か話を切り出した。月が顔を出し始めた頃合い、辺りはすでに暗くなっている。

 「実践、行きますよ!!」


 「ちょっと待て何言ってるの!」「やりましょう東果さん!」「れっつらごー!」

 でっどおああらいぶ な戦いが始まってしまった。

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